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26.本当のこと

 クロムが放ったファイアボルトの爆煙が晴れた後、そこにニーナは存在していなかった。

 消し飛んだ、ということはありえない。確かにクロムのファイアボルトの威力は凄まじかったが、人一人を丸ごと跡形もなく消滅させるほどの威力はない。


「雷槍」


 不意にニーナの声が真上から響く。直後、一瞬にしてクロムの左右に魔法陣が展開し、雷撃が放たれた。

 見てから反応するのでは間違いなく間に合わない。しかしエルフィリアの感受性を持ってすれば、発動前に察知することは可能だった。

 エルフィリアが雷撃に対応した反魔法を両手で左右に展開し、クロムはファイアボルトを声がした真上に向けて放つ。

 雷撃はエルフィリアの力で跡形もなく消えた。一方でファイアボルトがニーナに衝突することはなく、直前で瞬きの間に視界から一瞬で消え失せる。


「――ふぅん……なんて反魔法の熟練度。さすがにちょっと驚いちゃったわ。まさか中級魔法を二つ、一瞬でかき消すほどなんて」


 ニーナはいつの間にか、クロムとエルフィリアの逃げ道を塞ぐように、出入り口の前に立っていた。

 その左の手のひらの上には、通常の二次元的な魔法陣とはまるで違う、立体的な魔法陣が浮いている。


「……どういうこと? さっきからニーナ、どうやって移動して……?」


「転移の魔法なのです」


「転移?」


「あの左手にある立体魔法陣の魔法なのですよ。個人で使えるような魔法使いなんていないと言われてる超高等魔法なのですが……」


 凄まじい魔力量、そして魔法技術の両方が備わっており、かつ立体魔法陣への深い理解があること。それらを満たした上で、状況に応じて三次元術式に手を加えて転移先を指定する柔軟性を持つ。

 そうすることで、理論上は個人で扱うことも可能だろう。

 だが、あくまで理論上。その難しさは、術式のすべてを己の感覚のみで読み取って真逆の術式を瞬時に描かなくてはならない反魔法と同等の最難関クラス。加えて、彼女はそれを発動しながら、中級魔法をも高速で二つも繰り出してきた。

