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幼馴染のツンツンな委員長が、異世界では俺にデレデレなんです  作者: 松林ゆきひろ
【幼馴染と異世界へ】
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はじめてのキス

「ばーっはっはっは!それで私は女神に言ってやったんです。こんな仕事はもうやってられない、辞めてやるって。聞こえてる?聞こえてますかーー!?ばーっはっはっは!」

 聞こえてます。声が大きいです。安ワインをしこたま呑んだオッサンはスッカリ出来上がっていた。

「それでこのドアホウは大神官をクビになって、ただの修行僧(モンク)にクラスチェンジしたってワケだ、ケーケッケッケ!」

 もう外は暗くなっている。3時間だか4時間だか、酒臭くて声のデカい酔っ払い2人の相手をするのは正直大変だ。だが、この世界について随分詳しい話を聞くことが出来た。


 この村は山際(やまぎわ)にあるアルケー村。ワインと沼亀が特産品であること。


 プロレスラーのオッサンは大賢者エリクトニウス。かつては大神官として神殿に保管された神話・魔導書・禁書・異本を読み漁り、あらゆる呪文を(そら)んじていること。

 女神に純潔を誓うことを代償に鋼鉄より強い肉体とオリハルコンの手甲を手に入れたこと。

 今は修道僧(モンク)であり物理攻撃専門であること。

 嘘か真か中級神までならグーパン1発で倒せること。


 女戦士の名はヤオチュ。極東から北方ルートで渡って来て、女盗賊団の首領におさまったこと。

 大神官、つまりプロレスラーのオッサンの隊列を襲って取り押さえられたこと。

 女神に気に入られて勇者にスカウトされたこと。

『勇者の証』を貰って速攻で道具屋に駆け込み売り逃げようとしたこと。

 買い取りを拒否され、そもそも外せないと言われて愕然としたこと。


 各地の都市(ポリス)の議会では議員を民主的に選出していること。

 といいつつ実態は世襲で働かずに高収入を得ており、民の大半はその所有物であること。

 この世界ではあちこちに大型の猛獣(モンスター)が潜んでいること。

 腹を()かすと家畜や人が襲われること。

 東方の砂漠の地下迷宮に冥王の神殿があること。

 数年に1度、冥王が地上に出ると猛獣が巨大化しレイドモンスターとなって大被害をもたらすこと。

 都市(ポリス)の軍勢では手も足も出ないこと。

 各都市(ポリス)は神殿を中心に複数の結界を張っていること。

 冥王軍は砂漠を侵攻しつつレイドモンスターを操り結界を外から順に破壊していくこと。

 レイドモンスターが発生すると、魔法や戦技など特殊スキルを持った戦士が最大20人1組のパーティーを組み、交代で討伐にあたること。

 同時に勇者が砂漠で冥王を迎撃すること。

 冥王の出現とモンスターの大型化は連動するため、モンスター討伐依頼と討伐結果はギルドで一元管理し逐次神殿に報告していること。

 ギルドは報酬の半分をピンハネしていること。

 それは情報網の維持に必要なコストであること。

 とはいえ幹部は碌に働いていない癖に高給を取って贅沢三昧していること。

 端金(はしたがね)で大沼亀討伐のクエストを受けたのは物のついでで、次代の勇者を異世界から召喚するとの神託があって来たこと。

 などなどなどなど…

 これだけ聞けば今日はもう充分だろう。


 村は久々の獲物に沸き返り、まだ金が入ったわけでもないのに大勢の男達が『子猫亭』に押し掛け、前祝いとばかりにどんちゃん騒ぎだ。リラと、開店直前に起き出して来た赤いエプロンのローザ、黄色いエプロンのカティーも男達相手に時折り交代で抜けながら目まぐるしく働いている。亭主によると酒場と『子猫亭自慢の花』である彼女達の営業は深夜まで、繁忙期は朝方まで続くとの事で、とても付き合いきれない。


「すみません、今日は疲れたんで休みたいんですけど」

「夜はこれからなんですがねぇ。部屋なら取ってあるので亭主に聞いて下さい」

「何から何まですみません」

「礼には及びませんよ。飯代と宿代は分け前から前払いで引いてありますから。ばーっはっはっは!」

 どうりで少ないわけだ!


「部屋なら2階に上がって正面の4番だ。金は受け取ってるから上がってくれ」

「あの…(ひと)部屋なんですか?」

「夫婦なら(ひと)部屋で充分だろ?あとはあの2人の分と、営業で使う3部屋で埋まってるからな」

 良くわからないけど商売に使うのを無理にとは言えない。

「あの、私達まだ高校生なんです」

「コーコーセーというのはよくわからんが、16,7なんだから立派な夫婦だろう」

 話が噛み合わないのでよくよく聞くと、リラ達のような酒場の花はともかく、普通の娘は14まで自宅から外に出ず、15で結婚して外に出る習わしらしい。16で俺と外歩きをしている真由美は自動的に俺の嫁判定となったわけだ。

「まーとりあえず部屋を見て考えてくれ」

 鍵が出るのを待っていたが、亭主は俺をジッと見つめ返すだけだった。沈黙が流れる。

「あのー。鍵を貰えますか?」

「鍵なら内側から(かんぬき)をかけるんだよ」

 日本のホテルとはだいぶ違うようだ。

 空きが1つしかないならないで仕方ない。戸惑いつつも、とりあえず見てから考えようと手を繋いで暗くて狭くて急な階段を上がると、片側が月明かりの差す外壁沿いの廊下に出た。向かいには扉がずらりと6枚、有り得ない程狭い間隔で並んでいる。

