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第41話 酒場が出来た

 やかましいセミの鳴き声もだんだん静かになっていき、代わりに夕方にはヒグラシの鳴き声が聞こえ始めた頃……。


「何だコレ?」


 マコトの前には立派な酒場が2軒も出来ていた。


「ちょっと待てよ。俺は酒場を発注した覚えは無いんだが?」

「おう。土地が余ってたんで勝手に建てたんだ。行商が持ってくる酒の量では全然足らねえから早めに入居させてくれ!」


 順調にヒゲが伸び始めたドワーフの頭領たち3人はせっかく建てたんだから早い所開店させてくれとマコトに頼む。

 酒のためならば酒場を丸ごと建てる事すらやってのける。さすがドワーフと言ったところか。その生粋の酒好きには頭が下がる。

 幸い2軒とも入居者はすぐに決まり、ドワーフ共をはじめとする民たちには酒が、マコトには家賃収入が転がり込むようになった。




 酒場が出来て1週間。マコトは開店以降、連日のように足しげく通っていた。そのうちの片方、直訳すると「酒場 母乳」という意味になる店に入る。


「あらぁん、マコトさんいらっしゃい。サービスしちゃうわよ」


 店員が投げキッスをして出迎える。ここは彼女たちホルスタウロスが運営している店で、店長から店員まで全員ホルスタウロスである。そのせいかミノタウロスが頻繁に通う店である。それと……


「おばさん、もうお店開いてる?」

「おばさん、また来たよ」


 仕事を終えた子供たちが店に寄ってくる。彼らもこの店には貴重な客だ。


「あら坊やたち。よく来たわねぇ。まぁあんたたちにはミルクしか出さないけどね。お金は持ってる?」


 他所では高級品であるホルスタウロスのミルクが、ほんの少し背伸びすれば庶民でも飲めるお手頃の値段で置いてあるとあって、健康に育ってほしい親たちが子供のために飲ませているのだそうだ。

 ある者は腰に手を当て一気飲みし、またある者は少しでも長く味わえるようちびちびと飲む。




「あ゛ぁ~~~~うめぇ~~~~身体に染み渡るぜえ~~~~。この一杯のために生きてるようなもんだ」

「ったく、相変わらずオヤジ臭えな」


 ミルクを一気飲みした友達にクルスが一言漏らす。それとほぼ同時にミノタウロスの男たちが入店してきた。


「よぅクルス! 今日は休みで飲んでるのか!? 良いぜ女たちのミルクはよぉ!

