海の王
「ガボ! ガボガボ! ってアレ?」
しょっぱくない。海水なのに。いや普通に息ができる。スーハースーハー。とりあえず助かった。しかしココはどこだ?
クラーケンが立ってたのは砂浜から少しだけ沖の、足がつく深さの辺り。でもクルクル回りながら沈んで行く俺の目に時折り入る、青白い空のように見えるアレ。アレが星あかりと小イカの光で照らされた水面だとすると、ココはもう水深何十メートルにもなるハズ。
突然上下の感覚が戻る。下は地面だ。ふわり、と着地した俺に、一人の女が話しかけて来た。
「ようこそ、どうぞこちらへ」
年は二十歳そこそこ。ウエーブのかかった銀髪に白い肌。背は俺と同じくらい。時代劇で家事をしている女の人みたいな和服を着ているが、顔立ちは地中海系のソレ。面影は少し真由美に似ている。
という事は水のクラーケンは真由美じゃなくてコイツに似てたのか。つまりコイツが黒幕?
女が誘う方には古式ゆかしい純和風の塀と巨大な門、中にはこれまた純和風、数寄屋造りの大豪邸が建っていた。
女は答えを待たず踵を返して門の中に進む。仕方がないので追いかけながら俺は話しかけた。
「あの、早く帰らないとピンチなんですけど」
「うふふ、お迎えの使いの事ならまだ止まっているから大丈夫ですよ」
楽しそうに言うが、どうもお年寄りが孫に諭すような口ぶり。見た目通りの年ではないのかも知れない。
「やっぱりアレはアンタが操ってるのか?」
「あれはただの現身ですよ。でもそれなりの経験値は入るので、どうぞ倒して貰って構いませんわ」
うつしみとは鏡に写して見るという意味か。でもそれだけでなく物質的な分身と言ったようにも感じたし、空蝉つまりセミの抜け殻と言ったようにも聞こえた。
つまり俺達を一瞬で叩き潰せる巨大モンスターも、自分にとってはカラッポの抜け殻に等しいって言ってるワケだ。
案内されるまま玄関に入ると普通に和風の屋敷。ギリシャ風の革サンダルはココで脱がなくてはならない。と、ここで右手の甲が紫の光を放った。何故だ!?




