別れ
望美の視点
「わたしはもう、あなたを好きではないわ。もう遅いの。」
そう言って、わたしは彼を見る。
彼は何も言わない。真面目な表情でわたしを見ている。
「なぜなにも言わないの? あなたはわたしを止めないの?」
「僕にも分からないんだ。君を抱きしめたいのか、そうじゃないのか。あのときは確かに君を求めた。その気持ちは嘘ではない。だけど今、僕は自分の気持ちが分からない。君と会えば、君と話をすれば分かると思っていた。」
わたしの目から一滴。涙が溢れた。
「わたしはもう、あなたの中には居ないのね?」
「違うよ。君を思う気持ちはある。だけど、それがどういう気持ちなのか分からない。」
「同じよ。」
「違う。」
彼は強く目を閉じ、少ししてから目を開け、真剣な顔でわたしを見る。
「もう一度やり直さないか、またあの頃のように。・・・君が好きだった水族館に一緒に行こう。」
わたしは首を振る。
「わたしは、やっと諦めたの。ずっと待っていて、あなたの本を見る度に泣いていたけど、あなたが来て、あなたに抱かれて、わたしはあなたを求めていないと気がついた。だから。・・・わたしはもう、あなたを好きではないわ。」
近くにあった上着とカバンを持ち、玄関に向かう。ドアを開け外に出て、向かいの手摺によりかかり、ドアが閉まるのを待った。
ドアが閉まると、目から涙が溢れる。
「なによわたし、どうして、、、。」
走るように自宅に帰り、ベッドにうつ伏せに倒れ、声を出して泣いた。
目を覚ましスマホを見るとメールが来ていた。彼からのメール。たった一言だけ。「君に逢いたい。」
わたしはスマホを抱きしめた。