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5話
「金玉が」
そう口が動き、言葉につまる。
続きを言っても良いのだろうか。
また再び思案の渦にもどりかけた。
「金玉が?」
やめてくれ。そんないい声で反芻しないでくれ。
昂る。
いやこれはもう、そのまま話してしまうしか?
「金玉が、痛くて」
なんとも言えない時間が過ぎる。
ここまで金玉としか言わない俺をただ見つめ、彼は口を噤んだ。
口の中が乾き、この場から逃げ出したい様な気になってくる。
いやこれ、親切心で声掛けてくれた人に金玉金玉って。痛いんだけど。
「私が、観ましょうか?」
ふと告げられた言葉に、頭が固まる。フリーズだ。
今彼は、なんといったのか。
「お痛いのでしょう?」
彼は先程までの険しそうな顔から一点した、力を抜いた、労る様な笑みでそう言った。