表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

本当の気持ち


恵美の視点



目が覚めると見知らぬベッドに居た。隣には誰もいない。

昨晩は部長と一緒にいたはず。どうしたのか思い出せない。服は乱れていなかった。

テーブルにバッグが置かれており、近くに書き置きを見つけた。

部長らしい。短いが思いやりを感じる。


---


朝9時に会社に来なさい。

遅くなってもいいよ。待っているから。


---


いまの時刻は7時過ぎ。スマホで場所を見ると会社の近くだった。時間はある。身支度を整え、9時前にホテルをチェックアウトする。支払いは済んでいた。


会社に着くと部長が座っている。

わたしの姿を見ると、立ち上がった。


「おはよう。」

「おはようございます。昨日はありがとうございました。ご迷惑を掛けたようで、ごめんなさい。」

「嬉しかったよ。君を娘のように思っているから。娘と一緒に出かけるのは、こういうものなのかな。」


部長は昔を思い出しているようだ。


「新人の君が来たときに、娘が帰ってきたように思ったんだ。以来、君を手元に置かせてもらった。君が優秀なこともあるがね。娘のために手を尽くすのが父親だろう?」


部長の姿に、お父さんの姿が重なる。


「・・・お父さん?」

「ああ、お父さんだと思って何でも相談してごらん。悩みは何かな。」


涙が溢れる。


「彼と別れたの。もう好きではないって、わたしから言ってしまった。」


部長の胸に飛び込み、涙を流す。


「彼を嫌いになったのかい?」

「ううん。」

「まだ好きなのかい?」

「・・・。」


部長がわたしの頭を撫でる。


「誰も見ていないよ。強くある必要はないんだ。お父さんに本当の気持ちを言ってごらん。」


部長の優しい言葉に、感情が溢れた。


「わからないの。わたしがまーくんをどう思っているのか、わからないの。」


声を出して、憚らずに子供のように泣いた。

しばらくして落ち着くまで、部長は何も言わず、優しく抱いていてくれた。


「ごめんなさい」

「落ち着いたか?」

「うん。」


少し無言の時間があったが、嫌な感じはしなかった。お父さんのように温かい。


「今度出す商品のポスターは見たか?」

「ううん、まだ。」

「そこの壁に貼ってある。見てごらん。」


ポスターを見る。


楽しげに女性が走っている。

これは、わたし?

溢れるような笑顔で絵の中のわたしは躍動している。

いや、これはわたしではない、だってわたしは笑えないもの。

だけど、、


食い入るように見る。


後ろに小さく描かれた男性。この構図。以前に見たことがある、懐かしい。彼の姿を思い浮かべた。


ハッとする。この絵は、彼の絵?


「書き上がるまで1ヶ月近くかかった。その間に連載を休止したり、彼と出版社は大変だったようだが、、、。

気がついたかな。この絵は君だよ。世界一の笑顔を描いてもらった。君の彼にね。」


やっぱりわたし。これがわたし。彼が描いた、世界一のわたし。

また涙が溢れる。今度は嬉しい涙。


「いい作品だろ?」

「はい!」

「いい笑顔だ。」


「部長、大好き。本当のお父さんみたい。」


部長はうなずき、わたしの頭を撫でる。


「行ってきなさい。」

「はい!」



彼のマンションまで急いで向かう。

ドアをあける。

彼の姿が見えた。

彼の胸に飛び込む。


まーくん、好きよ。愛してる!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