夜の浜辺(異世界編) 6
首が動かない… たまたま視界に入ってるのは… 特効倍率が1番高いマッコウクジラの着ぐるみを着たポンコツ真由美。虚ろな目でポケーっと見上げてピクリとも動かない。目は開いてるが意識はないようだ。多分全員同じだろう。意識がある俺が何とかしないと。俺がみんなを守るんだ。
しかしそんな思いも虚しくクラーケンの形をした水のモンスターはゆっくりと肩を上げ始めた。実物大お台場ガルダンの倍は超えるサイズ。振り上げた触腕の先は、もう視界から外れてしまったが高さ100メートル近くなるはずだ。そこから何十トンもある物を全力で振り下ろされたら、それが水の固まりだったとしても無事では済まない。一瞬でペチャンコだ。
止まれ!止まれ!止まれ!
だが輝く水のクラーケンは振り上げた腕をピンと伸ばすと、俺に向かって手刀を振り下ろした! すぐに触腕が来る!
止まれ!止まれ!止まれ!止まれ!止まれ!
俺はこんな異世界で終われない! 真由美を連れて日本に帰ってイチャラブな高校3年間を満喫するんだ!
止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ〜っ… ってなかなか来ませんね。長いよ。
「わたったった…」
おっと急に体が動いた。思わず前につんのめっちゃったよ。でもやったぜ体が動く!目も動く!声も出る!
「みんな! 動けるか?」
声をかけながら周りを見回した俺は気付いた。みんなが、いや水のクラーケンまでも、俺以外の全てが固まったまま突っ立ってるって事に。そしてつんのめって前に踏み出した俺の後ろ、ついさっきまで俺の立っていた所に口を半開きにしたままの俺がポケーッと突っ立っている事に。
「俺ですか?」
意味がわからないけど、それは置いといてみんなを助けないと。一体どうなったんだ?
いや、ちょっと待て。さっきまで聞こえていた波の音がピタリと止まっている。浜辺を見ると… 寄せては引いていたはずの波が全く動いていない。空に目を移すと波打つオーロラも動きを止め、糸を引いていた流れ星も尻尾が凄く短くなっている。
『海の家 ぽせいどん』の方を見ると、2階に無数の放電をまとった光り輝く槍を掲げた誰かが、今まさに強大なエネルギーを込めた必殺の槍を投げようと構えたまま止まっている。真由美はこんな魔法は使えない。多分アレキ。なんとか起こせたか。
しかしですよ。コレはつまりアレですね! 時間停止!




