第82話 オレイカルコス連合との交渉
「……そうか。全員失敗か」
「マコトさんよぉ。あんたドワーフに何か恨みを持たれるようなことでもしでかしたのかい?
あいつらハシバ国の人間だとわかったら急に態度を変えたんだ。仲間たちもそうで、中には国境で弾かれる奴もいたそうだぜ?」
ジェイクは自分の君主に訴える。思い返してみるとまるで「シッシ!」と追い払われる野犬のような扱いだったという。
「うーむ……仕方ない。俺が出よう。オレイカルコス連合のトップと直接交渉しよう」
マコトは直接交渉を決意する。なぜハシバ国の人間をそこまで嫌うのかはわからないがこのまま足踏みをしているわけにもいけなかった。
何通かの手紙をやり取りして2週間後、マコト一行はオレイカルコス連合のトップに指定された砦にやってきた。
まず見て気になった点としては砦に駐留しているドワーフの兵士たちは全員、地球でいうマスケット銃のような武器を持っていた事だ。
どうやらドワーフたちは銃を広めようとしているらしいが、その一環だろう。
一室に会合開始時刻の10分前に着き、相手を待ち構えるように待っていた。
彼らの到着から10分。ブロンドの短髪にコバルドブルーの瞳をした、マコトよりも背の高い欧米人がドワーフを連れてやってきた。
「お前がハシバ国王マコト=カトウか。俺はスティーブ=イェーガー。
おそらくお前が日本から来たのとおんなじで、俺もアメリカからこの世界にやって来たんだ」
「へぇ。この世界からの召喚は日本人だけじゃなかったんですね。それにしても見た目とは違って日本語ペラペラですね」
「そうか? お前はネイティブとほとんど変わらない英語を話せているぞ?」
どうやら万色の神の言語通訳能力は地球の言葉にも適応されるらしい。
マコトはとりあえず握手しようと右手を差し出すが、スティーブは手を出さない。
「はじめに断っておく。俺は日本人が大嫌いだ。
俺が見た限りでは日本人はカネの亡者で、寄付も募金もしないし、何かあったら「自己責任」の一言で相手を切り捨て、自分の財布の事しか考えていない。
俺はそんな黄色いサル共は大嫌いだ」
初対面の人間にもかかわらずアメリカ人の王は激しい敵意を向ける。
「それに、お前たちはかくまっているんだろ? 長耳、それも黒い長耳をな」
さらに参謀と思われるドワーフが追い打ちをかける。長耳……ドワーフが良く使うエルフの蔑称だ。
「やはりその話になるか……」
「アンタら人間にとってはささいな話かもしれんが、俺達ドワーフからすれば重大な問題だ。
ただでさえ長耳ってだけでも受け入れないのに黒いと来たもんだ。黒くない連中の時よりも拒絶反応はずっと高くなるぜ」
地球のファンタジー小説でもそうであったように、この世界のエルフとドワーフも仲が悪い。
理由は色々あるがとにかくお互いに共感できないことが多すぎるため相互理解は全くもって進んでいないのだ。
「知ってのとおり、俺達ドワーフは長耳が嫌いだ。ましてや黒い長耳をかくまってる連中とは手を結べねえ。そいつら全員を俺達に差し出すってんなら考えてやってもいいが、どうだ?」
エルフをドワーフの元に差し出す。そんな事になったら彼らの命の保証は……無いだろう。
「それは飲めん。あいつらを売るつもりはない」
「ならもう俺達はお前に話す事は無い。帰りな」
交渉決裂。話し合いは10分と持たなかった。
ハァ。とマコトはため息をつきつつガタンと音を立てて席を立ち部屋から出ようとする。
「ああそうだ。帰るついでに予言してやる。俺たちが次に出会う場所は戦場だ。忘れるなよ?」
トドメの一言をスティーブはマコトの背中に突き刺すように言う。マコトはそれに何も言い返せなかった。
「すまん。俺でも無理だった」
国王である自分ですらいい成果を引き出せなかったことに平謝りだ。
「マコトさんよぉ、アンタが謝る必要はねえよ。別の方法考えればいいだけの話だしさぁ」
「別の方法か……相手は俺たちを相当憎んでいるからかなり厳しくなるな」
マコト自ら乗り込んでもダメとなると紅鉛鉱の入手は絶望的だろうが、それでも何とかするべく頭をひねる事にした。
この後、スティーブの予言が的中することになるのだがそれは先の話。
【次回予告】
マコト自ら出向いた交渉すら失敗に終わってしまった。
だが完全に成果が何一つないというわけでもなかった。
第83話 「動き出す老人たち」




