夜の浜辺(異世界編) 4
「しまった!」
ここまでの戦闘からクラーケンは3弱点型で2段階攻略のボスキャラだとわかっていた。
上半身と両腕の3点に別々に設定されたHPを削り切ると美少女型からモンスター型に変身。モンスター形態で黒い嘴と両腕のHPを削り切ると絶命。これが『撃破』パターン。
ただし、それとは別のパターンもある。リラに叩かれて逃げ出した1体目や、浜に打ち上げられてキャッチ&リリースされ戦意喪失して泳ぎ去った奴の『逃走』パターン。それから弱い電撃や麻痺で意識を失い流されて行く『失神』パターン。『逃走』と『失神』の2つが依頼成功回数にカウントされる。
そして複数目標を同時攻撃する範囲魔法や範囲攻撃がオーバーキルだった場合、2段階6か所分のHPが一瞬でゼロになる『瞬殺』パターン。
俺が狙ったのはズバリ『瞬殺』パターンだ。他のパターンだとどうしても反撃が有り得る。リラの命が危ないからな。だけど手刀がヒットした時、確かに見えた。珊瑚の王冠が真っ二つになる前に、青く激しい火花を散らせたのが。
あのティアラにも神殺しが使われていたんだ。それでクラーケンにヒットするはずだった力のほとんどが、上空と、遥か後方の海にいなされてしまった。1段目の3点ともHPが残ってしまったんだ。
それでもシャチ2匹が両腕に噛み付き、1番弱いイルカが瀕死の本体のHPをゼロまで削り、特効倍率が1番高いマッコウクジラが2段目を瞬殺する組み合わせになればまだ良かった。
だけど結果的にマッコウクジラがHP残りわずかな1段目本体を攻撃する順番になってしまった。これだと…
「反撃が来るぞ! 避けろ!」
マッコウクジラにHPを削り切られた上半身が水のように溶け崩れる。だがそれに構わず下半身だけになったクラーケンは左腕に噛み付いたシャチを振り払い、空中高く投げ上げた。そしてその触腕を真上から目にも止まらぬ速さで俺とリラの頭上に叩きおろした。
どずん。
勇者の証が光り輝き物理攻撃無効の球形防御壁に文字列が乱舞する。一瞬、耐えてくれるかと期待させたのもつかの間、1メートルもあろう吸盤に生えた爪が回転を始めると見る見るヒビが入り、割れ目から光が漏れる。光とともに力が抜けているんだ。
間一髪、俺がリラを抱えて横に飛んだ直後、防御壁を粉々に打ち砕いた触腕は砂浜に深くめり込んだ。勢いで俺の腕から放り出されたリラは、膝が崩折れそうになりながらも、浜から離して陸揚げし放置されていた一隻の壊れかけた小舟に向かいヨタヨタと逃げ出した。だがそれでいい。1ターン目は受け切った。もう全力で潰すだけだ。
「やるぞ! とどめだ!」
今度は上半身と下半身を同時に斬る必要はない。俺は腰をわずかに沈め、曲げた左腕を眼前に、右拳を顎のあたりに構えた。溜めた右拳が狙うは中央の嘴。
だがこの不安定な砂浜で腰の入った全力の拳が撃てるだろうか? そう考えて気が付いた。師匠と先生はそこまで考えて砂浜での修行を選んだんだ!
確かに2人の後ろで経験値をイタダくだけではつかめない体感。俺は2人への感謝の思いを込め、全身全霊を注ぎ込んだ右ストレートを放った。
瞬間、クラーケンは全ての腕を高速で動かし、俺の攻撃を弾こうとした。しかし俺の拳から真っ直ぐ伸びた青い閃光は、その全てをブチ抜いて黒い嘴に突き刺さり、ヤツのド真ん中に大穴を穿ったのだった!




