第27話 豚王暗殺計画
ようやく寒さが過ぎ去り、暖かい日々が訪れるようになった。国民たちは春の到来を祝う祭りで陽気に踊っていた頃……マコトの所へ訪問者がやってきた。
「閣下、元ビルスト国のメリル姫とアレックス王子が閣下との謁見を求めています。いかがいたしましょうか? 本人の確認はとれています」
「何? わかった、通してくれ。くれぐれも粗相の無いようにな」
「ハッ」
王の間に行ってみると、短く切った髪に鉄の胸当てにズボン、腰には剣に背中にはクロスボウという男のような恰好をした少女と、同じような格好をした少年がやってきた。
「貴方がハシバ国の王、マコト様ですね? お会いできて嬉しく存じ上げます。私はメリル。ビルスト国の元王女です。それと、弟のアレックスです。よろしくお願いします」
「初めまして、だな。想像してたよりずいぶん幼いな。まだ子供じゃないか。それに2人揃ってなんだその耳は? 猫の耳か?」
「そうです。私たちは獣の神からの加護として猫の耳を貰ったんです」
ビルスト国の住民は万色の神の下位神である「獣の神」を信仰している。そのお礼として獣の神は住民に加護と言う形で動物の能力を授けてくれるという。
メリルとアレックスはその加護として聴覚の鋭い猫の耳を貰ったのだ。
「そ、そうか。まぁいい、今回の用件を聞こう」
「単刀直入に申し上げます。私たちは10日後……豚王来兎を暗殺します」
「!!」
暗殺……物騒極まる言葉がまだ子供特有のあどけなさが残る顔から発せられる。マコトの背筋にピリリと衝撃が走った。
「10日後にあの豚王が元リシア国領内を視察するとの事です。その訪問中を狙って暗殺します。どうかご支援をお願いいたします。必ず仕留めて見せます!」
「閣下、上手くいけばアレンシア国を一気に崩壊させることが出来るチャンスですぞ。ぜひとも乗ってくれませんか?」
そばにいたディオールはここぞとばかりに推す。
「しかしディオール、彼らはまだ子供じゃないか! こんな子供に暗殺なんてさせるつもりか!?」
「閣下。時には正論が間違いである時もあります。今がその時ですぞ。アレンシア国を討つ最大のチャンスでございます。閣下、ご決断を!」
「……わかった。活動資金と武器は俺が持つ。必要なものがあったら遠慮なく言ってくれ」
「ご協力感謝します。欲しい物は後でお伝えいたします。では失礼します」
結局ディオールの推しに折れる形でマコトは承諾してしまった。
「ディオール、お前相当な悪人だな。あんな子供に殺しをさせるなんて。今思うとあれがベストな回答だというのは分かってるけどさぁ」
「今は乱世。やむを得ないでしょうな。ましてや国を滅ぼした張本人が相手となればなおさら、ですな」
「そりゃ乱世で殺した殺されたが日常だってのはあるけどよぉ」
暗殺を支援するのが正解だとしてもマコトは渋々承知するという形でかかわることとなり、ディオール主導で計画を推し進めることとなった。
計画はこうだ。視察の日、豚王の周囲を警戒する斥候の中に、イトリー家支持派やカネで買収した者を混ぜてメリルたちが隠れていることを見逃してもらい、気付かれずに豚王一行が近づいてきたところをクロスボウで王の頭を射抜く。というものだ。
場所は森の中に敷いた道路の中でも特に狭い場所。ここなら列は縦に細長くならざるを得ず、豚王を狙撃しやすい。
視察までの間に買収工作を進め、さらに斥候の中に潜り込んだイトリー家支持派と連絡を取り当日の配置について入念に話し合った。
そして視察当日。予定通り斥候からの監視を逃れたメリルとアレックスは、森の茂みの中に隠れその時を待つ。
(来る! 豚王の奴が来るわ!)
(姉上! 伏せてください! ばれてしまいます!)
アレックスは、国を潰した張本人を目の前にしてはやる姉を抑える。2人は弦を引いたクロスボウに神経を集中させる。チャンスは1度だけという現実に緊張は隠せない。
メリルはあの日を思い浮かべる。父親が何故か無条件降伏を受理して城を明け渡してしまってからというもの、国内には重税と圧制の嵐が吹き荒れた。国民たちは見る見るうちに痩せていき、瞳からは精気が消えていった。
そんな生活はもう終わりだ。この手で終わらせてやる!
豚王がクロスボウの射程圏内まで近づいた時、メリルとアレックスはクロスボウの引き金を引いた。