最大戦力 VS 最大戦力
何も見えない。
俺の指から迸った5本の閃光は、淵の水を底まで切り裂き天空へと吹き上げた。その巨大な水の壁が視界を遮ったんだ。
一瞬の後、冷たい水が空から滝のように降り注いだ。みんなは無事か?いた!真由美、ローザ、カティー! 転びそうになりながらこっちに走ってくる。そして俺の足下にリラ。全員無事だ!
双頭犬は全て倒れた。勝った! ほっとして真由美に声を掛けようと視線を戻し、俺は異変に気付いた。真由美の後ろから音もなく伸びた黒く針金のように太い毛が、蛇のようにうねうねと蠢き彼女に絡み付く。
長いたてがみで彼女を絡め取り、自らの首の上まで空中高く掲げながら、俺が作った滝のような水の壁から姿を現したのは。体高4メートルはあろう巨大な漆黒の三頭犬だった。
(イラスト:着道楽さん)
そう言えば大賢者が言っていた。
『しかし妙ですね双頭犬は本来もっと巨大な漆黒の魔獣。お2人が出会ったのは恐らく雑種です。双頭犬が大型の山犬と番って子をなしているのでしょう』
ほぼ当たり。だけどコイツは予想より数段上だ。一体どこに隠れていた?
俺達を傲然と見下ろす魔獣。その視線を浴びると俺の影に隠れた3人はガタガタと震えだした。1番幼いカティーは温かい湯気をあげて漏らしている。当たり前だ。コイツは俺達を喰おうとしているんだ!
その時、俺のすぐ耳元に誰かが小さな声で話しかけた。1人ではなく、大勢の、ちいさなちいさな声が。
「ここはあぶないよ」
「はやくにげて」
「みずがくるよ」
「うえにいって」
「もうささえられない」と。
水が、危ない? この化け物より危ない物がどこにある? だが最後の声に呼応し、俺が拳を振るった先にある、沢を挟む切り立った山肌がビキビキと耳障りな音を発し始めた。
対岸の断崖絶壁に俺が刻んだ5つの巨大な爪痕が内圧に耐え切れず、ひび割れ、広がり、そこかしこから水が噴出している。
そうだった。この川の青い水は巨大な山脈を成す石灰岩に穿たれた鍾乳洞を水源とする。俺の爪は、この尖った山脈を流れる地底の川、そのそこかしこに散在する巨大な地底湖にまで貫通していたのだ!
「みんな落ち着いて。こいつから目を離さずゆっくり後ろに下がれ。岩肌に着いたら上に駆け上がるんだ」
だが、足がすくんだのか誰も動こうとしない。
「ローザは一番お姉さんだろ? 2人を連れて逃げて」
「みんな、行くよ!」
お姉さんと言われ我に返ったローザが言った。やはり1番のしっかり者だ。
「でもケン坊はどうするのさ?」
「俺は、コイツを・・・ 潰す!!!」
犬は逃げる者を追って噛む習性がある。俺は胸を反らし、三頭犬を睨め付けて念じた。俺は強い!貴様より強い!俺と戦えば、死ぬのは貴様だ!
三頭犬は俺の実力を測るかのようにじっと動かない。やがて3人が岩盤の斜面を登りきった時。小さな声が叫んだ。
「もうだめ!」
その時、轟音と共に、山肌に刻まれた爪痕を内側から吹き飛ばし、車より大きい純白の岩塊を数え切れないほど含んだ青い奔流が、俺と魔獣を押し包んだ。その直前、俺達は、その音を皮切りに互いに向けて突進していた!




