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第37話 幼な妻

 都市国家シューヴァルの教会で挙式が行われていた。


「マコト、そなたはメリルを妻とし、その身健やかなる時も、その身病みし時も変わらず、死が二人を分かつその時まで変わらずに愛し続けることを、万色の神の前で、獣の神の前で、友の前で誓いますか?」

「はい、メリルを妻としこれからは共に歩んでいきます」


 ビルスト国から急きょ手配された神父はそう問いかけ、王は答える。そう、これはマコトの結婚式。そして彼の妻となる新婦はメリルだった。




「え? 俺と飲みたい?」


 きっかけはビルスト国王カーマインがマコトと一対一(サシ)で飲みたいと言い出したことだ。

 マコトも馬鹿じゃない。単純に飲み仲間が欲しいってわけじゃなく、何か重大な話があるとは思っていた。


一対一(サシ)で飲むんじゃなかったのか?」

「私の事は気にしないでください。置物程度にしか思わなくていいです」


 指定された日時に用意された部屋にはカーマインの脇にメリルがちょこんと座っていた。

 彼女の言うとおり、とりあえずは気にせず飲むことにした。


 最初はお互いの国の事、信じる神の事といった当たり障りのない話から始まった。色々話していくうちに酔いも適度に回り、突っ込んだ話がしやすい環境ができた、その時だった。


「ところでマコト殿には(きさき)はいないと聞いてるが?」

「え、ええ。一人身です」

「だったらちょうどいい。うちのメリルをやるよ。可愛がってくれ」


 突然の申し出にマコトは口に含んでいた酒を鼻と口から盛大に噴き出した。


「ごほっ! げほっ! がほっ! ちょっと待て! アンタの実の娘だろ!? それを物かペットみたいに!」

「ああ。お前さんの故郷の異世界、たしかニホンとかいう国ではそう言う風習は無いのか」

「そ、そりゃあ昔はあったそうだし、本で読んだり聞いたことはありますけど」

「まぁ家事育児にいざという時の簡単な軍隊の指揮まで仕込んである。減るもんじゃないだろうから受け取ってくれ。それに、うちらとはこれからも仲良くやっていきたいんだ。ある意味友好の証さ」


 現代地球では今でこそ自由恋愛が当たり前になったがそれはごくごく最近の話で、ほんの数十年昔は日本においても「いいなずけ」がいたり、家の関係での結婚というのもごく当たり前に行われていた。

 もっとさかのぼれば戦国時代においては家同士娘を送りあって親戚にすることで同盟を結ぶというのもごくごく普通に行われていた。


「メリル、良いのか? 俺って37のオッサンだぜ? 下手すりゃお前の父親よりも老けた男に嫁ぐようなもんだぞ?」

「うん。大丈夫。小さい国とはいえ一国の王女だからこういう日が来るのは分かってたし、それに、マコトさんなら安心だとも思ってたし」

「今回の話はこれの為か?」

「ああそうだ。単純に飲みながら話がしたかったってのもあるがな。メリルの事、頼んだぞ」


 そのまま引くに引けなくなった格好でメリルを預かることになったのだ。




「姉上、おめでとうございます」

「閣下、おめでとうございます」

「大将、こんな幼な妻(めと)るなんて羨ましい限りだねぇ」


 アレックスやディオール、それにお虎が2人を祝福してくれている。

 それに加えて、もちろんあの男もいた。


「あ、お父様!」

「おお! メリル! 綺麗な姿だな。母さんにも見せたかったな」

「一応はカーマインさんは義理とはいえ俺の父親って事で良いのか? 年齢からしてずいぶんと奇妙な話になるけど」

「ハハハ! かしこまらなくていいぞ。俺もお前みたいなオッサンに父親呼ばわりされると調子が狂うからな!」


 カーマインはマコトの肩をバンバンと叩きながらオッサン呼ばわりする。もしかしたら彼の方がマコトより年下なのかもしれない。


「あ、そうそう。この式が終わったらアレックスも連れてってくれ。お前の下で国家運営のいろはを教えてやってくれ。一応こっちでも教えてはいるが見聞を広めるってやつだ。頼むわ」

「アンタの子供を2人とも預かるわけか、責任重大だな」

「そう固くならなくてもいいって! どっちも最低限の事は教えてるから心配するなよなぁ!」


 再びマコトの肩をバンバンと叩く。彼は見た目通り大分豪快で細かい事を気にしない性格なのかもしれない。




 披露宴は順調に進み、やがて夜が来た。そう。「新婚初夜」だ。


「初夜は無くても良いですって!?」

「ああ。お前みたいな子供に無理強いする程腐ってはねぇ」

「私、大人だもん。12歳なんだから大人よ」

「12? たったの12か? 俺の3分の1も生きてないじゃないか。十分過ぎるくらい子供だ」

「もう! 子供扱いしないで! 大丈夫、出来るもん! 大丈夫だから……その……本当に……大丈夫……だから……」


 初めて会った頃の弓腰姫のような勇ましさはどこへやら。半泣きの顔をされて相手をしてくれと言われたらもう引くに引けない。


「分かった分かった。相手するから泣くのはよしてくれ」

「遠慮とかいらないからね。ちゃんと知ってるから」




◇◇◇




「お早う。あなた」

「言っとくが俺はロリコンじゃないからな」


 翌朝、ニコリと笑うメリルに対してマコトは意気消沈していた。

 12歳と言えば良くて中学1年生、下手すればランドセルを背負っているかもしれない年齢だ。

 37歳の男が12歳少女とわいせつ行為、となると日本じゃ間違いなく警察がカッ飛んでくる事案だ。

 そんな子供相手でも「こなせる」事に男のサガの罪深さを噛みしめていた。




【次回予告】


「何者かに操られたようだった」

アレンシア国に下った魔物や獣人たちは口々に述べた。

その理由を探るべく、賢人との謁見を試みる。


第38話「謎の魔導器具と賢人ハクタク」

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