第28話 豚王暗殺計画の後始末
メリルが放った矢は豚王目がけて一直線に飛び……「肩」に当たった。アレックスの放った矢は豚王の頭をかすめ、当たらなかった。
「外した!」
「当たったけど、肩! 致命傷じゃない! 逃げよう!」
暗殺は失敗だった。2人は脱兎のごとく駆け出し、逃げる。
「閣下! 御無事でしょうか!?」
「クソッ! なぜ気づけなかった!? いいから追え! 追え!」
突然の出来事に混乱する豚王陣営だが、とりあえず狙撃者がいたであろう場所へと向かう。
「何だコレ?」
下に土台が貼りつけてあって垂直に立てられるようにした、厚紙で出来た筒があった。そこから「ドォン!」という轟音と共に何かが空高く打ち上げられ、空に赤い煙が漂う。
「クソっ! 信号弾だ! 急げ! 敵の増援が来るぞ! 俺を射った奴を絶対に逃がすんじゃねえぞ! 逃がしたら殺すからな! 行け! 行け!」
「ハアッ! ハアッ! ハアッ! ハアッ!」
メリルとアレックスは逃げながらも獣の神から加護としてもらった猫の耳を動かす。
「パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ」という蹄鉄が大地を蹴る規則正しい音が何重にも重なっている音が聞こえてきた。
「この音は、馬の蹄!? 姉上! まずいです! 馬が来ます!」
「早く落ち合う場所まで行こう! もっと走って!」
2人は息を切らしながら必死に走るがしょせん人、それも子供の足。彼らを追いかける騎兵達の姿はすぐに鮮明になってくる。
合流地点まであと少しと言う所で騎兵達が剣を抜き、襲い掛かる。
「ぐあっ!」
「アレックス!」
アレックスの肩が切り裂かれる。メリルが弟の方に首を振った瞬間、彼女も背中を斬られてしまう。
万事休す。姉弟は豚王の手に落ちた。
「グヒヒヒヒ、いやあお目にかかれてうれしゅうございますよ。メリル姫にアレックス王子。話したいことは山ほどあるがそれは城でするぞ。連行しろ!」
「敵襲! 敵襲! ぐあっ!」
豚王が2人を連行しようとしたとき、信号弾の合図を見たマコト勢10名の精鋭兵が突撃してくる!
先頭に立つディオールは目にも止まらぬ素早い動きで急所を確実に狙い、敵兵を次々と斬り捨てていく!
遅れてやってきたウラカンもその馬鹿力で相手を鎧や兜ごと大斧でねじ伏せて、エルフェンの放つ矢は針に糸を通すような正確さで的確に相手の頭や喉、胸と言った急所を射抜く。
あっという間に豚王の護衛は数を減らしていき、メリルとアレックスは無事に解放され、ディオール達に保護される。
「またお会い出来て光栄に思いますよ、来兎王。今回はあいさつ代わりとさせていただきます。貴方に手出しはいたしません。ですが、別の日に借りは返させてもらいますぞ。
無論、利子をたっぷりとお付けいたしますがね。お覚悟なさいませ」
「ディオール、テメェをあの時殺せれなかったことを今日ほど後悔したことはないぞ!」
「貴方はまだ若い。後悔する時間はわたくしなんかと比べれば存分にあります。言っておきますが、この程度では済まされませんぞ? ではお暇させていただきます。総員に退却命令を! 引きなさい!」
豚王の背後から増援が迫るのを見てディオールはここが潮時と判断し、退却していく。
メリルとアレックスはハシバ国に保護される事になった。
「申し訳ありません! 暗殺は失敗してしまいました!」
「良いんだ。生きて帰ってこれただけいい」
ハシバ国の王の間でメリルは暗殺失敗にひたすら平謝りだ。
「となると直接開戦してカタをつけるしかないな」
「その戦い、我々も参加させてはくれないでしょうか?」
「何?」
「私も姉上も軍隊指揮の訓練は受けています。どうかお願いです、私たちを戦場に出させてはくれないでしょうか!? 今回の失敗のツケは必ずお返しいたします!」
「指揮官が不足していたら考えても良い。先の事だから正式な話になったらまた声をかける。今日は大人しく休め。ケガもしてるんだろ?」
「は、はい」
姉弟たちは採用に消極的な態度をとるマコトに一瞬不満そうな顔をしたがすぐに襟をただし、用意してもらった寝室で休むことにした。




