揺れる心(前半)
望美の視点
目が覚めると見知らぬベッドに居た。隣には彼が寝ている。
時間を見ると朝5時半だ。今日は仕事に行かなければならない。彼を起こさないようにベッドから抜け出して服を着る。
スマホで場所を確認したところ、勤め先の近くで、家からは2駅の場所だ。
「近いのね。十分に間に合うわ。」
支度を整えてから寝室に行く。ベッドに寝ている彼を見る。
「またね。」
玄関に向かいドアを開け外に出る。向かいの手摺によりかかり、ドアが閉まるのを待った。
マンションから出るときに建築日が目に入る。6年前だ。わたしが今の事務所に所属したのは5年前になる。
「偶然なのね。」
少し寂しくなった。
☆
家に帰りシャワーを浴び、身支度を整えてから出勤する。いつも通りに仕事を始めた。部下がいつもよりざわついているのが気になったが、いつもの通りに仕事をこなした。
昼休みに給湯室にて、物怖じしない若手女子が聞いてくる。
「課長、嬉しそうですけど、なにかあったのですか? みんな気にしちゃって。」
「特にはないけど、不自然かしら?」
「いつもはピリピリとして近寄り難いのに、上手く言えないけど、今日は優しい感じがします。」
「そう。」
「あれ?、課長これ。」
わたしの胸元を見ている。
「キスマーク?、ああ~、おめでとうございます。」
「な!?」
彼との昨晩の情事がフラッシュバックし、顔が上気した。
胸元を隠しながら仕事をし、定時で退社する。
「今日は疲れたわね。」
彼の家のほうが近いのに、と思いながら自宅に向かう。
郵便受けに封筒が入っている。母からだ。切手は貼られていないから直接持ってきたのだろう。中には硬いなにかが入っている。
何の用だろう、昨日会ったのだから言えばいいのにと思いながら封を開ける。
手紙と封筒が入っていた。手紙には、どうするのかはあなたが決めなさい。母の字でそうあった。
封筒には彼の名前がある。封を開けるとなにか落ち、拾うとカギだった。手紙はとても短かい。
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望美さんへ
君を愛している。
住所と部屋番号
電話番号
メールアドレス
正史
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「そう。」
ひと言つぶやいて、手紙とカギをテーブルに置いた。
さきほどまでの気持ちは隠れ、空虚さを感じる。自分は何がしたいのだろう。何をしてきたのだろう。自分の気持ちが分からなかった。