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1.不法侵入少女

 七年前、戦争があった。


 はるか昔に封印された、強大な力を誇る七人の魔王。

 七年前、そのうちの一人が復活するとともに、大陸を焼き払わんと古代の大魔法を天空に展開し、人類へと宣戦布告をしてきたのである。

 かつては勇者と呼ばれる魔王に対抗する力を持つ者たちが存在したらしいが、今の時代にそのような者はいない。

 勇者がいない人類にとって、復活した魔王との決戦は多くの死者を出すほどの熾烈なものだったが、かろうじて人類は勝利を収めることができていた。


 さて、ここはそんな最後の魔王が根城にしていたという古城。

 かつての戦争の余波のせいか、あちこちにヒビが入っており、どこもかしこも埃くさい。

 そんな城の中を空き巣のように、しかして我が家のごとく悠々と探索する少女が一人いた。


「ふっふっふ……魔王が根城にしていたお城……貴重な魔導書とかが眠ってるに違いないのです! 絶対見つけてやるのですよっ!」


 先端が尖った黒い三角帽、そして黒いマントが特徴的な服装をしている。

 手には少女の背丈ほどの長さをした、先端に魔石と呼ばれる宝石をくっつけた杖を持っている。

 少女は魔法使いだった。

 目的は、かつての魔王が残したレアな魔導書や研究記録。

 この旧魔王城は立入禁止区域に指定されており、許可がなければ入ることを許されていない。もしも許可証もなしに出入りしているところが見つかれば即刻牢屋行きである。

 そしてこの少女は当然のごとく許可証など持っていない。

 完全に不法侵入である。

 けれど、少女に悪びれる様子はまったくない。

 どうせ城の中はずいぶんと昔に国や冒険者たちが探索済みであるし、貴重なものなど大して残っていない。それゆえに警備だってずさんだし、立ち寄る者もほとんどいなかった。

 今更自分一人が勝手に散策するくらい別にいいだろう、と思っている。


「むぅ……やっぱりほとんどのものが回収済みですね。ちっ、ここを先に探索したのはケチなやつらなのです。あとに家探しする私のためにちょっとくらいお宝を残してくれたっていいでしょーに」


 危険なものが残っていないか念入りに探すことも仕事のうちだっただろうに、「そんなこと知らんのですよ」と言わんばかりに心中で悪態を吐く。


「この調子だとまともに探したって意味なさそーなのです。なにか隠し扉とか隠し階段とか、そういうものでもあれば希望が持てるのですが……」


 そんな簡単に見つかるとも思えないけれど……。

 それでも希望を持つことは大事だと思うのだ。少女はそう主張する。

 この辺にスイッチとかないですかねぇ、と壁に手を当てながら進んでみる。


「……まぁ、さすがにそんなすぐに見つかりはしな――ん……?」


 こつこつ。なんだかここだけ音がおかしい。

 どうやら奥に空洞があるようだった。

 なにか開閉する仕掛けがないかと、ぺたぺたと近くの壁や床を調べてみる。

 しかし、特になにがあるわけでもない。

 隣の部屋から入れる仕掛けになっているかとも思ったが、そういうわけでもなさそうだ。


「ふーむ。でも魔法を使えばこれくらい簡単、に?」


 土の魔法で壁を取り除こうかとも思ったが、うまくいかなかった。

 魔法が弾かれたのだ。

 試しに別の壁や床で同じ魔法を試してみたが、そちらは普通に形状を変化させることに成功する。


「この壁だけ……むむ。反魔法(アンチマジック)の術式が付与されてるみたいなのです」


 ぺたぺたと壁に手を当てて、その特性と魔力の波長から、かけられた魔法の構造を把握する。

 反魔法。魔法術式に直接干渉し、それを巻き戻すことで魔法をかき消す魔法技術のことだ。


「あれはそこそこ高等技術のはずなのです。それも直接人が行うのではなく壁に付与するとなると難易度はもっと上がるはず……」


 少女は高鳴る胸の衝動を抑え切れなかった。


「これはもしかすると本当にお宝が眠っているかもしれないのですよっ!」


 きょろきょろ。誰も見てないよね?

 誰もいないのはわかり切っているのに、辺りを見回す。

 その姿はさながら金目の物を見つけた空き巣のようである。

 というか実際空き巣である。


「ふっふっふ、夢が広がるのですよー」


 あらゆる魔法を弾く反魔法の術式。しかも物理的衝撃にも耐えられるよう、反魔法とは干渉し合わないよう物質強化の術式まで展開されているようだ。

 魔法使いであれ戦士であれ、普通であればここで手詰まりだ。

 しかし、この自立式の反魔法にはいくつかの欠点がある。

 一つは、かき消す魔法が反魔法と比較してあまりに強大すぎる場合、完全に無効化することができず制御不能な余波が発生すること。

 その余波を使えば反魔法自体をどうこうすることはできずとも、壁自体を破壊することができる。

 ……が、今この壁にかけられている反魔法は相当強いものである。これを上回りたいなら最上級の攻撃魔法を放たなければならない。そしてそれをしたところで衝突の衝撃は下級魔法の『ファイアボルト』程度。それでは物質強化も施されているこの壁を破壊することはできない。

 それに、少女は大規模な魔法はあまり得意ではなかった。

 ゆえに少女が行う反魔法の無効化手段は、反魔法のもう一つの欠点を突いたものになる。

 もう一つの欠点――つまり、反魔法の行使者よりも解こうとする者の方が魔法技術に熟達している場合、反魔法そのものを反魔法で打ち消せてしまうというもの。


「……よしっ、解除してやったのです! へへーんっ、反魔法は得意分野ですからね! 反魔法付与なんて小細工をしやがった野郎ざまぁみろなのですっ!」


 ふんふーん、と鼻歌を歌いながら土の魔法を行使する。

 今度は最初のように弾かれることなく、容易に壁を取り除くことができた。

 壁がなくなった先には暗闇の空間が続いている。どうやら地下につながっているようだ。


「隠し通路……! きっとこの先に未知なる魔導書とかが眠ってるに違いないのです!」


 光の魔法で明かりとなる光球を生み出し、意気揚々と階段を下りて行く。

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