いまさら! クラーケン討伐イベント攻略会議 6
「ケンちゃん、どこ行くの?」
追いかけようとしたマユミだけど女が呼び止めた。
「あなたがマユミね。待ちなさい、逃げる気?」
「私が何で逃げるのよ!」
「ちょいとアンタ! 突然現れて何様? このローザ様に無断でケン坊の奴隷を名乗るなんて捨て置けないねぇ」
マユミだけでもウザいのに、こんな金持ち女がウロウロしたんじゃ厄介だ。ケン坊がいなくなった今がチャンス! いつもは邪魔っけなマユミだけど、ココはこのローザ様が協力プレイで謎の女をボコボコにして追い返してやるぜ!
「ふん、愛妾ヅラしてもキスもして貰ってないのは知ってるのよ」
「なっ… 誰がそんな事を!」
「アルケー村の酒場の亭主」
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「それでローザのヤツ色気付いちまってよ、未通女でもないのに恥ずかしがってまだキスもしてないんだ」
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「リラ、あの声で再生されたのが聞こえたよ」
「つ… つまみ1つ取ったら… 喋っちゃうね…」
「親父〜 帰ったら殴る!」
「まだお手付きでないなら話は簡単ね、カクさん、スケさん、例の物を」
「はっ!」
女が声をかけると、入口から宝箱を両脇に抱えた金髪と黒髪の2人の男が入って来た。何だか随分重そうだと思ったら案の定、床に降ろすとドズンと重い音。男達がすかさず開くと中には金貨がギッシリ入ってやがった。つまりコレは…
「手切れ金よ。1人に1箱、1タラントンあるわ。これを受け取って4人とも消えて下さらない?」
「はー、1タラントンたぁ大したもんだ。初めて見たぜ」
「マリン親っさんはわかるの?」
マユミは異世界から来たからしょうがねーがアタイ達もこんな大金は見た事がないね。
「1タラントンが金貨300スターテル、銀貨にすると6千ドラクマだ。1スターテルが下級市民の月給くらい、1ドラクマが日給くらいだよ」
「つまり3千万円から6千万円くらいって事?」
「センマンエンってのは知らねーが20年は遊んで暮らせるな。節約すれば一生働かなくて済むぜ」
「簡単に言えば300Gね。でもただのゲーム内通貨だし…」
「へっ、金持ちには所詮金しかないのか? アタイとケン坊の絆は金なんかじゃ売れねーな!」
「リラもだよ!」
「お… お兄ちゃんをお金では… 売れないよ…」
「そういうこった! さあ出て行きな!」
「ふん。負けたら奴隷になれと言ったのは勇者ケントよ。主人が決めた事を奴隷が覆すなど笑止千万!」
くうっ。何て偉そうな奴隷っ。でもケン坊との絆をこんなポッと出に否定させないっ!
「そんな事言って、どうせ鈍さ999でポーっとしたケンちゃん騙してワザと負けたんでしょ?」
おっとマユミが先に突っ走ったらマズいね。
「待ちなマユミ。真打は最後に出るもんだよ。ここはローザさんに任せな」
「ローザ…わかった。任せるわ」
よーし! これ以上マユミに差を付けさせるワケには行かないからねぇ! コイツはローザさんがシメる!
「フッ… アンタわかってないねえ。主人ってのは奴隷に愛されてこその主人なのさ。奴隷のご機嫌を損ねたら良くて逃亡、悪くすりゃ夜中に刺されるか絞められて終了だからね。アタイらは3人ともケン坊を愛しているから側にいる。つまり! アタイらはケン坊の愛人と同じ! そのアタイらに仁義を通さずに4人目の奴隷ですなんて、主人がいいと言っても通らないね!」
「フッ、嫉妬? 凡俗ね」
「なっななっなっなっ何だとこのヤロウ!」
「英雄である私は全てを戦いで勝ち取って来た。私を追い返したかったら私に見事勝って見せる事ね。それ以外に道はない! それが帝王の道! それが私の主義!」
「面白え! カティー! 行きな!」
「えっ… はわっ… 私?」
「ちょっと耳ぃ貸せ。アイツが乱暴しようとしたらすぐに泣け。安心しな、アタイらが止める。それで因縁付けて小さい子をイジめる奴は仲間に入る資格がないって言うのさ」
「わ… わかった… がんばる…」
「よーし決まった。勝負は何だ? 格闘? 拳闘? それとも総合格闘かい?」
「まずは… ジャンケンよ!」
「ジャンケンってケン坊とマユミがやってたアレか」
「フッ、あなた子供だから10回やって1回でも勝ったらあなたの勝ちにしてあげる」
「じゃあ審判は私マユミが努めます。最初の1回は『最初はグー』と叫んで両者グーを出して。その後10連戦ね」
「待ちなさい。『最初はグー』と言いながらパーを出して勝ったと言うつもりね?」
「そんなセコい事する人いないでしょ。ただのタイミング合わせよ」
「…」
「何?」
「何でもない。行くわよ。最初はグー、ジャンケンポン!ポンポンポンポンポンポンポンポンポン!はい10連勝」
「アレキサンドラの勝ちね」
「カティー! なんで1回も勝てない!」
「あ… あ〜ん」
「フッ… やるな。しかしカティーは我ら四天王の中では最弱、ただの前座よ。次はリラ! あんたが行きな!」
「あなたがリラ? 次はあなたに種目を選ばせてあげる」
「よ〜し! それじゃあ砂山崩しで勝負ね!」
「いい具合に目の前は砂だらけだ。どうだい」
「何でも結果は同じだわ。どうやるの?」
はっ!やはり見た目通りのお嬢様だ! 高価なお人形は持ってても砂遊びなんかした事ないってか。これは『砂山の帝王リラちゃん』の勝ちで決まりさね。
「よし行け! リラ!」
「わかった。いい? こうやって砂でお山作って、てっぺんに棒を刺して。交代で砂を取るの。取ってる途中や取り終わった時に棒が倒れたら負け。初めてみたいだから先手は譲るね」
リラ、意外と腹黒いヤツめ。ド素人が一発で倒したら何もしなくてもコチラの勝ち。ビビって少ししか取らなければゴッソリ取って心を折りに行く作戦だね。
「こうかしら?」
って言うかテメー何で全部取る! いやっ棒っ、オマエ何でそんなひとツマミで立ってんだ!
