珍道中のはじまり
どれくらい時間がたったのか
俺は頬の冷たい感触で目を覚ました
(ん?ここは?)
周りを見渡すが真っ暗で何も分からない
どうやら俺は小さな水溜まりに顔が浸かっていたらしい
大きく深い水溜まりでなくてよかった
もし、そうなら水溜まりで水死なんて恥ずかしい事になってしまうところだった
(どこなんだ、ここは?)
少し暗闇に目が慣れてきたのか、どうやらここは洞窟の中のようだ
右と左に奥まで続いているようだ
でも、どこまで続いてるのか全く分からない
その闇の中に白い物がみえた
「あっ、ばあちゃん!!」
急いで駆け寄り倒れてるばあちゃんの肩を叩いて反応を見た
「ばあちゃん、生きてるか!?
ばあちゃん!!」
何度か呼びかけてるとしばらくして目を覚ました
「ん〜?
あら、拓ちゃん?
ここはどこ?」
ばあちゃんはのんびりと目を覚ました
(全くこの人のマイペースは筋金入りだな...)
心で苦笑しながら再び周りを見渡す
「ばあちゃん、なぜか分からないが洞窟の中にいるみたいなんだよ」
「ありゃ〜
いつの間にこんな所に来たんだろうね〜」
ばあちゃんもキョロキョロしながら少し不安そうだ
いや、不安であってくれ
そうじゃないと俺一人でオロオロしてる事になるから
(でも、これからどうするか...
このままずっとここにいるわけにもいかないし...)
「ばあちゃん、とりあえずどっちかに歩いてみようか
出口があるかもしれないし」
「どっからか風が吹いてたらいいのにね〜
風が吹いてたらその方向が出口だからね〜」
なるほど、そうなのか
俺は微かな風の流れも逃すまいと全神経を集中した
ばあちゃんは右人差し指を先程、俺が浸かっていた水溜まりにつけて指を立てたまま辺りをうかがっている
「拓ちゃん、どうやらこっちの方から少し風がきてるようだよ〜」
ばあちゃんは左側を向いてゆっくりと歩き出した
「ばあちゃん、真っ暗だから危ないよ
足元に気をつけるんだよ」
とか言ってると、お約束のように俺がコケた
「全く拓ちゃんは〜
あいかわらずそそっかしいね〜」
ばあちゃんはニコニコしながら手を差し伸べてくれた
その手を握り返して起き上がり二人で手を繋いだまま、慎重にゆっくりと歩き出した
どれくらい歩いただろう...
俺としてはかなり歩いたつもりなのだが出口にたどり着かない
(もしかして、右側だったのか...)
少し不安になっているとばあちゃんが突然立ち止まった
「ばあちゃんどうしたの?
疲れた?」
声をかけたがすぐにばあちゃんに口を塞がれてしまう
その直後、何やら進行方向の奥の方から足音と話し声が聞こえてくる
俺たちは適当な岩陰に身を潜めた
だんだん、足音と話し声が大きくなりさらに灯りまで見えてくる
(誰か来た!?)
俺たちを助けに?
まさか、こんな知らないとこで俺たちが遭難(?)してるなんて誰も知らないはず
色々と考えてるうちに足音はどんどん近づいてくる
よく聞けば話し声も人間の言葉じゃない
俺は相手にバレない様にゆっくりと灯りの方を見た、そして目を疑った
全身毛むくじゃらで犬の様な格好
でも、あきらかに違うのはそいつらが立って歩いてるってとこだ
これは正しくゲームなんかによく出てくる
(あれはコボルト...?
マジかよ...)
どうしたらいいのか
奴らはどんどん近づいてくる
数もどうやら三匹のようだ
幸い体格は大きく無いのだが、手には松明の他に何やら武器の様な物を持っているようだ
俺一人なら何とか逃げ出せるかもしれないが、ばあちゃんがいるとなると難しい
(俺が囮になってそのうちにばあちゃんだけでも?)
そうだ、その方法でいこう
何としてもばあちゃんだけは俺が守らないと
俺はばあちゃんの耳元で小声で囁いた
「ばあちゃん、俺がアイツらの気を引いているうちに向こうに走って行くんだよ...」
「そんな、そしたら拓ちゃんが...」
「大丈夫、ばあちゃんは俺が守るからね」
ばあちゃんを安心させるためにばあちゃんの手を握りしめた後、地面から手頃な石を三つくらい探し出した
そして一番小さな石をコボルト達の後ろの方目掛けて投げた
カツン
上手く石はコボルト達の後ろに落ち、小さな音をたてた
その音に反応したコボルト達が一斉に後ろを向いた時
「ばあちゃん走って!!」
ばあちゃんは今来た道を走り出す、が、やはりばあちゃん...
足遅〜...
でも、俺はコボルト達を相手にしなければならない
コボルト達もこちらに気が付き走ってくる
走ってくるコボルト目掛けて石を投げつけた
「ギャー!」
「グワーッ!」
石はグチャっと鈍い音を出してコボルトにヒットした
しかし倒れたのは二匹
一匹だけは俺に向かって襲いかかってきた
「グオーッ!!」
雄叫びをあげながら飛びかかってきたので、腹に蹴りをかます
と言うか、偶然とっさに出した足にコボルトの腹が当たったのだ
コボルトはその蹴りで後退し苦しんでいる
その様子を見て俺はばあちゃんの方に走ったがまだ、そんなに遠くには走れてなかった
「ばあちゃん、早く行くよ!!」