結婚式の当日に婚約破棄をされて結婚式はやめられなかったから聖女のような幼馴染みに新婦になってもらった
俺は今日、結婚する。
婚約者とは出会ってあまり経っていないが結婚をしたいという思いは同じだ。
朝、起きて隣に寝ていたはずの婚約者がいない。
俺は家の中を探したが婚約者はどこにもいない。
婚約者に電話をする。
しかし、婚約者の電話は電源が入っていないようだ。
俺は焦っていた。
だからあいつに電話した。
「彼女がどこにもいないんだ」
「ちょっと朝、早くから何なのよ」
あいつとは俺の幼馴染みだ。
俺は何かあると幼馴染みに電話をする。
「彼女が姿を消したんだよ。電話も繋がらない」
「分かったから落ち着いてよ」
「落ち着けるかよ。今日、結婚するんだぞ」
「何で彼女がいないのかよく考えてよ。ケンカしたの?」
「してない」
「彼女が最近、結婚するのに不安になってなかった?」
「なってない」
「彼女の手紙とか書き置きはないの?」
「分からない」
「探しなさいよ。私もそっちに行くから」
そして彼女は電話を切った。
俺は婚約者の書き置きがないか探す。
そしてリビングのテーブルの上に婚約者の字で書き置きがあった。
それはたった一言。
『ごめん』
それだけだった。
ごめんで済む話なのか?
結婚式には俺の会社の人も来るし、式場のキャンセル料もいるだろうし。
そんなことを考えていると幼馴染みが来た。
「書き置きはあったの?」
「これ」
俺は書き置きを彼女に見せる。
「これだけ?」
「うん」
「式はどうするの?」
「やる」
「えっ、でも相手がいないのよ?」
「いるよ」
「えっ」
「君だよ」
「私?」
「式だけ挙げてその後は婚姻届を出したって言えば誰も嘘だと気付かないだろう?」
「嘘なんてつかないで結婚式を挙げなければいいのに」
「俺は会社の人に、新婦が逃げたなんて知られたくないんだ」
「そうかもしれないけどあなたはずっと奥さんがいる人で通さないといけないのよ?」
「君はいいのか?」
「私はあなたの会社の人に会わないから恋人も作れるわ。でもあなたは恋人も作れないわよ?」
「それでいいよ。一年くらいしたら離婚したって言うよ」
「そんな簡単に決めちゃダメよ」
「俺は会社にいられなくなるのが嫌なんだ。今の仕事が好きだからね」
「分かったよ。今日だけ新婦になってあげる」
「本当に?」
「うん」
そして彼女は俺の新婦になった。
幸い俺の新婦になるはずだった相手はほとんど人に紹介をしていなかったから幼馴染みの彼女に変わっても気付く人はいない。
そして彼女側の式の出席者は最初からゼロだ。
俺の親には本当のことを伝えた。
だからすんなりと式は進んだ。
誰も疑うこともなく、誰もが俺達の結婚を祝ってくれた。
彼女は俺の幼馴染みだから息はピッタリだった。
出会いの話を彼女が聞かれた時は、俺に目で合図をしてくる。
俺はそれで彼女が困っているのに気付き俺は彼女の近くへ行く。
◇
結婚式は無事に終わった。
俺達は俺の家のソファに二人で座った。
「疲れた」
「俺も」
「すごく緊張したよ」
「俺も」
「違う意味で緊張したよね」
「本当だよ。バレないようにって思ってたよ」
「そうね。それに誓いのキスには驚いたよ」
「あっ、ごめん」
「何で謝るのよ」
「だって、キスしたから」
「キスくらいで怒ったりしないよ。私は学生の子供なんかじゃないのよ?」
「君ってそんな色んな人と?」
「違うわよ。キスくらいで怒らないほどもう、大人だってことよ」
「それなら良かった」
「ウエディングドレスが着れて良かった」
「すごく似合ってたよ」
「えっ」
「君の新郎になる人は君のウエディングドレス姿を見てもっと好きになるんだろうね」
「何それ?」
「何が?」
「何でそんなこと平気で言うの?」
「だから何が?」
「もういいよ。私、帰るから」
彼女は立ち上がる。
このまま彼女を帰らしてはダメだ。
「ごめん」
「何で謝るの?」
「君が怒ってるから」