 ところでクルス、新しいオヤジとお袋さんはどうだ? 特にお袋さんなんてお前とは2~3歳しか違わないんだろ? 若くてピチピチの母親に欲情とかしてねえだろうなぁ?」

「ヒャハハ! いいねぇ。夜はオヤジとお母さんの取り合いってか?」

「バ、バカヤロウ! からかうんじゃねーよ!」


 それを見たのかマコトが息子に声をかける。


「よう、クルス。友達は出来たか? それに仕事仲間とはうまくやってるか?」

「げっ、オヤジかよ。テメェ俺のプライベートに踏み込んでくるんじゃねえよ。「ぷらいばしーのしんがい」って奴だぞ」

「ハハッ、難しい言葉を知ってるな。どこで覚えたんだが。なぁにちょっと顔を出しただけだ。すぐ出て行くよ。ところで、おととい出した宿題の答えは出そうか?」

「『ポーカーと現実の似ているところと違う所』か? 似ているところはブラフ(ハッタリ)が効くこと。違う所は……手札が悪くても降りれない。ってところか?」

「うん、合格だ」


 息子の活躍を見て安心し、注文したホルスタウロスのミルクを飲む。

 地球の牛乳とは比べ物にならない程濃厚で美味な乳で、もう普通の牛乳には戻れないだろうとすら思う、魔性のミルクだ。

 その彼が持つ陶器で出来たジョッキは、やたらと分厚く、重い。


「にしてもこの店のジョッキ、ずいぶん分厚くて重くないか?」

「それなんだけどねぇ、男の人たち力が強いから人間用のだと乾杯したらすぐ壊しちゃうのよね。ごめんね、王様たち人間にとっては重くて」

「いいよいいよ。そう言う事情があるならしょうがねえな。ところで、何か変わった噂は聞いたか?」

「ああ、そういえばあんなことがあったわね。確か……」

「なるほど。情報提供ありがとうな。また来るよ」


 ミルクを飲んで噂話を聞いたマコトは足早に去っていった。




 もう片方の酒場「剣と盾」にマコトはハシゴする。店のドアを開けると熊のような大男が威嚇(いかく)するような目つきで王を出迎えた。


「おお、あんたか。この国の王自ら通ってくれるとは光栄だね。で、何飲む? 言っとくが誰が相手だろうとツケはきかんぞ」

「分かってるって、エディ。とりあえず生、じゃねえエールだ。ジョッキでな。それと何かつまみ作ってくれ」


 マコトはそれに怯える様子も見せずに男に10ゴールド銅貨を5枚渡す。

 エドワード。通称エディ。アイゼルの知人だとかいうこの男は「熊のような」という形容詞がこれ以上にない程ピッタリくる大男で、顔面に走る十字の傷もあってかバーのマスターというよりは山賊か海賊の親玉とでも言うべき見た目だ。


 噂では元は遠い国で有名な凄腕の傭兵だったがケガと体力の衰えから引退し、第2の人生としてバーのマスターとなったという経歴の持ち主らしいがそれも納得がいく。

 そのせいか外ではいきがっている傭兵や荒くれ共もこの店では大人しくしている。




「お待ちどう様でした。エールと、あとおつまみ持ってきました」


 給仕が持ってきたのはエールがなみなみと注がれたジョッキと茹でた枝豆。日本では割りと定番なメニューだ。


 この店でウェイトレスとして働いているエレナはエディの娘らしい。

 本人は幼いころだが母親もいたから実の娘だと言うが、戦場で拾った子供だと言った方がしっくりくるほど父親には似ていない。


 幸か不幸かエディの遺伝子は一切仕事をしなかったようで、父親の面影はカケラ一つたりとも見当たらない少女だ。

 男どもからはそれなりに人気ではあるが父親が父親なだけあって、この店で彼女に声をかける無謀な奴はいない。




 マコトはその給仕が運んできたエールに口をつける。日本で飲んでいた生ビールよりもコクがあり、フルーティな香りがする。爽快なのどごしの日本の生ビールも捨てがたいがこれはこれで美味い。美味いのだが……ぬるいし、酸っぱい。

 こちらでも水のマナを使った冷蔵施設はあるにはあるが一軒の家ほどの大型になり維持費がかかるとの事なので酒場1軒のために置く物ではないそうだ。そのため飲める酒は常温保存されたものかホットカクテルぐらいしかない。


 出来ればキンキンに冷えたエールを飲みたいところだが今のところは叶わぬ夢である。

 他にもワインがいくつかおいているがどれもこれも酸っぱいものだらけというのがこのバーらしい所だ。


「エディ、何か気になる噂話は聞いたか?」

「ああ、そういえばこんな事があってだな……」


 マコトが酒場に入り浸るのは酒が飲みたいというのもあるにはあるが、それだけが目的ではない。

 人が集まる社交場である酒場には様々な情報が集まる。

 国家運営において大いに役に立つ情報もあれば、1ゴールド銅貨ほどの値打ちも無い物まで様々だが、それらを選別し有用な情報を吸い上げる事が大きな目的だ。


「ハシバ国包囲網、だと?」

「ああ。この国もでかくなっただろ? だから潰されないか不安で諸国が手を組んでるそうだ」

「なるほど。追う側から追われる側へ、か。情報提供ありがとな」


 そう言い残してマコトは店を去っていった。

 帰りが遅いとメリルが不機嫌になる。妻子持ちというのは夜遅くまで外出できないというのは地球もこの世界も変わりないのだ。




【次回予告】

血は繋がらないもののこれでも結構良い親子になっていた。そんな他愛ない日常の話。

第42話「親子」

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