 尋常な魔法の腕ではない。賢者を暗殺しようとしていただけはある。


「ふふ。じゃあ次は、これならどう?」


 ニーナが右手を掲げる。すると今度は彼女の背後に次々に新たな魔法陣が形成されていく。

 その数、約十三。そしてそのすべてが、さきほどの中級魔法をさらに凌ぐ上級魔法。


「これは……まずいのです……」


 ニーナの実力が想定を遥かに超えて高すぎる。

 学園主席だとか、そんなちゃちなレベルでは済まされない。

 仮に彼女が人間であれば次期賢者とまでされるだろうほどの、魔法使いの頂点にもまるで見劣りしない才能と技術。

 エルフィリアの額を冷や汗が流れた。


「さーん、にー」


 右手の指で数字を示し、ニーナが楽しそうにカウントダウンを始める。


「クロム! 私の後ろに隠れるのです! お前のファイアボルトじゃこっちが爆発の巻き添えを食らうのです!」


「う、うん!」


「いーち……発射」


 二次元術式を用いた魔法には、下級、中級、上級の段階が存在する。

 下級の基本魔法はボルト魔法。小さな球体に特定の属性を込める、操作性重視の魔法。

 中級の基本魔法のランス魔法。槍の形、あるいは槍のように一直線に標的へと向かう、高速で高威力の魔法。

 そして上級の基本魔法がブラスト魔法。人一人容易く飲み込むほどの砲撃による、絶対的な破壊の魔法。

 その、ブラスト魔法、火や水、風や氷、雷と言った様々な種類を内包した、十三の魔法陣による十三のブラスト魔法。


「く、ぅ……!」


 もしもすべてが同じ術式であれば、エルフィリアの実力なら反魔法でかき消すことも難しくはなかった。

 しかし、これはすべてが違う術式。これでは一つ一つの魔法に対応した反魔法を十三、生み出すしかない。

 技術的に可能かどうかと言われれば、ぎりぎり可能なレベルだ。しかし魔力量はそうも行かない。

 元々、縄から抜け出すために複数の魔法を連続で使って、さきほども中級魔法をかき消したばかり。

 いくら反魔法の必要魔力量が少ないと言っても、そもそもエルフィリア自身の魔力量が常人の五分の一という少なすぎるほどの量なのだ。

 これほどの上級魔法を一気にかき消すには、どう考えても魔力が足りなかった。


「うぐっ!?」


「エルちゃん!」


 ブラスト魔法のほとんどは打ち消すことに成功している。しかし魔力が足りず術式が不完全なせいで、その余波が時折エルフィリアを襲う。

 体のあちこちに傷を負い、火傷を負い、その上から電撃や氷を浴びて、さらなる激痛がエルフィリアの体を駆け巡る。

 ブラスト魔法が収まる頃には、エルフィリアはぼろぼろだ。

 ふらふらと足元すらおぼつかず、魔力も空っぽで、もう反魔法を行使することができない。


「ここまでね」


 ダメ押しとばかりにニーナが雷槍の魔法陣を生み出し、エルフィリアに放つ。

 咄嗟にクロムはファイアボルトで相殺したが、逆にそのファイアボルトの爆風がクロムとエルフィリアに襲いかかり、二人は吹き飛ばされた。


「これが実力の差よ。技術はあっても魔力がまるでない、欠陥の魔法使い。そして魔力はあっても技術がまったく伴ってない、ただの器。そんな程度の存在に、魔族随一の魔法の腕を持つ私が負けるはずないじゃない」


 まるで、勝負にすらなっていなかった。

 ニーナは初めからずっと余裕そうな表情で。否、実際に余裕で。

 ただ二人を試すように魔法を使って、それだけで終わってしまった。


「うぅ……」


 ファイアボルトの爆風を食らっただけのクロムはなんとか立ち上がれたものの、それに加えてブラスト魔法の余波をいくつかも受けたエルフィリアはそうもいかなかった。

 倒れ込んだエルフィリアは身じろぎすることはあれど、怪我がひどすぎて立つことができないようだった。


「もう一度、あなたにチャンスを与えましょう。今ここでエルフィリアちゃんを殺しなさい。そうすれば、今度こそあなたを同胞として信用してあげる」


 そんなニーナの言葉に、クロムはエルフィリアに一瞬視線を向けた後、ニーナに向き直る、

 そして手の中にファイアボルトを生み出した。

 無論、その矛先はニーナだ。


「……呆れたわ。まだやる気なの? この私と。勝ち目がないなんてわかりきっているでしょう? たとえあなたが魔王の器でも、しょせんは器。大したことのない中身しかない今のあなたに勝機などない」


「エルちゃんは……わたしの大切な家族。名前がなかったわたしに、名前をくれた。わたしの存在を受け入れてくれた。だから……」


「受け入れてくれた……ねぇ。本当にそうなのかしら? 本当にエルフィリアちゃんは、あなたのことをちゃんと受け入れて、信じてくれてるのかしら?」


「……どういう意味」


「言葉通りの意味よ。エルフィリア。性は、ヴァイスィードハーツ。そんな彼女が、心からあなたを信頼しているなんて思う?」


 ニーナが言っていることの意味が、クロムにはわからない。

 当然だ。ヴァイスィードハーツという単語が、エルフィリアの姓であること以外になにを示すのか、クロムは知らない。


「教えてあげる。エルフィリアちゃんの『本当のこと』。あなたとエルフィリアちゃんの、本当の関係を」


「わたしとエルちゃんの……?」


「ニー、ナ……! それは……!」


 這いつくばりながらも、必死な形相でエルフィリアがニーナを睨む。


「ヴァイスィードハーツ……それはね、ある二人の魔法使いが国から授かった姓なの」


 けれどニーナはそんなエルフィリアをあざ笑うように、エルフィリアとクロムという二人の関係の奥底にある、隠された真実を暴き出し始めた。


「本来、魔法使いは研究だけに没頭することが多い。でも、魔法使いとして多くの優秀な功績を残して国に貢献し、その力で厄介事を解決することも多かった二人は、王からの信頼も厚かった」


