再会(前半)
伯父さんが急逝し、通夜式に参列して通夜振舞いの準備をしている。
僕は遺族席に座らされた。目の前に伯父さんの娘である彼女が座っており、なんで居るのという感じの不機嫌な顔をしている。僕の父は伯父さんの弟で、既に父は他界しているが、僕は親戚の中では遺族の次に関係が深い。
伯母さんが挨拶をして食事が始まった。
僕は彼女に話しかける。
「望美さん、大変だったね。」
彼女は僕を一瞥するが、返答はない。
いたたまれず、とりあえず謝っておく。
「ごめん。」
彼女はそっぽを向いた。
やれやれと心の中でつぶやく。
親戚のおじさんおばさんが、伯母さんに挨拶をしにくる。去り際に僕らにも声を掛けてきた。
「あなたたち、早く子供を作って、天国のお父さんを安心させてね。」
そう言い、僕と彼女の肩を叩く。無難に、そうですね頑張りますと答えたが、、、あれ?
同じ疑問を抱いたのか、彼女が聞いた。
「お母さん、どうして?」
「みんなには言ってないのよ、あなた達がこんなに遅くまで、どちらも結婚しないなんて思わなかったから。みんな二人が結婚してると思ってるわ。」
次々と親戚が来て、みんな同じようなことを言っていく。
彼女が僕を睨んでいる。いや僕のせいじゃないから。いや、結婚していない僕が悪いのか?
その場にいるのに耐えきれず、立ち上がって外に出ようと襖に手を掛けた。同時に別の手が掛かる。見ると彼女だ。
はやく出なさいと言われて廊下に出た。彼女も出てくる。
「なぜ一緒に出たの。」
「君に合わせたわけではないよ。偶々(たまたま)だ。みんなから子供作れといわれるのが耐えられなくてね。」
「そう。あちらに行きましょう。」
彼女が僕を一瞥してから窓辺を指差す。
「わかった。少し話をしよう。」
僕は山本正史 32歳。彼女は三浦望美。彼女は僕の二歳年上の従姉で、かつての婚約者となる。親が決めた許嫁だった。
互いの家が電車で数駅の距離で、親同士が仲が良かったことから、幼少期は親に付いて一緒に遊びにいくことが多かった。彼女が高校生になってからは、度々僕の家に来て勉強を見てくれた。彼女が短大を卒業し、僕が大学に入学した頃に関係を持つに至り、しばらく付き合っていた。良い仲であったと思う。しかし、僕が大学四年生22歳のある日に将来について話し合い、離別し、婚約解消となった。それから10年が過ぎている。その間、一度も会っていない。
すこし奥の窓辺に立ち止まる。
彼女の姿は、記憶にある若き日のそれに年齢を重ねた、魅力のある姿と見える。
「なにを見てるの。」
「あのときから変わらないなと思ってね。」
「やらしいわね。で、あなたはなぜ結婚しないの?」
「仕事が忙しくてね。君は?」
「同じね。仕事に没頭して・・・、気がついたら、この歳になっていたわ。」
彼女が窓から外を見る。僕も彼女の隣に行き外を見る。
枯葉が風に流されていく。晩秋のやわらかい夕日に彼女の横顔が赤く色づいている。
「君に会えて嬉しいよ。」
「何で来たの?」
「母さんが風邪で伏せっていてね、僕が来るしかなかった。伯父さんには以前にお世話になったから、欠席するほど恩知らずではないよ。まあ、母さんが来れたとしても僕は来ていたと思うけど。」
「そうじゃないわ。私を笑いに来たの?」
「違うよ。君が幸せなのか、知りたかったんだ。」
「仕事が順調で充実しているわ。」
「そうか、良かった。」
彼女は廊下の中央に立ち、僕を睨む。
「あなたの用はそれだけかしら。私が・・・」
「おっとごめんよ?」
禿げたおじさんが廊下を急いで通ろうとして彼女にぶつかる。僕は彼女を支え、おじさんに言う。
「トイレは逆だよ、あっち。」
「おお、すまんな。おっと、逢い引き中だったか、ごめんな?。」
大きな声でおじさんが去っていく。
「まったく、困ったものだね。」
あたりがざわめき、おじさんたちが顔をだして、こちらを見ている。
「なんだ?」
「ちょっと、離して。」
「あ、ごめん。」
僕は彼女を抱きしめていた。気がついて慌てて離す。
顔を出していたおじさんたちが冷やかしを言ってくる中、隠れるように僕たちは席に戻った。
先程感じた彼女の感触や匂いに、付き合っていた頃の想いが蘇る。忘れていた想いが溢れてきた。
閉会の挨拶が終わり、みんな帰っていく。告別式を明日行うため、親戚の多くは近くのホテルに泊まるのだろう。
僕は彼女に話がしたいと声を掛け、片付け後ならと了解を得た。一緒に片付けをする。
片付け後に、彼女と共に伯父さんが眠る部屋に来た。伯母さんが座って伯父さんを見ている。彼女が座り、その目前に僕も座った。
「話しとは、なにかしら。」
「連載を数本抱え、収入が安定した。君を迎えに来たんだ。」
「そう。努力したのね。それがあなたの気持ち?」
「ああ、あの時から変わらない。君のことが好きだ。」
「わたしの気持ちは聞かないのね。」
彼女は少し横を向き、考えてから、真っ直ぐ僕を見て答える。
「行かないわ。出直して頂戴。」