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第63話 種族間対立の火消し

「閣下、種族間による対立により足並みに乱れが生じています。親睦会でも開いたらいかがでしょうか?」

「親睦会? やめとけやめとけ。どうせ溝が余計に深くなるだけだ」

「ではこの事態に黙って指をくわえていろ、とでもいうのですか?」

「そのつもりもない。お触れを出してくれないか? 内容は……」




 数日後、マコトの名で「種族間対立に関する王の意見」というお触れが出された。

 内容はこうだ。


「我が国における種族間対立に関してだが、結論から言えば無理して仲良くなる必要はない。嫌いなら嫌いなままでいていい。

 ただし嫌いだからと言って暴力をふるうのは止めてほしい」


 最初から「無理して仲良くする必要はない」と述べたお触れはこう続く。


「エルフとドワーフ、植物系魔物と草食系魔物、あるいは人間とオークやゴブリン。そういった相互理解が難しい、あるいはほぼ不可能と言える位仲の悪い者同士は無理して仲良くしようとしなくてもいい。

 嫌いなら嫌いなままで、理解できないのならできないままで良くて、お互いに無関心かつ踏み込まない線を引いてそこを踏み越えないように生活するだけでも構わない。

 ただし暴力をふるうといった犯罪行為だけはしないでほしい。

 そうなったら俺はお前たちを捕まえなくてはいけなくなるし、お前たちも罰金を払うなどして嫌な気分になるだろうからいいことはないだろう」


 マコトのお触れはなおも続く。


「俺みたいな立場の人間からしたら『みんなで手をつないで仲良くしましょう』と言いがちだろうし、君たちもそう言うだろうと思ってこのお触れを見ているかもしれない。

 だがはっきり言おう、そんなのは幻想だ。

 現実には『何をどう頑張っても絶対に仲良くなれない組み合わせ』という物は確実に存在し、おそらくそれは万色の神ですらどうする事もできないだろう。

 同じ人間ですら几帳面な者とずぼらな者とでは全くもって上手くいかないのと同様、種族間で上手くいかないことはお互い無関心でいるのが最善の策だし、むしろそうでなければ必ず破綻するだろう」


 お触れはこの言葉で締められていた。


「「犬は家族」という者と、「犬は下僕」という者と、「犬は愛玩品」という者と、「犬が主人」という者と、「犬は食料」という者とが互いに衝突しつつも上手く共存している国。

 それこそが我がハシバ国の目指している姿だ。互いに衝突はするだろうが何とかうまくやっていって欲しい。それが俺の願いだ。


 後アケリア歴1240年 4月10日

 ハシバ国王 マコト=カトウ」




 午後になってマコトはラタトスクが務める情報局へと足を運ぶ。


「あ、閣下。なんのご用でしょうか?」

「お触れに対する国民の感想を知りたいんだが、できるか?」

「それでしたら取材に出かけた者たちがとったアンケートが集まっていますのでご覧になりますか?」

「ああ、頼む」


 マコトは情報料を払いそれを見る。内容は好意的な意見が5割、どちらでもないのが3割、否定的な意見が2割だった。まぁ良いほうだろう。


 夜になってマコトは「酒場 母乳」へと通う。ここでもお触れの感想を聞くためだ。


「あら、マコトさん。聞きたいのはお触れの話かしら? 私が聞く限りでは大体好意的ってとこかしら。特にエルフとドワーフには好評よ。あんな奴らと仲良くしなくていいっていうのが受けてるみたい」

「そうか、ありがとう。それとミルクを1杯くれ」


 今回のお触れで一番気にしていたエルフとドワーフの仲をどうするかについて彼らから好意的な意見が聞けたのは大きな収穫だった。

 このお触れで少しでも種族間対立が収まってくれればと彼は思った。




【次回予告】


マコトは1年ぶりとなる戦への準備を着々と進める。

用意するのは新戦力、アレンシア戦役以来の旧友、そして離間の計。


第64話 「戦争前夜」

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