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第84話 ダークエルフの姫君

 パァン! パァン!


 耳をつんざくような銃声が森に響く。音がするたびに兵士たちの額や首、胸に穴が開き倒れていく。

 オレイカルコス連合の侵攻を受けているダークエルフの国、サーマヌルク国は風前の灯火であった。


「姫! 私たちが時間を稼ぎますのでお逃げください!」

「逃げろと言われても……私たち(ダークエルフ)を受け入れてくれる国なんてあるの!?」

「ここから北東に行ったところにあるハシバ国なる人間の国にはダークエルフも住んでいるという噂です。そこを頼りましょう!」

「人間の国……いやこの際贅沢は言ってられないわね。わかったわ、行きましょう」


 姫君は決断を下した。




「なぁギズモ、この世界って銃はあるか?」

「銃ですかい? 一応ありますけど、正直火薬がネックであんまり扱いたくないんですよね。何せアイツはちょっとしたことでドカンといきますんで。

 物好きなドワーフ達が何とか普及させようと頑張ってはいますけど、それより魔法の方が安全なんで広まってはいませんね」


 やはりというか、地球の歴史とは違い魔法技術が重視されているせいか科学技術があまり発達していない。

 例えば火薬。この世界にも銃弾の材料にもなる火薬はあるにはあるが暴発する危険性が高いとして普及していない。

 それよりも使い手は限られるものの、暴発の危険性が無い魔法の方が優位だ。




 マコトがギズモたちエンジニア達への視察を終えて城に戻ってくると、配下が彼に報告をするために待っていた。


「閣下。ダークエルフの集団が我が国に亡命したいと申し出ております。いかがいたしましょうか?」

「亡命だと? まぁいい、話を聞こう。連れてきてくれ」


 マコトが王の間に行くと、エルフの中でもひときわ美しく整った顔と身体、そしてそれを際立たせる美しいドレスを着た女のダークエルフがいた。


「謁見の機会を設けていただき感謝します。私はナターシャ=サーマヌルク。150名ほどの同胞がいたサーマヌルク国の姫君です。

 あなたの国ではダークエルフも受け入れているとお聞きしています。生き残りを受け入れていくれるのならできることならどのようなことも致します。

 お願いします。我々を受け入れてくれませんか?」

「規模はどれくらいだ?」

「子供が約20名に女が40名。それらを守る護衛が20名ほどです」

「ふーむ。およそ80名か。いいだろう。近くの森にダークエルフが住んでいる。そいつらの元で生活してくれ。あとは……忠誠を誓ってもらおうか?」


 マコトはスマホを出した。


「あなたは異界から来た王なのですね。いいでしょう。私はナターシャ=サーマヌルク。同胞を受け入れてくれるのなら身も心も閣下に捧げましょう」


 彼女の胸から金色の光が飛び出し、マコトのスマホの中に入っていった。




 難民及び亡命の受け入れを決めた後、マコトはおよそ80名ほどいる難民たちの様子を見にやってきた。

 その中に死にたての男性のダークエルフの死体という物騒なものがあった。その死体の腕や腹には何か所も穴が空いている。明らかに「銃痕(じゅうこん)」だ。


「彼は一体?」

「私の兄です。国を発った時にはかろうじて生きていたのですが……」

「ちょっと残酷な事をするがいいか?」


 マコトはナターシャに一言ことわるとナイフで銃痕の周りの肉を削ぎ、ピンセットを穴の中に入れる。ほじくりまわすと、それは出てきた。

 遺体から摘出されたのはちょうど細長くしたドングリのような形をしており、わずかながららせん状の傷があった鉛の弾丸だった。


「これは……嘘だろ!? こいつはライフル弾じゃないか!」

「らいふるだん……? 何ですか? それ?」

「ああ、知らないのか。って、知るわけないか。ライフルってのは……そうだなぁ。銃弾を回転させる機能の事だ。コマで例えればわかりやすいか?

 回さずに立たせるのは無理だが回していると安定して立つだろ? それと同じで銃弾を回転させると弾道が安定して飛距離が飛躍的に延びるんだ。

 奴らが使ってる銃はお前らが知っている銃とは完璧に別物だと思っていい。射程距離は比べ物にならないぞ」


 現代地球にある殆どの銃の銃身にはらせん状の溝が彫られている。

 これは「ライフリング」と呼ばれており、発射される弾丸はこの溝により回転が加えられ、弾道が飛躍的に安定するのだ。


 現代地球の銃の射程距離はアサルトライフルなら数百メートル、狙撃銃だと1キロメートルを超えるという。

 一方でこの世界ではそもそも銃自体が一般的ではなく、あったとしても射程はせいぜい数十メートル。その差は圧倒的だ。


 もちろんバックにドワーフの職人集団がいたとしても、自動化の進んだ地球の工業力や技術力と比べれば格段に低く地球の物程の性能は無いだろうが、

 それでも「中世の文明に毛が生えた程度」にとっては、仮に射程が100メートル程度だったとしても十分すぎる程の脅威だ。

 大学時代にサバゲーにハマった悪友からたたき込まれた銃の知識がこういう形で役に立つとは思わなかった。


「ディオール、竹だ。至急竹を買い集めてくれ。あと内偵達にオレイカルコス連合が使っている銃を手に入れるよう手配してくれないか?」

「竹ですか? はぁ。かしこまりました。内偵達にも言っておきます」


 銃の開発および普及をさせようと日夜研究しているドワーフに、少なくとも日本人以上には銃の構造に詳しい銃社会アメリカから来た王……実にまずい組み合わせだ。

 このままでは進化した銃に殺される。マコトは危機感を抱いていた。




【次回予告】

サーマヌルク国の難民受け入れ。

それは彼らにとっては決定的な事であった。


第85話 「事実上の宣戦布告」

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