「……その二人って、まさか……」


「二人は優秀な魔法使いの夫婦で、その間に産まれた子どもの名前が、エルフィリア」


「……エルちゃんの両親……」


「そしてその二人は魔法使いでありながら、冒険者でもあった。冒険者は魔物なんかの害獣を退治するなんでも屋のようなものでね、いつ死ぬかもわからない。そして二人はエルフィリアちゃんが幼い頃、冒険者としての仕事の最中に戦死した」


 かつてクロムが初めてエルフィリアの家に訪れた時、彼女はこう言った。

 ――別に寂しくなんてないのですよ。もう何年も前の話ですし、お父さんもお母さんも冒険者っていう、いつ死んでもおかしくない職業だったですからね。

 それをクロムは覚えている。だからそこまでは、クロムも知っている話だ。

 問題はここからだと。そう言いたげに、ニーナは意地悪げな笑みを浮かべた。


「七年前、戦争があった。私のお母様たちが起こした戦争。その要となるイクリプスを巡った闘争が」


 急に、話が切り替わる。

 さきほどまでエルフィリアの両親の話をしていたのに、いきなり七年前の戦争の話に。

 それがどうしてか、クロムは理解できなかった。

 そんなクロムを見て、ニーナはさらに笑みを深める。


「ねぇ、七年前の戦争にあなたの責任はないと思う? なにも知らなかったとは言え、イクリプスの魔力供給源だったあなたに。人間や魔族の括りなどなく、多くの人が亡くなる戦争の中心にいた、あなたに」


「……わたしは……」


「あなたには『心』があった。自分の意思があった。その気になれば、魔力供給をやめることができたはず。でも、それをしなかった」


 かつてクロムは親代わりだった人に侮蔑と否定の言葉を投げかけられた。

 もう一度頭を撫でてほしい。ただそれだけの思いで、孤独に耐えてきたのに。

 でも……それでも、役に立ちたかったのだ。

 だから指示のすべてに従った。

 そうすれば、あの愛情と温もりがまたもらえるかもしれない。そんなかすかな期待があったから。

 だからきっと、クロムに責任があるのかどうかと言われれば……あるのだろう。

 なにも理解はできなかった。その結果としてなにが起こるかも知らなかった。

 だが人の死は、決して無知を盾にしていいものではない。

 今のクロムには、それがわかる。

 わかって、しまう。

 だから次に告げられたニーナの『本当のこと』の前に、クロムは言葉を失わざるを得なかった。


「――――エルフィリアちゃんの両親はね、七年前の戦争で亡くなったのよ。魔族に殺されたの」


「…………え……?」


「七年前の戦争には賢者と多くの兵士、そして冒険者が投入された。エルフィリアちゃんの両親はその投入された冒険者だった」


「なにを……言ってるの……?」


 ただ呆然とする。


「ヴァイスィードハーツは優秀な魔法使いの夫婦として有名だった。賢者だって二人のことをとても信頼していたと言うわ。でもね、二人とも亡くなってしまった。あなたがその中心にいた、七年前の戦争によって」


 ニーナはさらに続けた。


「ヴァイスィードハーツの姓を持つ二人の夫婦は有名だった。だからどこでどうやって亡くなったのかはすぐに調べがついたわ。二人が死んだのはね、この旧魔王城内部なの。そして殺したのは魔王様の側近とされていた者……つまりあなたを創り出し、その管理をしていた魔族……」


