師匠、吠える
俺達は何とか細い山道を抜けて、荷馬車が1台は通れそうな道に出た。ここまで来たら村まであと少し。
俺と手を繋ぎ、星より明るい地上の光の河に照らされ歩きながら、真由美は言う。
「もー。誰彼なしに助けてソノ気にさせて、ライバルを際限なく増やすのはやめてよねー。それで昔っから何をするにも3人だし。さくらやいーさんだってケンちゃん狙いなんだからね!」
「何言ってんだよ!部長は来生と公認カップルだし、いーさんが俺を好きなワケないだろ」
真由美も『学年1の美女』と呼ばれていて、中学の後輩女子にはいまだに『真由美お姉さまファンクラブ』があるらしい。
だが飯田真由美に至ってはそれどころじゃない。別格だ。いわく『学園の歴史始まって以来トップクラスの美少女』だ。その飯田真由美が俺狙いとか意味がわからない。
確かに彼女も我が漫研の幽霊部員ではある。でも家庭の事情でバイトばかりで、部活と称するロボット談義やSF談義にすら参加してない。接点ゼロなんですけど。
「何を根拠に言ってんだよ?」
「女の勘よ!」
「だいたい俺、モテた事ないんですけどー。バレンタインのチョコだって母さん以外に貰った事ないし!」
すると真由美のヤツ、ニヤニヤしながらこう言いやがった。
「何言ってんの? 毎年、私がライバルを追い払うのにどれだけ苦労してるか知らないんですかー? 後方尾行に前方尾行。電柱の陰やブロック塀の向こうにいるターゲットを睨んで追い払って、靴箱や机の中身を廃棄して」
「な… 何だってーーーーー!」
こっちに来てから初耳の話が多過ぎるよ真由美。まー向こうに帰る術がない今、真偽を確かめる方法なんてないんだけど。
ここまで話して… あ、部長や飯田真由美の話は省いたけど、ここまで話して俺は師匠と先生に言ったんだ。
「最初は真由美と2人、元の世界に帰る事だけを考えてました。でも今はそれだけじゃない。真由美だけじゃなく、ローザ、リラ、カティー、あの3人も幸せにしてあげたい。あんないい娘達が幸せになれない、この間違った世界を変えたい、そう思ったんです」
これで少しは見直してくれるかな。そう思って言ったのに師匠は心底呆れたという顔をした。
「はぁ?小っちぇーわ。小っちゃ過ぎるわ。『あの娘達を幸せにしたいんだー』ってナニソレ引くわー」
「ばーっはっはっは。么九はあなたが神々の宇宙的陰謀の走狗ではないかと聞いたんですよ。それでその答えとは。ばーっはっはっは。いいでしょう。私は気に入りました」
「チッ、しょうがねーな。オイ、それを見ろ」
師匠が顎をしゃくって、さっきテーブルに落とした泡のハエを指して言う。
「テメーはそのハエだ」
俺ハエ!?
そして師匠は俺の上にジョッキを叩き付けた。
「そしてこのビールが世界だ!」
俺潰れたーーー!
「こんな物ぁこうして!」
師匠はジョッキを持ち上げてガブガブ飲み始める。あの…俺がジョッキの底に貼り付いてるんですけど。
「こうすれば!」
逆さにしてドガンとテーブルに置く。
「テメーが天辺だ! 世界なんか飲み干しちまえ!」
「神話は語ります。 天空神を倒した12巨神が世界を奪った。そして12巨神を倒したオリュンポス12神が世界の支配者になったと。歴史は繰り返す。弱い子の世代が、強い支配者である親を倒して世界を手にする。それが、この世界の神話的原型なのです」
そう言えばあの時。神殺しの共振を通して、空の向こうで見ていた誰か… 多分女の、声が聞こえた。
『神話的原型は成った』と。




