『子猫亭』の親父さん、父として3人娘の背中を押す決意をする
「そこらへんでシメにして貰えるか?俺からもケン坊に話があってな」
「チッ、飲み足りねーが親父さんが閉店だってんならしょうがねー。おいエリクト、マユミを運びな」
「彼女は私達が4号室に寝かせておきます。今日はあの騒ぎで他に客もいないので安心して下さい」
俺と2人きりになると、親父さんは珍しく自分から話し始めた。
「ケン坊、あいつらに俺の事『お父さん』って呼ぶように言ってくれたんだってな。ありがとうよ。こいつは俺の奢りだ。つまみながら聞いてくれ」
師匠達が(俺の稼いだGで)たまに取ってるスペシャル高級おつまみセット。いっぺん味見してみたかったんだよね。でも、いつもと違って白い粉がかかってるのは何で?
「上の粉は何ですか?白いの」
「ああ、『子猫亭』自慢のスパイスさ。レシピは秘密だ、カンベンな。さあ、やってくれ」
飴色の生ハムに、硬く干したソーセージ。ギュッと濃縮した肉の旨味と強い塩味が、激しいバトルで疲れた体に染み渡る。その横にはスルメにイカゲソに、あとサザエみたいな貝殻を器にして盛ったこれは?
「クラーケンのアタリメとカリュブディスの汐干しだ。浜では小ぶりで新鮮なのに魚醤を垂らして焼くらしいが、海の物は干した方が断然旨い。カリュブディスは硬いから海鮮スープで煮戻してある」
サザエは向こうでも食べた事がない。試しに噛んで見ると、ゴリゴリした歯ごたえながら噛むたびに溢れる貝の旨味と磯の香りがたまらない。こっちに来て山の物ばかり食べてたけど、日本人なら海の物だよね!くあーっ!旨い!
更にこの、ふんだんにかかったスパイスのピリッとした刺激と、ほろ苦い味は何故だか癖になりそう。ポテチを食べてる感覚でつい指を舐めてしまう。うん。この指が美味しいんだよな!
「お前さんが么九達と話してる間に村長や職人達が来てな。お前さんの獲物を買い取りたいって、みんなの貯えを持ち寄ってくれたんだ。この金はお前の物だが、これで『子猫亭』の借金を返すって事で、お前さんと話はついてるってな。お前さんは夜の『営業』に反対してたからって。本当にいいのかい?」
「はい… 別にお金が欲しくて…戦ったわけじゃ… ないんで…」
「考えてみりゃ俺にはあいつらを止める勇気がなかった。親だってんなら、ローザが夜の仕事で借金を返すって言った時に殴っても止めるべきだった。全てお前さんの言う通りだ」
「何でも… 親の言う通りに… しろって事は… ないけど… 親として… 正しい方向に… 背中を …押して… あげたら… いいと… ぐう」
「おい。おい!おーーーーーい! 寝ちまったか。やっぱ良く効くな、御禁制『ヒュプノス印の睡眠薬』は。おーい、もう出て来ても大丈夫だぞー」
カウンターの向こうからヒョコンと顔を出したのは、いつもの3人娘。みんな期待に目を輝かせている。
「ケン坊、寝た?」
「寝ちゃった?」
「わく、わく」
「よーし俺が担ぐから、么九達に気付かれないようにな」
「それじゃあケン坊を7号室へ!」
「特別室に!」
「ごしょうたーい!」