「あの、人が……?」


「あなたは、いわばエルフィリアちゃんにとって親の仇なのよ」


 本当なのか、と。エルフィリアに視線を向けるべきだったのだろう。

 だけどクロムにはそれができなかった。

 ただ震えていることしかできない。怖くて、エルフィリアの方を向くことができなかった。


「エルフィリアちゃんはあなたのことを、これまでどう思ってきたのかしら? 親の仇のくせに、平気な顔をして近づいてくるあなたを。両親を殺した関係者のくせに、幸せそうに暮らしているあなたを見て……エルフィリアちゃんがなんとも思ってなかったと思う?」


「わ、わたし……が……」


 エルフィリアとともに過ごした日々が頭の中を駆け巡る。

 たとえ記憶を失っていても、似たような境遇だと心のどこかで感じていたから、自然と懐いてしまっていた。

 自分と同じように、ひとりで生きていた彼女を見て、思わず頭を撫でていた。共感を覚えていた。

 共感?

 その痛みを与えたのは、誰だ?

 エルフィリアに、二度とかなわない悲願を抱く原因を作ったのは……。

 そんな真実も知らず、何度も、何度も。エルフィリアのそばで。

 自分は、なにをした? なにを思っていた?


「ち、ちが、わ、わたしは……そんな、つもりじゃ……!」


 幸せに。ずっと、この毎日を過ごし続けていたいと。

 昔のことなんて別にいい? どうでもいい?

 誰かを愛して、誰かに愛される、そんな幸せな日々をこれからもずっと続けていきたかった?

 もしも思い出すことでエルフィリアとの絆が揺らいでしまうとしたら、そんな過去はいらない?


 ――バカを言うな。


 エルフィリアの人生を狂わし、かつての幸せを壊したのは、クロムだ。

 それを知ろうともせず。ただ逃げて、目を背け、真実に向き合うことを拒んだ。

 そんなクロムと一緒にいたエルフィリアは、そんなクロムを見続けていたエルフィリアは……いったいクロムのことを、どう思っていたのか。


「わかったでしょう? 人間なんて信用ならない。でも私たち魔族はいつだって共通の悲願を掲げて行動している。心は常に一つ。疑ったり、怖がったりする必要なんて、少しもない」


「わたしが、エルちゃんの……」


「私と一緒に来なさい、魔王の器。私とともに、人間を駆逐しましょう?」


「エル、ちゃんの……大事な、両親を……」


 昨日、エルフィリアは初めて涙を流した。

 その痛みを、クロムは確かに知っている。

 だから、わかるのだ。それがどれだけ残酷で、エルフィリアがどれだけ苦しんで生きてきたのか。

 ……そう。

 初めから、エルフィリアのそばにいる資格などなかったのだ。

 エルフィリアの大切なものを奪ったクロムに。


「……まだ混乱しているようね。しかたない。とりあえず気絶でもしていてもらいましょうか。その後、じっくりと人間が私たちにしてきたことを教えてあげればいい。そうすれば、あなたもこちら側に――あら?」