「何で怒ってるか、分からないくせに」
「うん。でも俺が悪いんだろう?」
「あなたも、私も」
「君も?」
「私には時間が必要なのよ」
「時間?」
「そう。今日は帰るね」
「うん。本当に今日はありがとう」
「いいよ。その代わり今度ご飯を奢ってよ。最近、人気の最高級のフレンチレストランでいいよ」
「遠慮がないね」
「当たり前でしょう? 私はあなたの小さい時から知ってるんだから遠慮なんてしないわよ」
「それが君だもんね」
「そうよ」
彼女はそう言って笑った。
俺も笑った。
彼女が俺の新婦になるのは今日が最初で最後だ。
ありがとう。
本当に心から感謝しているよ。
◇◇
「今日、君の奥さんを呼んでお疲れ会をしようか?」
いきなり俺の上司が言った。
「彼女は人前にあまり出たくない人でいきなりだし」
「でも、君の奥さんは綺麗で美人さんだよ? もっと色んな人に見せて自慢すればいいのに」
「ちょっと彼女に聞いてみます」
俺はすぐに彼女に電話をする。
「もしもし」
「今から俺の会社の人達との飲み会に来れる?」
「今から?」
「来れないならいいんだ。俺の上司が君が綺麗で美人でもう一度見たいみたいで」
「そうなの? いいわよ」
「えっ、いいの?」
「うん。あなたの会社に行けばいいの?」
「あっ、そうだね」
「分かったよ。準備して行くね」
「うん」
彼女は女神なのか?
もしかしたら聖女かもしれない。
どうしてそこまで俺の為にしてくれるんだ?
彼女がお疲れ会に来て上司のご機嫌が良くなった。
美人がいるだけで飲み会が楽しくなる。
俺はほろ酔い気分で家に帰った。
「お水を飲みなさい」
彼女はそう言ってコップに入った水を俺に渡す。
俺はソファに座ってコップを取ろうとしたが酔いすぎていたのかコップをちゃんと受け取れず俺の胸元に水をこぼした。
「冷たっ」
「大丈夫? 早く脱いで。風邪引くよ」
彼女は俺のスーツを脱がす。
そしてワイシャツのボタンを二つ外した所で手を止めた。
「どうした?」
「何で私が脱がしてるのよ」
「えっ」
「自分で脱いで着替えなさいよ」
彼女はそう言ってそっぽを向く。
彼女の耳が赤くなっているのに気がついた。
「何でそんなに耳が赤いの?」
「えっ」
「変なこと考えた?」
「考えてないわよ」
「それなら何で?」
「言わない」
「言わないなら君はエロい女の子ってことにするよ」
「やめてよ」
「それなら教えてくれる?」
「言えないの」
「それじゃあ、君はエロい女の子だね」
「もう。嫌だって言ってるでしょう?」
彼女はそう言って俺をポカポカ叩く。
そんな彼女の両手を掴んで止める。
彼女は俺を見つめる。
「何で見つめるんだよ?」
「何でだろう?」
「キスしたくなった」
「酔っ払い過ぎよ」
「いや、酔っ払ってるせいじゃないんだ」
「じゃあ何?」
「分からないけど君が可愛いから」
「あなたは可愛いだけでキスができるの?」
「君だけだよ」
「何が?」
「キスをしたいなんて思うのは」
「えっ、キスは好きな人とならしたいと思うでしょう?」
「俺はキスしたそうな顔や雰囲気でしてた」
「嘘でしょう? あなたの恋人になる人は可哀想ね」
「君は俺の恋人じゃないのにキスしたいって思うのはダメだよね?」
「ダメだと思う?」
「君がいいならいいの?」
「私とあなたが同じ気持ちならいいよ」
「同じ気持ち?」
「私はあなたが好きよ」
「えっ」
「だから、あなたのキスが嫌なんて思わないよ」
「それはキスをしていいってこと?」
「違うよ。私は良くてもあなたはどうなの?」
「俺?」
「あなたの気持ちが私と同じならキスしてもいいよ」
「俺は君の幼馴染みでこの前、結婚式当日に新婦に逃げられたし俺の良いところなんて一つもないよ。そんな男に好かれたくはないでしょう?」
「私にはその全ては関係ないよ。私があなたを好きなのはあなたの優しさを知ってるからよ」
「俺って優しいの?」
「うん」
彼女は微笑んだ。