「あなたの番よ」
「あうっ、あうっ」
「が… がんばって… ひと粒だけ取れば…」
カティーの応援に、リラが震える指で砂粒をほんの少しかき取ると… 風もないのに棒はパタンと倒れやがった。
「アレキサンドラの勝ち」
マユミてめー落ち着いて審判してんじゃねーよ。しょうがない。ここはローザさんがヤるしかないね。
アタイは宝箱から1枚の金貨を取って、表裏が全員に良く見えるよう2回、ゆっくり裏返した。片面は勝利の女神ニケの立像、反対面は女の横顔。発行元のマケドニア女王だってヤオチュは言ってたね。間違いない。
「1枚借りるぜ。コイツを投げて… そうだな。勝利の女神ニケが出たら常勝無敗の英雄さんの勝ち、横顔が出たらアタイの勝ちでどうよ?」
「ニケならあなたの勝ち、横顔でもあなたの勝ち、それ以外なら私の勝ちでいいわ。早く投げて」
「何素っ頓狂な事言ってんの? 横顔ならアタイの勝ち、そうでなければアンタの勝ちでいいさね! いくよ!」
アタイが指先でピンと弾いた金貨は、クルクル回ってテーブルに落ちた。こうなったら結果は見なくてもわかり切って…
「アレキサンドラの勝ち」
何だって! 金貨は… アタイの投げた金貨は? テーブルの隙間に挟まって、縦に立ってやがる!
「何なら指で倒して横顔を上にしてもいいのよ」
ヤツがナメた口を叩くが抜こうとしても金貨はビクともしない。
「そこまでにしておきなさい。あなたの負けです」
黒髪の従者が落ち着いた声で宣告する。
「くっ、アタイの負けだ」
そう言った途端、根が生えたように食いついていた金貨はスルリと取れた。金髪の従者が言う。
「掌の中の本物を返して頂きましょうか」
「チッ、しょうがないね」
コレはヤオチュがケントの特訓に使ってたイカサマ金貨。横顔が出たらヤオチュの攻撃、ニケが出たらケントの攻撃。と言いつつ出るのは必ず横顔。まさか月給分の金貨を2枚も削って貼り合わせ、両面を横顔にしてあるなんて夢にも思わないさね。いつかケントを色んな意味でハメてやろうとヤオチュに頼み込んで貰った代物。本物は掌の中さ。
黒髪が何でもない事のように語る。
「お嬢様は神の血を引く英雄。人間やモンスターには決して敗北せぬよう神の加護があります。神は確率を操作出来る。お嬢様が負ける確率がいくら高くても、それは現実には起きないのです」
「何だよそれチートじゃねーか!」
「それがこの世界の法則であり構造なのよ」
「あれー、意外とみんな仲良くしてるー? 良かった〜心配してたんだよ俺〜」
ってケン坊? 何を呑気に!
「ロックアイスがあるから冷たいドリンクでも飲んで頭冷やしな。ほれケントみんなのジョッキに入れて。アタシはカキ氷作るよ。あ、父さん新しいお客に麦茶出して」
「え? 古代ギリシャに麦茶あるの?」
「あるよ」
は〜、気ぃ抜けた〜
「ケンちゃんアレキサンドラに勝ったってホント?」
マユミが聞く。そうソレ! そこ謎だよな!
「んーじゃあ『あっち向いてホイ』で勝負だ。ジャンケンで勝った方が指を上下左右のどっちかに向ける。負けた方が指の方向を向いたら最終的に負け。向かなかったらノーカン、やり直しだ。行くぞ。ジャンケンポン!あっち向いてホイ!ホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイホイ!」
「負けたあああ〜〜〜〜〜〜」
ゴロゴロゴロゴロ→
ゴロゴロゴロゴロ←
アレキサンドラは床を右に左に転げ回って悔しがった。
「何で全部指差した方に向くかな?」
「今の20勝で勇者ケントの通算24連勝です」
「そーゆー計算か?」
「ぐおおお〜 悔しい〜〜〜〜〜〜」
ゴロゴロゴロゴロ→
ゴロゴロゴロゴロ←
「だってアレキ弱いんだもん」
「うわあああ〜〜〜〜〜〜」
ゴロゴロゴロゴロ→
ゴロゴロゴロゴロ←
いやなにこの女…
【大賢者エリクトニウスのギリシャまめ知識】
エリクト「才能に応じタラントンを支払う… タレントの語源はギリシャなのです!」
ゆきひろ「そういう小ネタはもういいから」
エリクト「あの… ポリシーの語源もポリスの政策の事なんですけど…」
ゆきひろ「でも自分、しばらく出番ないし」
エリクト「出番がない!?」




