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揺れる心(後半)


正史の視点



玄関のドアが閉まる音を聞いた。

飛び起きて彼女の姿を探すが、彼女の姿は見えない。


「しまった・・・。」


連絡先を聞いていなかった。次の約束もしていない。


今日は仕事をしなければならない。描き貯めているものがあるとはいえ少し足りない。今日の午後からアシスタントが来るため彼らの仕事を用意しなければならない。

午前中から仕事をして、午後になりアシスタントに仕事を指示した後、彼女の実家を訪問する。伯母さんは快く迎えてくれた。叔父さんに線香を供えてから要件を話す。


「伯母さん、望美さんの連絡先を教えていただくことはできませんか。」


僕は深く頭を下げる。伯母さんの返答は、分かっていたが望むものではなかった。


「あの子が教えなかったことを私が教えることはできません。あなたなら分かるでしょう?」

「ええ、分かっていました。」


僕は懐から封筒を出す。


「すみませんが、この封筒を彼女に届けていただけますか。」


伯母さんが受け取る。


「カギですか?」

「はい、僕の家のカギです。」


伯母さんが鋭い視線を僕に向ける。僕はその視線を受け止める。僕の気持ちを確かめている。そう感じる。


「あなたは10年もあの子をひとりにしました。きっかけはあの子が決めたことでしょう。ですけど、これまであなたが訪ねて来たのは正月だけ。いまのあなたの、あの子への気持ちは本当ですか。久しぶりに会って気持ちが(たかぶ)っているだけではありませんか。あなたはあの子を幸せにする覚悟があるのですか。」


伯母さんの言葉に僕はたじろぐ。そうなのかもしれない。伯父さんの訃報がなければ僕はどうしていただろうか。仕事を黙々とこなしていたのではないのか。彼女のことは久しぶりに会って昂っているだけではないのか。。。分からない。分からないけど、だけど今は、彼女への想いが胸を締め付けている。


「確かに僕は仕事に(かま)けていました。それでも、それでも僕はいま、彼女と連絡が取りたい。お願いします。」


「わかりました。あの子に渡しましょう。ですけど、私からは何も言いません。ただ渡すだけです、いいですか?」


「はい、お願いします。」





あれから数日が経っているが、彼女からの連絡はない。


僕は黙々と仕事をしている。仕事をしているときは彼女のことを忘れられるからだ。

若き日のあのときと同じだと思った。彼女に「さよなら」と言われた後、勉強とマンガに打ち込んだ。無事に大学を卒業し、マンガはいくつかの読み切りの掲載を取った。彼女に会いたかった。だが彼女に会おうとはしなかった。何故会おうとしなかったのか。彼女が「さよなら」と言ったからか。違う、そうじゃない。いや、そうなのかもしれない。

今も彼女と連絡が取りたいという気持ちと、もういいという気持ちがいる。伯母さんの言葉。「久しぶりに会って気持ちが昂っているだけではありませんか」。深く僕の心に突き刺さっている。


「どうすれば良いというんだ。」


僕の心は袋小路に迷い込む。




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