彼女の微笑みに俺の鼓動は高鳴った。
「君はやっぱり可愛いね」
「もう、そういうところが私を夢中にさせるのよ」
彼女は顔を赤くしてうつむく。
今の彼女の顔を見たい。
「顔が見たいよ」
俺はそう言って彼女の両頬を両手で包み顔を上げる。
彼女は顔を赤くして切ない顔で俺を見ている。
「どうしてそんな顔をするの?」
「あなたは私を見てくれないから」
「俺が?」
「あなたは昔から私なんて見ていないじゃない。色んな恋人を作って私を一人にしてきたじゃない」
「ごめん」
「また、理由も分からず謝るの?」
「分かってるよ」
「えっ」
「ごめんね。君の気持ちに気付いてあげられなくて」
「謝られても私の心は晴れないよ」
「そんなことないよ」
「どうして?」
「俺も君と同じ気持ちだよ」
「嘘よ」
「本当だよ。どうしたら信じてくれる?」
「そんなの言わなくても分かるでしょう? 私達は小さい頃から一緒にいるんだから」
「そうだね」
俺はそう言って彼女にキスをした。
彼女はキスの後、嬉しそうに笑った。
◇◇◇
「今度はちゃんといるよな?」
「いるよ。私はあなたの隣にずっといるよ」
俺が朝、目を覚まして隣を見ると俺の可愛い美人の彼女が横にいた。
今日は俺と彼女の二度目の結婚式の日だ。
一度、結婚式をしたから二度目は二人だけで式を挙げる。
二度目の彼女のウエディングドレス姿はやはり綺麗だ。
俺は彼女に見惚れてしまう。
「俺は何度、君と結婚式を挙げても毎回、君に恋をするんだと思うよ」
「結婚式は一回でいいのよ」
「何で? 君のウエディングドレス姿が何度も見れるのは幸せだけどなあ」
「一回しか見られないからこそ大切な瞬間を忘れないのよ」
「俺は何度でも忘れない自信があるよ」
「何よそれ」
「だって前の君のウエディングドレス姿も今のウエディングドレス姿も綺麗だから」
「でも私はもう、ウエディングドレスは着ないよ」
「どうして?」
「いつまでも新婦は嫌だよ」
「新婦?」
「私は早くあなたの奥さんになりたいもん」
「俺は早く君の旦那さんになりたいよ」
彼女は俺の奥さんになりました。
俺の奥さんはいつまでも笑顔で幸せでした。
何故それが分かるかって?
だって彼女の旦那さんの俺が笑顔で幸せだったから。
◇◇◇◇
俺と彼女は有名な最高級フレンチレストランに来ている。
「結婚記念日おめでとう」
「ありがとうでいいのかなあ?」
俺が言うと彼女は小さく笑いながら言った。
「もう一年、経つのね」
「そうだね。何か色々あったよな」
「うん。でも私は一年前からずっと幸せよ」
「俺もだよ」
「ずっと同じ気持ちでいられたらいいね」
「俺は変わらないよ。君が綺麗で美人だからね」
「私の外見ばかりね」
「言わなくても分かるだろう? 君と俺は小さい頃から一緒にいるんだからね」
「もう、そういうところが私を夢中にさせるのよ」
「愛してるよ」
「私も愛してるよ」
「これから毎年ここで結婚記念日をお祝いしような」
「うん。おじいちゃん、おばあちゃんになってもずっとよ」
「このお店がその日まであればいいけど」
「もう、そんなこと言わないでよ」
「ごめん」
「また、理由も分からないで謝るの?」
「分かってるよ」
「それじゃあ何で謝ったの?」
「俺はこれからもずっと変わらず君を愛し続けるよ」
「何よそれ」
「君はロマンチックな雰囲気を壊されたくなかったんだろう?」
「それもあるけど、全てが何も変わってほしくないの。私達の気持ちも私達の周りのモノもね」
「何も変わらないよ」
「どこからそんな自信がくるのよ」
「だって、思うんだ」
「何を?」
「君にキスしたい」
「もう、後で家でね」
彼女は顔を赤くして言った。
そんな彼女の顔は切ない顔じゃなくて嬉しそうだった。
読んで頂きありがとうございます。
明日の作品の予告です。
明日はいきなり婚約破棄をすると知らない女の子に言われた主人公のお話です。
気になった方は明日の朝、六時頃に読みに来て下さい。