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第75話 交渉という名の暴力

 涼しい顔のアルバートと大して暑くもないのに汗だくになっている小国の王とが交渉をしていた。

 

「……降伏勧告か。もしもの話で決定事項じゃないぞ? あくまでもしもの話だぞ? 従わなかったらどうなる?」

「もちろん、我らがハシバ国と戦争になるでしょう。わが軍は傭兵も含めれば3000以上の兵を楽々と調達できます。あなたたちは後先を考えずに無理矢理徴兵しても6~700前後がせいぜいだと聞いています。

 それだけの戦力でわが軍に勝てるというのならどうぞお好きなように」


 圧倒的な戦力差と、自分の手の内である兵力を的確に把握している相手を前に、アルバートと交渉している相手の国王はアブラ汗が止まらず、顔や手のひらからダラダラとあふれ出ている。


「た、頼む。命だけは、命だけは助けてくれ。俺はまだ死にたくない。妻や子供だっているんだ。上の娘はようやくしゃべりだしたばかりなんだ」

「では閣下に忠誠を誓ってもらいましょうか?

 大丈夫です。支配体制は今と極力変わらないよう最善の努力はしますし、民の奴隷化も改宗もありません。税制も我が国と同じにしますし、もちろんあなたやその妻子の命も保障しましょう」

「わ、分かった。それでいい。お前たちの元に下ろう」


 戦争とは暴力を使った話し合いである。逆に言えば、国家間の交渉というのは暴力を使わない戦争である。

 マコトの国、ハシバ国は包囲網で押さえつけることが出来ない位国力がついた。こうなると一々挙兵しなくても話し合いで国は落ちる。

 周辺の小国を取り込んでいき、国は急速に巨大化していった。




「マコト様、メリル様、それにクルス様。新たなお召し物が出来上がったのでお納めいたします」


 ハシバ国で一番服を作るのが上手い仕立て屋であるワーシープの1人から服を受け取る。

 式典用の正装は3人とも初めてで、普段着用の服はマコトにとっては3着目、メリルにとっては2着目、クルスにとっては初めてになる服だ。

 本人たちのリクエストで動きやすいものの、国産の絹をふんだんに使った大国を統べるにふさわしい衣装だった。


「うわすごい。絹がこんなに使われてる」

「それだけ国が大きくなったって事さ。お前には散々迷惑かけたからその罪滅ぼしだ」

「でもオヤジ、下着はハートのパンツなんだよな」

「クルス、バカにするんじゃねえ。あれは『ハート印の勇気のパンツ』って言ってな、武勇ある高名な王子が履いていた由緒正しきパンツの複製品(レプリカ)なんだぞ?」


 クルスは相変わらずマコトに対しては跳ね返りの強い部分があるがこの年頃の子供はそういうもんだと特に気にしていなかった。




「あなた、あなたは国がこんなに急に大きくなっていくことに怖いとか違和感を感じたりはしないの?」

「……」


 メリルの問いにマコトはしばらく黙り込んだ後……答える。


「俺だって怖いさ」

「怖いならなんでやめないの?」

「お前やクルス、それにみんなを守りたいからさ」

「10年後の未来から来たっていうあなたの話、信じてるのね」

「ああそうだ。信じざるを得ない」


 10年後、ヴェルガノン帝国に西大陸南部の国が次々と敗れ滅んでいく中、わずかな望みを託してやってきた47歳のマコト。彼の言ったことは狂言だと考えるものはいまだに多い。

 スマホが作成不可能なこの世界においてマコトが持つスマホと全く同じものを持っていたり、生体認証も突破できたことからほぼ間違いなく本人だろうとは思うが、

 スマホも生体認証も無い地球でいう中世程度の文明の人間には理解できなくても当然の事だろう。

 マコトはそう割り切って47歳のマコトの言い分に懐疑的な意見はあえて全部無視して政策を進めている。


「少しは私の事も見てよね。夫婦なんだし、それに2人目もいるんだから、ね?」

「あ、ああ。わかったよ」


 彼はそっと妻の腹を撫でた。大きくふくれたおなかの中では順調に子どもが育っていた。




【次回予告】

ハシバ国初代国王、マコト=カトウ

彼が生前成し遂げた偉業の一つ「砂糖立国の偉業」が成し遂げられた瞬間だった。


第76話 「砂糖立国の偉業」

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