 右奥突き当りの窓の下には例の壺が2つと、使途不明の荒縄が数本。

 左奥の突き当りには7枚目の特別立派な扉があって、この部屋は見た目通り特別高いに違いない。

 内側に(かんぬき)の付いたボロッちい木戸を引き開けると、中はほとんど真っ暗で何も見えない。しばらくして目が慣れると、全部で2畳ほどの部屋に1畳のベッド。俺はそのまま固まってしまった。真由美が後ろから覗き込んでいるが暗くて背中越しではよくわからないようだ。

 やにわに階段からカティ―の声が聞こえた。誰かと話しながら上がって来る。トントンと軽やかな足音が響く。ものの数秒でバッタリ出くわす事になるが、こんな時にどんな顔をすればいいのかワカラナイ。それは真由美も同じだったようで、慌てた彼女は俺を押し込むと内側から(かんぬき)をかけてしまった!


 真由美はこちらを向いて声を押し殺している。カティ―の声と足音は右の部屋に入って行った。しばらくすると真由美も目が慣れたのか、自分がどんな所に連れ込まれたか気付いたのだろう、はっと息を飲む気配。狭苦しい部屋に、使い込まれて湿っぽい匂いのする汚いベッド。

 左隣の部屋から、先に『休憩』に上がった(はず)のローザの嬌声が聞こえる。何を話そうか決めあぐねているうちに真由美の方から小声で話しかけて来た。

「するの?」

声が震えている。

「しっ、しないから」

俺の声も自分でビックリするほど震えていた。

「でも、男の子は、好きな人と、したいんでしょ?ケンちゃんは、私の事が、好きなの?嫌いなの?」

 真由美は必死に吐き出すように詰まり詰まり話す。いつの間にか『ケンちゃん』に戻っている。その事に喜ぶ余裕は今の俺にはとてもなくて、つい大声を出してしまった。

「すっ!好きだけどっ!」

ドンッ

 左隣のローザの嬌声が止むと同時に誰かが左の壁を叩く。

ドンッ

 すかさず右隣の誰かが叩き返して来た。俺はいたたまれなくなって、真由美の手をギュッと握り締めて小走りで階段を降り、酒場を駆け抜けて外に飛び出してしまったんだ。



 俺と手を繋いで川沿いの低い縁石に乗っかり、フラフラとバランスを取ってゆっくり、てく、てくと歩く真由美。踏み出すごとにポニーテールがひょい、ひょいと左右に揺れる。月明りに照らされた後れ毛と、白い首筋が(なま)めかしい。道の先には街灯も商店もなく、月明かりと星空だけが頼りだ。


「ねえ。さっき、何て言ったの?」

 突然、真由美が聞く。予想はしていたけど、心臓がバクバクいうのは止められない。

「好きって、言った」

「もう一回、言って」

「好き」

「誰が好きなの?」

「真由美」

「続けて言って」

「俺は、真由美が、好き」

 真由美は縁石をぴょんと降り、両手を後ろに組んで、下から俺の顔を覗き込んだ。目に涙がにじんでいる。

「じゃあ、許したげる」

 何をだよ、という前に真由美はくるりと背を向けて勝手に話を続ける。

「あーあ。もっと早く言ってよ」

「だって俺が見たら真由美、顔真っ赤にして(にら)むだろ、いっつも」

「何よ!私が『ケンちゃん大好き!私を見て!』ってテレパシー送っていたのに気付いてなかったの?」

「そういう事は口で言ってくれよ」

 エスパー(死語)じゃないんだから。


 それから俺達は、月明かりの下で川沿いの土手に座って、咲き誇るマリーゴールドや、天の川や、時折り降る流れ星を見ながら、いっぱい話をした。

 教室でずっと真由美を見ていたこと。

 嫌われたと思って目を合わせられなかったこと。

 真由美と来生が生徒会に入って嫉妬したこと。

 高校も同じクラスで嬉しかったこと。

 本当はずっと前からこうしたかったこと。


 今後の事も話した。

 ここは、おかしな話だがゲームの世界だってこと。

 ゲームだから勝ってハッピーエンドになるよう出来ていること。

 現に最初から凄い武器を装備しているらしいこと。

 勝ったら日本に帰すと女神が約束したこと。

 ゲームにもよるが最短で攻略したら1週間、いや3日でクリアできるゲームもあること。

 焦ってあんな事やそんな事をして、もしお腹が大きくなったら帰ってから大変だってこと。

 好きだから2人の将来を大事にしたいこと。


 そして、どちらからともなく、降るような星の下で、キスをした。3年間ずっと夢に見て来たように。唇を重ねるだけの幼い、でも、お互いの3年分の思いが込められた、長い長いキスだった。

【アルケー村観光案内】

切り立った渓谷から流れ出る清流に恵まれ、四季折々の美しい花が咲き誇るアルケー村。

薔薇とライラックの季節が終わり、今はマリーゴールドが見頃!

村唯一のホテル(パンドケイオン)『子猫亭』で特産のワインを片手に看板料理『大沼亀(すっぽん)のシチュー』で精力を付けたら、自慢の花達と朝までお楽しみ下さい!

異国風の生暖かいビールもあります!

通常1匹の(トッピング)を今だけ3匹の増量キャンペーン中!

食べ放題、飲み放題、遊び放題60分200Gポッキリ明朗会計!

安心してご来店下さい!

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