第54話 骨の巨人
都市国家アムネリアに攻め込むヴェルガノン帝国だったがあまり戦況は思わしくない。
常備兵や傭兵の数および質の高さはもちろんのこと、市民兵までも高度に訓練されており、また籠城するに当たり食料を相当な量買い占めており当分の間飢えも渇きもしない。
「都市国家アムネリア、か。さすがに守りは固いな。アレの出番かもしれん。用意してくれないか?」
帝国の皇帝デュークは配下のリッチの1人に指示を出す。最近材料が揃い実用化のめどが立った攻城兵器の実戦投入だ。
数日後……
「だ、団長! あれを!」
アムネリア騎士団の見張り兵が指差したその先には、白い巨大な何かがあった。
全長およそ10メートル、都市国家を守る8メートルの城壁を超える高さの、骨でできた人のような形をした何かが歩いてくるのが見えた。それは極めて不恰好だがまるで、骨でできた巨人だった。
「慌てるな! あれの準備は出来ているな!? たらふく食らわしてやれ!」
団長は指示すると塔上に設置されたカタパルト3基に聖水に浸して聖別して作った、人の身体程もある大きさの石製の砲弾を装填する。
「隊長! 準備できました!」
「よし! 放て!」
団長の合図とともに弾が塔上から放たれる。それはボーンゴーレムの胸や腹を貫いた。白い骨の巨人はぐらりと態勢を崩し、3発の石が貫通した胴体から切れ目が入ってぼっきりと裂け、上半身がズズーンという音を立てて落下し、下半身も地面へと倒れた。
「わは……わははは! ワハハハハハハハ! アンデッドの群れも大したことねえな! ざまぁ見やがれ!」
「しょせんアンデッドだよなぁ! 人間様をなめるんじゃねえ!」
「た、大変だ……。だ、団長! あれを!」
大物を仕留めた事で防衛隊たちに活気が戻る。が、それに水を差すように兵の一人が団長に望遠鏡を渡し、ガタガタと震える指で指差す。
「う、嘘だろ!?」
団長の目には、カタパルト3基の斉射で何とか破壊できた骨の巨人と同じ物が……4体近づいて来るのが望遠鏡越しに見えた。
「次弾! 早く装填しろ!」
団長がせかすが装填には時間がかかる。再びカタパルトから石が飛ばされ、骨の巨人をもう1体撃破する頃には残りの巨人がもう目と鼻の先にまで迫っていた。
骨の巨人が城壁を掴むと、木の洞のように空洞になっている胴体内部から武装したゾンビやスケルトンといった不死者の兵士たちが攻城塔のように整備された内部にある骨製の階段を登り、襲ってきた。
またその中の1体は尖った足の先で城門を蹴り、門にダメージを与えていく。
骨の巨人は攻城戦では城門を殴り、あるいは蹴り壊す破城鎚、または城壁の上へと兵を送る攻城塔の役目も果たした。
「クソッ! 何とかならんのか!?」
ただでさえ津波が押し寄せるように途切れることなく不死身の兵隊たちが城壁目がけて送り出されていく中、城門も絶望の悲鳴を上げるという最悪な状況だ。
「何とか持ちこたえろ! 1秒でもいい! 市民を脱出させるための時間を稼ぐんだ!」
団長が発破をかけるが、焼け石に水だ。
「団長! 城門突破されました!」
「……ここまでか。総員! これが最後の命令だ! 力の限り戦い続けろ! 1人でも多くの市民を逃がすんだ! 1匹でも多くの不死者を倒すんだ! 行け! 行け!」
団長は苦し紛れにそう言うと剣を片手に勝てるわけがない不死者の群れ目がけて突撃していった。
「フム。上々の成果だな」
「まだ光の魔力や聖別された武器への耐性は弱いですが、現地でも組み立て可能な攻城兵器としては充分な成果だと思われます」
「御苦労だった。下がっていいぞ」
都市国家アムネリア陥落の報を受け、また一歩夢が現実に近づいたことに彼はニヤリと笑うのだった。
【次回予告】
メリルは無事に男の子を出産し、マコトは本当の意味で父親になった。だが……。
第55話「出産」