 ニーナがクロムを捕らえようと動き出そうとした瞬間、小さなファイアボルトがニーナに目がけて飛んでいき、ニーナはそれをひらりと躱した。

 それを放ったのは、傷だらけながらも立ち上がってみせた、エルフィリアだ。

 強い瞳で、まだ諦めていない眼で、彼女はニーナを見据えている。


「長話が過ぎた、ですね……ちょっとだけですけど、魔力が回復したのです」


「長話もするわ。負ける要素がないんだもの。それで? その雨の一粒程度しかない魔力で、なにをどうするつもりなのかしら?」


「クロムを……」


「魔王の器を? どうするの? 私の手に渡らないよう、壊すとでも?」


「守る、のです」


 一瞬、この場に沈黙が訪れる。

 クロムを守る。

 その一言にニーナは目をぱちぱちと瞬かせた後、面白いものでも見つけたと言わんばかりに、けたけたと笑った。


「これは傑作だわ。自分の両親を死ぬことになった原因を作った存在を守るですって? ふふ、ふふふ……面白い冗談ね」


「お前が知っているのは、あくまで魔王の器なのです。お前は……クロムのことを、なにを知らないのですよ」


「はい?」


 クロム。それは、エルフィリアがとある一人の少女に与えた名前だ。

 決して、魔王の器などという、物ではない。


「クロムは……不器用で、言葉足らずで……でも、思いやりのあるやつなのです」


「綺麗事ね。そこの器は、大切だったあなたの両親を殺した原因なのよ? 本当は、ずっと憎かったんでしょう? 殺してやりたいって何度も思ったんでしょう? 真実を言ってやりたいって、ずっとずっと思ってたんでしょう?」


「……本音を言えば……そりゃ、数え切れないくらい、思ったのです」


 クロムがそれに、びくっと震える。

 しかしエルフィリアはそんなクロムに一瞥もせず、ただニーナをまっすぐに見据えたまま、言う。


「のんきに隣で寝ているこいつを、何度刺し殺してやろうと思ったのかわからないのです。幸せそうに生きているこいつを……私はずっと……」


「やっぱりね」


「でも……もうそんなこと、欠片も思ってないのです」


 初めて会った時、クロムは怯えていたエルフィリアの頭を撫でた。

 泣くという行為が、悲しかったり、苦しかったり、辛かったり。そういう時に流すものだと、感覚的に理解していたから。

 エルフィリアに両親がおらず、独りで暮らしていると知った時、その寂しさを少しでも和らげたいと願って、クロムは頭を撫でた。

 記憶はなくしていたけれど、孤独というものの空虚さを、心のどこかで覚えていたから。

 エルフィリアが自らのかなわない望みについて吐露した時、その頭を撫でた。

 ただ、素直な気持ちを伝えたかった。たとえ失ったものは戻らなくても、あなたはもう独りじゃないと。少なくとも自分だけは、あなたを愛していると。


「昔の、器だった頃のクロムなんて……どうだっていいのです。今のクロムは苦しみが、悲しみがなんなのかを知っているのです。自分と同じ痛みを持つ誰かをどうにかしてあげたいと思うような……そんなやつに、望んで誰かを傷つけられるはずがないのです」


「……愚かだわ。それじゃ両親が報われないと、そう思わないのかしら?」


「優しかった私のお母さんとお父さんが、クロムを殺せだなんて言うはずがないのです。私の両親をバカにすんじゃねぇのですよ」


「まさか、無知が免罪符になると?」


「無知を利用したのはお前らなのです。クロムを恨むのは筋違いなのですよ……クロムは」


 そこで言葉を切って、一瞬だけ、エルフィリアはクロムに目を向けた。


「私の、大事な家族なのです。その家族を、お前なんかには絶対に渡しはしないのです」


「…………はぁ」


 心底呆れた。

 そう言わんばかりにニーナは深々と息をつき、冷たい瞳でエルフィリアを見つめた。


「どちらも愚か者ね。かたや本来の役割を放棄し、人間に誑かされて……かたや両親の無念を晴らす気概もなく、あまつさえその原因に肩入れする。まったく理解ができないわ」


「そりゃお互いさまなのです。私も、お前の語る理屈はなに一つとして理解できないのですよ、ニーナ」


「なら、これ以上の問答には意味がないわね。もう、じゅうぶんだわ。そろそろあなたにはご退場を願いましょう」


 ニーナが、消える。

 左手にある立体魔法陣、転移の魔法を使ったのだ。

 その出現地点は、エルフィリアの真後ろ。

 エルフィリアはそこにニーナが現れることをわかっていたが、もうすでにぼろぼろの体では反応することができなかった。


「死になさい、エルフィリア・ジェイド・ヴァイスィードハーツ」


「ぁ――――」


 ニーナが言っていた通り、今のエルフィリアにある魔力はしょせん雨の一粒程度。それでは反魔法を繰り出すこともできず。

 魔法によって貫通度を増したニーナの手刀が、エルフィリアの胸を背後から貫いた。

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