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第6話 順調な滑り出し?

「申し上げます。閣下」

「何だ?」


 肥え太った巨体を揺らしながら王は報告を聞く。


「あくまで噂話程度なのですが……ディオールと薔薇(ばら)の騎士団残党が別の王の配下に加わったそうです」

「そうか……あの野郎くたばってなかったのか。で、どこの王だ?」

「それが……マコトとかいうこの辺りでは見かけない王で、今年の春ごろこの世界にやって来たようです。いかがいたしましょう?」

「どっちみち弱小の王なんだろ? ほっとけ。それより『狩り』はどうなってる?」

「今のところ順調です。あと2ヵ月もあれば次の国に侵攻できるくらいの戦力は確保できるでしょう」

「ご苦労。下がっていいぞ」


 アレンシア国王は部下を下がらせる。ディオールがくたばってなかったのは残念だがまぁいい。もう一度「例の奴」を使えばいい。そう思いほくそ笑んだ。




 太陽が昇り、マコトの国に朝が来る。と同時に起床の合図であるラッパが城に鳴り響いた。それを聞いた薔薇の騎士団団員たちは一斉に身支度を整え、食堂へと向かう。


 食堂と言っても調理室に一番近い空き部屋で、薔薇の騎士団を迎えるにあたって急きょ長いテーブル数個にゴブーやお虎を含めた人数分のイスが置かれた部屋だった。


 団員たちは部屋につくと椅子に座らずそのそばで直立不動の姿勢をとる。そこへ遅れてやって来たマコトに一糸乱れぬ動きで一斉に挨拶をする。


「「「お早うございます! 閣下!」」」

「ああ。お早う」


 最初はろくに「閣下」なんて呼ばれたことが無かった期間が長かったため戸惑ったが3日もすれば慣れた。ようやく本格的に王様らしい立場になれて悪い気はしなかった。


 薔薇の騎士団残党をディオールと共に併合したメリットは計り知れない。数も質もそれなりに揃っておりこなせる仕事の量も質も格段に増えて3人、正確に言えば1人と2匹の頃はカツカツだった生活にも大分余裕が出てきた。


「ああそうだ。団員達が全員集合してるからちょうどいいや。お前らの中に計算が得意な奴はいるか? もし苦手ならはっきりと言ってくれ。変なプライドを持って出来ないのに出来ると言ってしまうと結局出来なくて周りに大迷惑をかけるから、出来ないからと言ってそこを責めたりはしない。正直に言ってくれ」

「……」


 誰も手を上げない。


「閣下、その……彼女らは平民出身で読み書き計算の出来ないものばかりでして……」

「なにぃ? あ、ああ。そうだったのか。すまない」


 薔薇の騎士団というのは口減らしで捨てられた女性たちを、そのままでは奴隷や娼婦となるところを救い上げ、兵士という真っ当な職業に就かせるために作られた組織である。要の団長こそ経験豊富なディオールが担当しているが、それ以外は皆まともに読み書き計算の出来ない者たちばかりだった。


「あのう、大将。それだったらオイラが……」

「何?」




 午後になり執務室でマコトはスマホの電卓機能を使って、それにゴブーは紙切れに手書きで計算しながら国費の管理をやっていた。

 執務室、とは言うが家具屋からタダ同然でもらった、「よく言えば」年季の入ったイスと机があるだけの小さな部屋で、国費の管理と大げさに言ったが実際にやってる事と言えば家計簿をつけるのと大して変わらかったが。


「そっちの計算はどうだ?」

「終わりやした。結果がこれです」

「どれどれ……おおっ、ピッタリだ。さすがだな」


 マコトの国、ハシバ国には彼とディオール以外はまともに読み書き計算が出来ない者たちばかりだったが、意外な事にゴブーはそれらが出来た。しかもマコトが試験として数問、問題を出したが全て間違いなくピッタリの数字を叩きだし正確さもかなり高い。


「意外だよなぁ。ゴブリンのお前が計算できるなんてさぁ」

「オイラのオヤジが人間や魔物相手の行商をしてたんで、基本的な人間の言葉や読み書き計算を教えられましたぜ。にしても大将の『すまほ』とか言いましたっけ? 数字を入れたら自動で計算してくれる機能があるそうじゃないですか。ずいぶんとまぁ便利じゃないですか。さすが異界の王だけありやすね」


 計算を終え、間違いがないことを確認する。ちょうどそのタイミングでディオールがやってくる。


「閣下、謁見したいという人がおります。何でも自分は商人だと名乗っている男だそうです。団員たちが話を聞いたり持ち物検査をした限りでは怪しい所は無いとの事です」

「商人か……よし、わかった。通してくれ。くれぐれも粗相のないようにな」

「ハッ」




 玉座の間で待っていたのは初老の男、それも年を感じさせない筋骨隆々としたたくましい肉体を持っていた。親しい友人に話しかけるような気安い態度でマコトに接する。


「おう。アンタがここの国王(カシラ)かい?」

「そうだが、要件は何だ?」

「おう。俺はアイゼルってんだ。これからここで商売したいんで許可証が欲しいんだ。くれねえか?」

「許可証ねぇ」


 マコトはじっと見る。軽快な表情からは少なくとも悪いイメージは抱かない。


「ディオール、どう思う? 俺は許可証やっても大丈夫だとは思うんだが」

「ふむ……私も同意見ですな。口は粗暴ですが悪党ではなさそうですな」

「よしわかった。ただ時々抜き打ちで価格調査やるから適正価格で売ってくれよ。ぼったくり価格で売るのはやめてくれよな。許可証は後で渡す。今からもう商売始めていいぞ。それと、この辺にいる魔物は国民だから間違っても攻撃するなよ」

「分かった! ありがとよ!」




 アイゼルと別れ執務室での計算を終えたマコトが城の前を視察しにくるとさっそくお虎とゴブーが陳列された商品を眺めていた。


「ああ大将。ようやく街まで歩かなくても酒が買えるようになってずいぶん便利になったよ」

「オイラなんて大将と一緒じゃねえと町に入ることすら出来ねえから大助かりですぜ」


 中々の好感触らしく上々のスタートだった。


「さっそく商売か。魔物だからって価格を変えるような真似は止めろよ。やらないと思うがもしそんなことしたら許可証は剥奪するぞ」

「なあに、魔物だろうが何だろうが客は客だ! ウチの商品買ってくれるなら誰だって大歓迎だぜ! そんなことはしねえさ!」


 さっき会って分かったことだがやはり豪快で細かいことは気にしない性格らしく客が魔物だろうが気にしない。有り難いと言えば有り難いだろう。




 ようやく国らしい国になってきた。そのことにマコトは少し安堵し、同時にこれからを考えると……冗談でも大げさでもなく、「亡国の危機」だ。とマコトは危惧していた。

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