クラーケン娘にかわる新キャラクター、満を持して登場
「ってワケでみんなが人工呼吸してくれてたのを女神ヘスティアと一緒に神界から見てたわけ」
「ケン坊、勘違いしちゃってほんとゴメン!」
「勘違いは誰にでもあるよローザ」
「うるうるうる、ケン坊優しー!あっ、肩お揉みしますねー」
「わたしも引っ掻いてごめんね。ケンちゃん死んじゃうって本気で心配してたのに、キスしたくて寝たフリしてたってローザが言ったから」
「アタイのせいかよ!」
俺は海の家『ぽせいどん』の広々とした座敷席で、と言っても日本みたいな畳はなくって石の上に枯れ草を積んで布を敷いただけなんだけど、その座敷に寝そべって真由美に膝枕して貰いながら女子一同に介抱されていた。顔の上には切れ込みのきわどいハイレグ水着を着た真由美のおっぱいと、その間から覗く俺を心底気遣う心配そうな顔。たまにはこんなイベントもないとね。
「リラの引っ掻いた所も治癒呪文で治ったからいいよ」
「ありがとー、はいメロンジュース」
顔を横に向けるとリラがすかさず麦藁を口に入れてくれる。ちゅーちゅー吸うと口の中に広がるメロンの甘み。それ以上に甘々なリラの心遣いが身に染みる。
「あははー、私もイッパイ噛み付いちゃったー」
「傷は男の勲章さ。カティーみたいに可愛い娘になら噛み付かれてもOKだよ。ほら、歯型は治癒しないで残してある」
「やだー恥ずかしいよケント兄ちゃーん」
「もー、信じてたのは私だけー?」
「ありがとう真由美。真由美がいなかったら俺はここまでクリアできなかったよ」
「普通にいなかった事にしないでくれる?私も信じてたからね」
「アレキは真由美に適切なアドバイスを出してくれてたね、ありがとう」
「私がどれだけ役に立つかよーくわかったでしょ?」
「ああ、アレキは凄いよ」
実の所、オッサンとキスしそうになったり70%の確率でロストしそうになったり、あの時はマジでヤバかった。でもココは敢えて黙っておくのが吉。
不満があっても女子相手に正論で殴って遺恨を残すのはマズい。特に女子が多数の時は最悪の結果に繋がる。『私は女の子の味方よー』ってヤツ、これが出たら正論は通じない。女の子は褒めてゴキゲンにして伸ばしてあげる。これがこの世界で俺の学んだ処世術である。我慢ガマン…
「でもケン坊って流石勇者様だよな〜。死んでも神様の力でサクッと復活するんだから最強じゃん」
「まーそれ程でも」
「リラもびっくりしたよー」
「あははー神様とコネがあるなんて凄いよケント兄ちゃん!」
みんな感心してるけど、少し考えさせられたクエストだった。確かに俺は神様の力で蘇った。しかしそれは俺がまだ冥王を倒してないから。どうしても俺を復活させる必要があったからだ。
もし俺がこの勇者の証をドカンとやって冥王と相討ちになったとしよう。その時、女神は俺との約束を守る必要があるだろうか?
村長が言ってたように、約束を破っても死んだら誰もクレームを付けに来ないんだから、報酬など払う必要はないんじゃないか?
約束を破ったら女神に焼き正座させる。そのくらいの力がないと約束を守らせるのは難しいんじゃないだろうか?
「ふぉっふぉっふぉ、生きとるんなら残念ながら報酬が必要じゃのう」
考えに沈む俺に声を掛けたのは、その村長だった。
「じーさん、まだ諦めてなかったんか」
「また熱々の砂浜で正座したいのかしら〜?」
あっ、真由美の額に青筋が!
「これだけの美女に囲まれとったんでは村娘におっきせんのも無理はないのう」
「お・じ・い・ちゃ〜ん?」
「おっと待った。お〜い、お前ら〜」
村長が声をあげると『ぽせいどん』のテーブル席にたむろしていた漁協のいかつい漁師達が、荒縄で縛ったスルメやら素朴な焼き物の壺やらを下げてワラワラ入って来た。
「約束の謝礼、500G相当のスルメとイカ魚醤じゃよ」
「ジジイてめー勝手に現物支給にしてんじゃねーよ!」
「ほう、赤毛の嬢ちゃんには、この募集要項が読めんとみえるの」
じーさんは最初から用意してたんだろう、冒険者急募の貼り紙を取り出すと、その一番下を指差した。
「なお報酬は現物支給となります?小っさ!おいジジー!」
「ふおっふおっふぉ、どのみち主らが採った宝石珊瑚に比べれば端金じゃろ。それに内陸じゃあ、こちらの方が喜ばれよう」
「あのねーおじいちゃん?こんな詐欺まがいの事…」
「待つんだ真由美」
「ケンちゃんは命懸けで頑張ったのに!こんなのおかしいよ!」
うん。そうだね。最終的に命を奪ったのはケロちゃん肉だけどね。
「この村とは今後も良い関係を続けたい。条件を飲もう」
「それが賢明じゃ」
「話は終わったか?」
じーさんがヨボヨボと出て行くと、今度は荷物を運んで来た漁師達が俺に絡んで来た。え〜っと、初日に村興しのオリジナル美少女擬人化キャラ、クラーケン娘を必死に考えたって言ってた人達だよね?
「お前さんに言われて御当地キャラを練り直したんじゃ」
「今度こそ自信作よ」
「この画期的オリジナル新キャラクターを見ずに帰るなんぞポセイドン様が許しても俺達が許さねー」
漁師達は支えの付いた等身大の板切れを3枚運び込んで来た。裏側に新キャラを描いた新作のポップに違いない。
「見ろ!この村で採れる海産物を美少女擬人化した画期的新キャラクター!その名も!」
一人目がポップを裏返した。
「カリュブディスさ…」
「やめーい!」
「その弟の」
ニ人目がポップを裏返す。
「パラミーダく…」
「やめてくれー!」
「妹の」
更に三人目。
「ピューコスちゃ…」
「やめろと言ってるだろうがーっ!」
危なく巨大クラーケンより遥かに危険な存在を召喚する所だった。漁師達が連日の徹夜で生み出した自信作、画期的オリジナル新キャラクター。それが既に他所にあると説得するのは今回のイベントで一番大変な仕事だったよ。
【大賢者エリクトニウスのギリシャまめ知識】
エリクト「ツナ缶やツナサンドのツナの語源はギリシャ語のツナス(突進)なのです!」
ゆきひろ「雑学ばかりの男はつまらないよ」
エリクト「雑学ですと?!」
ゆきひろ「って好きな子に言われた事があってね」
エリクト「お気の毒です」
ゆきひろ「お前も同じだよ!」
エリクト「ソフィアすなわち知をフィロスすなわち愛する、それがフィロソフィーつまり哲学なのです!哲学のない人間は獣と同じ!ちなみに女性名のソフィアやソフィーはギリシャ語が語源!訳するなら智子ちゃんなのです!」
ゆきひろ「駄目だコイツ」




