異世界グルメツアー幼馴染の手料理編
「星が、きれいだね」
夜空には、降るような満点の星。焚火の光を浴び、ほの暗い森の中でうっすら光る、真由美の頬。
きれいだ…
『勇者の証』の魔除け効果で夜間でもモンスターは襲ってこない。
魔物や夜盗は、これに近づくのは自殺行為だと本能的に恐怖を感じるらしい。俺だって投げ捨てたいくらいだが、取れない売れない切ると爆発するとくるからどうにもならない。
まーおかげでモンスターがウロつく森の中でも真由美とゆっくりくつろげるし、野宿も出来る。
「向こうでは天の川なんて見えなかったもんね。それより、今日の晩御飯はどうだった?真由美シェフ特製すっぽんの香草煮、押し麦とともに」
要は今回のクエストで討伐した大沼亀のブツ切りと押し麦を魚醤で煮込んで、行きがけに摘んだ香草を散らしたもの。この地方の郷土料理で、泥臭い、青臭い、魚臭いと3拍子そろってるが、食べ慣れれば癖になる不思議な味だ。
「旨かったよ。真由美が料理も出来るって、こっちに召喚されるまで知らなかったな」
「中学に上がってから、ほとんど話してなかったもんね。はい、食後のハーブティー」
真由美がいつものように木のカップを2つ持って来て、隣にストンと座る。
「私の好きなラベンダーと、ケンちゃんの好きなローズヒップ。色も、味も、香りも全然違う2つが混じりあって、溶け合って、ひとつになるなんて素敵ね。まるで私達みたい」
寄り添う真由美の温かさと、柔らかい感触。
日本にいた頃は横顔をチラ見するだけだった真由美が、今はいつでも2人きりで俺の隣に!
邪な考えに走りそうになって俺はかろうじて踏みとどまる。俺達を召喚した女神との約束では、レベルを上げて冥王を倒せば日本に戻してもらえる。その時に真由美の、その… 何だ… お腹がポッコリ出ていた日には、日本に帰るなり2人とも高校退学。進学も就職も難しい事態になってしまう。
それを考えると、いくら異世界に2人きりになって、幸運にも予想外の急接近が出来たとはいえ、一時の欲望に負けて2人の人生を台無しにするワケにはいかないっ!
なーんて考えている俺の気も知らないで、真由美のヤツは俺の腕に抱き付き、胸を押し当て、いつものように俺の脇の匂いを子犬みたいにクンクン嗅ぎ始めた。
この感触!辛抱たまらん!いや待て俺!ダメだ俺!踏みとどまれ俺!なにか話して気をそらさなければ!
「たみゃっ!たまには川で水浴びしたいね」
こっ…声が裏返った!
「ダメーーー」
皮鎧の中で1日蒸れていた… 正確に言うとクエストに出てから丸5日蒸れていた、いや途中に降った雨で1回は汗を流しているのだが、その汗臭いシャツに、真由美は顔をグリグリ埋める。
「わたし専用のオスの匂いに包まれてた方が、安心して寝られるから」
最初は着替えも水浴びもトイレも「離れてなさいよ!絶対に覗いちゃダメだからね!」とか言ってた真由美だが、『勇者の証』を持つ俺から離れると猛獣やら夜盗やら野良ゾンビやらに襲われるのがオチ。こっちに来て1か月になる今では、何をするにも「離れちゃダメ!」なのだ。
「せめて下半身は洗いたいよ。痒いし臭いし」
「臭いの!?どんな匂い!?」
あっ、真由美が爛々と目を輝かせている!
しまった。これは話さないと朝まで延々聞き続けるパターンだ!
「あー、何日も洗わないとですねー、男子の間ではイカ臭いと言いますか、何か海産物的な臭さが、こう…」
「嗅ぎたい!嗅がせて!!いいえ、嗅がせなさい!!!」
「お断りします!」
「いいえ。これはクラス委員長として確認する義務があります!」
「委員長は関係ないだろ!」
「いいから!えいっ!スーハ―スーハ―、スーハ―スーハ―」
「やめてーーー!」
「何か当たった。何コレ?」
「いやーーー!」




