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幼馴染のツンツンな委員長が、異世界では俺にデレデレなんです  作者: 松林ゆきひろ
【幼馴染と異世界へ】
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酒場『子猫亭』

 俺が大亀の首を吹き飛ばすと、どこからともなく若いのから年寄りまで幅広い年齢の、職人風体の男たちがワラワラと湧き出した。それぞれが用途のわからない様々な道具や、妙な形の刃物を手にしている。

 こんなに人がいたのか。いたんなら助けてくれよ。そう思った俺を、職人たちは特に興味もないという風にチラと見て通り過ぎると、大亀の解体に取り掛かった。


 あるオッサンはテキパキと手の皮を剥ぎ、ある若者は肉を切り取り、ある老人は冷凍魔法だろうか、何やら呪文を唱えて肉を氷漬けにし、「これはいい盾になる」とか「高く売れるぜ」とか「当面、肉には不自由せんの」とか言いながら、それぞれの獲物を驢馬(ろば)の背や荷馬車に手際よく積み上げていった。

「いたた…」

 真由美が立とうとして足首を押さえたが、チュートリアルに沿って治癒(ヒーリング)Lv1をかけてやると()れはみるみる引いていった。



「あの、すみません、ここはどこですか?」

「細かい話は後にして、まずは食事でもしながら報酬を分けましょう。こちらへどうぞ」

 村長らしき老人から小袋を受け取ったオッサンは、身長2メートルはあるプロレスラーのような体に似つかわしくない慇懃(いんぎん)な 口調で俺達を案内した。見た目と違ってその口調と表情には深い知性を感じる。落ち着いて気付いた。右の瞳は(みどり)で左は青混じりの灰色だ。女剣士の方は野生の肉食獣か鷹のような険しい目付きで、値踏みするように俺達をジロジロ見ながら黙って後をついてくる。


 案内されるまま醸造所を抜け、職人達が時ならぬ獲物にせわしなく働く仕事場を通り過ぎると、浅いが澄んだ水の流れる小川に沿った通りに出た。

 荷馬車が1台やっと通れるくらいの、車輪の形にすり減って2本の(わだち)が入った石畳の道を挟んで、向かいには様々な看板を掲げた商店やら何やらが並んでいる。住居になった2階の窓から、チラチラとこちらを(うかが)う視線を感じる。オッサンは通りの奥にある、猫の絵の看板を掲げたひと回り大きい建物に大股でズダズダ歩くと扉を開けて声をかけた。

「早くにすまないが遠くからの客人です。温かいシチューを2つ、私にはいつものヤツ」

 女戦士がぶっきらぼうに一言。

「オレはビール」

 まだ3時くらいだろうに昼間っから酒?

「お前らは何にする?」

「俺達は水があれば」

「生水は腹ぁ壊すぜ。オヤジ、ハーブティーとカップを2つ、こいつらに」

「あいよ。あ、トイレはそっち。大は農家が、小は洗濯屋が買い取るから混ぜないようにな。吐く時は大の方に」

 亭主の毛深い手が示す先には腰掛けるのに丁度いい高さの壺。黄色と茶色が1つずつ。座ると肩から上くらいになる、換気用であろう窓には用途不明の茶色い荒縄が7〜8本掛かっている。

「縄は乾いたのを選んで使ってくれ」

「洗濯屋さんが買い取るんですか?」

 ツッコミ所が多すぎて迷っているうちに先に真由美が聞くと、女戦士がそんな事も知らないのかという口調で答えた。

「煮詰めて洗剤にするに決まってるだろ」

 ツッコミ所が更に増えた。

 黄色い壺には白いワンピースに胸元を強調した膝まである(スミレ)色のエプロンを付けた年頃の少女が腰掛けていた。俺と目が合うと、壺を覆っていたワンピースの(すそ)をひらりと(ひるがえ)して壺から降り、壁から木の丸板を取って茶色い壺と同じように丁寧に蓋をする。

 一瞬、壺を倒さないかヒヤヒヤしたが、よく見ると床が丸く一段へこんでいて、壺はその穴にすっぽり収まり倒れないよう工夫されている。良く考えてある。いや考えるべき所はもっとあると思うが。


 少女は足早に駆け寄ると俺の腕にかき付いた。ふわりと甘い花の香り。瞳をキラキラさせ何やら早口にまくし立てる。

「さっき見たよ!カッコ良かったー!大沼亀の頭をこう、バーン!って一発!凄いねー!強いんだね!今晩私とどう?」

 真由美が血相を変えて抗議する。

「ちょっと離れなさいよ!あなた何?」

「私はリラ!この『子猫亭』のウエイトレスよ!」

「ほい、ビールとワイン。リラは残りを運んでくれ」

「はーい!」

「あの、ビールにハエが2匹…」

「ビールに何で泡があるか知らないのか?」

 女剣士は俺の言葉を(さえぎ)ってフー、フーと吹き、泡に付いたハエを反対に寄せると

「乾杯!」

 と言って特大のジョッキから勝手にグビグビやり始めた。

「いただきます」

 ブラウンシチューを口に運ぶと結構旨い。ゼラチン質のプルプルの肉は口に含むやとろけ、スープには肉の旨味がギュッと濃縮されていて、少し泥臭いが散らしたハーブと口に入れるとむしろアクセントになってコクが増し、マッシュルームを噛みしめるとオリーブオイルがじゅわっと(にじ)み出る。ただ、少し骨が多い。

「ああ、骨はこの壺に捨てて下さい」

「おいしーい!」

 真由美も気に入ったようだ。

「おっ、この味がわかるとは嬉しいねぇ。ウチ自慢の看板料理さ!」

「それよりあの…」

 ハエがもう1匹沈んでますよ、と言おうとした俺の視線を追った女剣士は、ハエを()けてビールを飲み干し、詰まらなそうに言う。

「食いもんがない時はハエも馬糞きのこも立派な食料だ。食えない奴は生き残れないね。オヤジ、もう1杯!」

「あいよ」

「いや流石(さすが)に馬糞きのこは食べないでしょ」

 俺が言うと女剣士は初めて笑って、こう答えた。

「さっきから旨い旨いと食ってんじゃねーか」


 うっぷ。

 思わず背中を丸めて口元を押さえる。吐き気がするが例の壺に顔を突っ込む気にはなれない。

 真由美を心配して隣をうかがうと、意外な事に背中をピンと伸ばして黙々とスプーンを口に運んでいる。ちらり、とこちらを見ると、自然と上から目線で俺を見下す態勢に落ち着いた。

「山田君。人間はね、自分の体は自分が食べた物で出来ていると考えるの。だから相手が食べる物を汚いから食べられないと言ったら相手は『お前は汚い』と言われた、コイツは敵だと自然に思うのよ。だから出された物に文句を言ってはダメ。残さず食べるの。郷に()っては郷に従え、よ」

 さっきまで「私を置いていかないで」と言いたげな、(すが)るような目で俺の手を握っていた真由美は、いつの間にかすっかり委員長の顔に戻ってしまっていた。

「わかったよ、しーさん」

 オッサンが、ほう、と感心した顔で真由美を見る。だけどそんなのはどうでも良かった。『ケンちゃん』『マユミ』と呼び合っていたのは遠い過去のこと。隣に座っていても、クラスの皆と同じように『山田君』『しーさん』と呼ぶ仲の、なんて遠いことか!

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