史上空前の大ピンチ!(それともチャンス?)
気が付くと真由美と2人、タタミ1畳ほどの狭苦しいベッドに足を絡ませて横になっていた。真由美が囁く。
「ねえ… しよっか?」
どうしてこうなったーーーーーっ!
こっちの世界にはクーラーなんぞない。治安が悪いんで窓もカーテンも閉め切り。2人とも薄着だけど、それでも汗をじっとりにじませている。湿っぽい真由美の太ももが吸い付く感触。
待て。待て待て待て待て。いま、少しウトウトして日本に戻った夢を見ていた。そのせいで寝惚けて記憶が混乱しているっ!
思い出せ俺!何があった俺!まず、こっちの世界に召喚されて…
「きゃーーー!」
「あっちだ!逃げるぞ!」
真由美の手を引いて丘の木立を駆け降りる。太い根に足を取られそうになるが、木々が邪魔をして少しは時間を稼げそうだ。
そう思ったのも束の間、女神と入れ替わりに泉から出て来た大亀は、ひと抱えほどもある幹を簡単にへし折り、ひしげ、あっさりと乗り越えやがった。
後で聞いたら楡の木だという木立の向こうには、開けた土地に整然と並び、首ほどの高さに刈り込まれた葡萄畑が広がり、小道と、その向こうには醸造所だろうか、それなりの大きさの建物や石積みが見えた。
「助かった!誰か、助けてくれー!」
そう叫んでみたが誰も駆け付ける気配はない。
頭の中に女神の神託が響く。
〈チュートリアル1、火炎Lv1の魔法を使ってみよう〉
「火炎Lv1!」
真由美が手をかざして叫ぶと青い炎のリングがゆっくり飛んで亀の首に命中した。ダメージは…多分HP1くらい?
〈火炎Lv1はお湯をちょっと沸かすのに便利な魔法です。チュートリアル2、火炎Lv2を使ってみよう〉
「火炎Lv2!」
俺が叫ぶと2つめの、もう少し大きな炎のリングが飛ぶ。
〈火炎Lv2は煮炊きに便利な高火力の魔法です。チュートリアル3、火炎Lv3を使ってみよう〉
「火炎Lv3!」
ボッと音がして2列の炎が下向きに並ぶ。
〈火炎Lv3は〉
「魚を焼くのに便利だよね!火炎Lv4!」
〈レベルを上げて呪文をおぼえてね!〉
「だーっ!使えねーーー!」
「獄焔破!」
突然発した赤い業火の渦が小道を横なぎに吹き抜け、電車を横に2両並べたサイズの大亀の突進を阻んだ。
「大変そうだな。オレのパーティーに入るんなら助けてやってもいいぜ」
〈チュートリアル4、パーティーに参加してみよう〉
しゃがみ込んだ真由美の肩を抱いた俺が見上げると、その声の主は古い火傷の痕も痛々しい、大剣を佩いた女剣士。歳は27、8か。
それが俺の師匠との最初の出会いだった。
真由美は足を挫いたか打ち付けたのか、足首が紫色になっていて、立ち上がるのも辛そうだ。真由美の事を思えば迷っている暇はない。
「お願いします。助けて下さい」
〈賢人と真由美が勇者のパーティーに参加しました〉
俺が即断で答えると、脇から野太い男の声が響いた。
「それではあなたの実力を見せて貰いましょうか」
鮮やかなライトグリーンに輝く手甲を付けた熊のように大きな手が脇から伸び、召喚された時から紫の微光を放っていた俺の手の甲を野太い指でトントンと叩くと、光の中から瞬く間に紫水晶にも似た結晶が成長し、俺の拳を覆う手甲となった。
「やはり、アダマンタイトの武具でしたか」
〈チュートリアル5、魔物をグーパンで殴ってみよう!〉
「さあ!」
俺は、白髪混じりのプロレスラーのような巨漢に誘われるまま、拳を固めて全力で突き出した。手甲から吹き出した衝撃波は、俺たちを喰おうと追いかけて来た大亀の首を、思いもかけず跡形もなく吹き飛ばしたのだった。




