第83話 動き出す老人たち
春も後半に入り少しずつ「暑く」感じられる日も出てくるようになったころ……。
「閣下。おじい様が閣下と話をしたいと申し出ています」
「おじい様って、お前の祖父のキーファーか? 珍しいな。まぁいい、話を聞こう」
エルフェンの祖父がマコトに会いたいと願い出てきた。あの人間嫌いな頑固者のキーファーがなぜ? と思いながらもマコトは話を聞くことにした。
やってきた彼だったが、普段マコトが会うときには常に漂わせている人間に対する嫌悪感が無かった。
「マコトか。噂では聞いたぞ。ドワーフ共と話をした際にワシ等を守ったそうじゃな?」
「ああそうだ。エルフェンとの約束だからな」
「……てっきり奴らに媚びるためにワシ等を売り飛ばすのかと思ったわい。お前さんは少なくとも口先だけではなさそうじゃな」
アメジストパープル色の視線が少し優しくなる。
「なぁマコト。お前さんに賭けてもいいか? 残り40年もない短い命だが、お前さんに託そうではないか」
「分かった。じゃあ忠誠を誓ってくれ」
マコトはスマホを取り出した。
「我が名はキーファー。この短き命、我が王のために燃やそう!」
彼の胸から球状の虹色の光が飛び出し、マコトのスマホの中へと入っていった。
翌日、キーファーの説得によりマコトに協力することになったダークエルフの老人たちが武器庫で作業していた。
彼らは兵士たちが使う鎧下という鎧の下に着る厚手の防護服に魔法をかけていた。
「それはいったい何をやってるんだ?」
「兵士たちの防具に魔法をかけている。物理的防御力を引き上げるためだ。まぁ1度かけても10年しか持たないからその都度かけなおす必要があるがな」
武器や防具にかけて性能向上や特殊な機能を与える付与魔法は昔から知られていたが、
非常に高い魔力が求められるため、今でもエルフの専売特許状態である。
近年になって人間達でも「聖別」という方法で光の魔力を武器防具に宿すことが出来るようになったが、エルフのエンチャントと比べると効果は低い。
それを味方に引き込めたのはでかい収穫だ。
「カボチャたちよ。ノルンからフレア・バリスタを習ったそうだな? わしからもお前たちに守りの魔法を教えよう。使いこなせるはずだ」
同時刻、キーファーはジャック・オー・ランタンたちに魔法を教えていた。
「いやぁ悪いですねぇ。タダで魔法を教えてもらえるなんて」
「何を言ってる。タダで教えるわけないじゃないか」
「げ、やっぱり。後払いですかい?」
「安心しろ。お前たちからは取らん。マコトが全部払ってくれることになっている」
「ちょっと! びっくりさせないでくださいよ」
「ハハッ。すまんすまん。では続きと行こうか」
キーファーは授業を再開する。
「ふーむ、のみ込みが早いな。たった1日でここまでできるとは思わなかったぞ」
「へへへ。何せ魔法は俺たちの飯のタネですからね」
「言うではないか。それだったらこちら側も教えがいがあるな。今日はもう日が暮れるから続きは明日にしよう」
そう言ってカボチャたちを解散させた。
その日の夕方。エルフェンは仕事を終えて家族の元へと戻ってきた。
「ただいま」
「あなた、お帰りなさい」
「「パパおかえりー」」
家族が出迎えると同時に息子が尋ねてくる。
「ねぇパパ。じーじがねこんでるけどなにかあったの?」
「じーじが寝込んでる?」
何かあったのだろうか? 真相を確かめるべくエルフェンは寝室へと向かう。いくつかあるベッドの1つに彼は寝ていた。
「おじい様?」
「エルフェンか。気にするな、少し動きすぎただけだ」
「おじい様、もう年ですしあまり無茶なことはしないでくださいよ」
「フッ……ダークエルフとしてこの世に生を受けてからは己の運命を呪ってばかりだった。この世に生を受けなければこんな苦しみを味わわずによかったと思ったことは数知れない。
だが、いざこうして死が間近に迫ってくればもっと生きたいと思うのは何とも不可解なものだな」
「おじい様……」
「わしは少し寝るから後で食事を持ってきてくれ。お前は早いところ家族のもとへ行け。いいな?」
「分かりました。でも絶対に無茶はしないでくださいよ」
エルフェンは念入りに祖父を諭すと家族のもとへと戻っていった。
エルフの老人たちの手も加わり、マコトの軍は着々と力をつけていた。
【次回予告】
にらみ合いが続くハシバ国とオレイカルコス連合。
その対立を決定的にする出来事のきっかけが起こった。
第84話 「ダークエルフの姫君」




