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第14話 戦乱の備え

「ぜぇ! ぜぇ! はぁ! はぁ!」


 食事を終えてしばらく経ったマコトは汗だくになり地面にぶっ倒れながら息を荒らしていた。

 王たる者、剣を持てないようでは話にならん。と午前中は連日のようにディオール直々の指導(シゴキ)が待っていた。


 小中高の間は帰宅部、大学も文化系サークル、社会人になってからもろくに運動をしたことが無いなまりきっていたマコトの身体には厳しい。

 それでも連日続く指導(シゴキ)は効果があったようでどっしりとした体型がやや締まった筋肉質の物へと変わっていった。


「フム。それなりに動けるようになりましたな。今日の所はこのくらいにしておきましょう」

「だろうな。服が1サイズ小さくなったよ。じゃあ俺は各地を視察するから」


彼はヨロヨロと立ち上がり歩き始めた。




「力なき正義は無力だ」


 マコトはつくづくそう思う。

 国家同士の駆け引きというのは軍事力という名の暴力が基本である。力なきものは力ある者に飲み込まれるか絶対服従するしかない。


 ただでさえ今は戦乱の世。誰もが隙あらば出し抜こうと狙っている状況で、裏切りすら当たり前だ。

 古いたとえで言えばモヒカンがヒャッハーと叫んでる世紀末とでもいえる暴力が全ての世界だ。平和というのは軍事力という名の暴力の上にかろうじて成り立っている非常にもろい砂城のようなものだ。


 軍事力は国として発展していく上でも大変重要だし、ましてやアレンシア国という目下の敵がいる以上、絶対に欠かせないのだ。




 城のわきに設けられた射撃訓練場に行くと、普段着の男数名が盛った土壁に置かれた的目がけて真新しいクロスボウで射っていた。


「あ、閣下。視察ですか? 今は民兵にクロスボウの訓練を施していました。有事の際はすぐに徴兵出来る様にしています」


 そう言って指導をしていた兵が今やっていたことを端的にマコトに説明する。


 クロスボウの強みはいくつかある。鉄の鎧を貫通するほどの威力があるのも魅力だが、最大の強みは「弦を引く動作と狙う動作が分離している」事である。

 普通の弓というのは弦を引き絞りながら(・・・・・・・・・)狙う必要がある。これは難易度が高く、試しにマコトがやってみたが弦を引くのに精一杯で的を狙う余裕は全くなかった。 普通の弓兵というのは育成に時間がかかるのだ。


 一方クロスボウは弦を引いて矢をセットさえすれば後は狙いを定める事だけに集中できる。

 このため取り扱いが簡単で農民でも短ければ一週間程度の訓練で実戦投入できるだけのレベルになる。


 地球では手軽かつ強力である故に当時の最高権力の一つであったキリスト教が名指しで「キリスト教徒へのクロスボウの使用を禁止する」と宣言したほどで、その強さは保証つきだ。

 それを知っているからこそ、マコトはわざわざよそから高い金を払ってクロスボウの職人集団を雇ったのだ。


「分かった。引き続き訓練をしてくれ」

「ハッ」




 次に向かったのは城にほど近い空地の一角。

 ビューグルというラッパの一種が鳴るたびに真新しいパルチザンを持った集団は前進、停止、後退、あるいは向きを変えるといった動きをしていた。


「あ、閣下。視察ですか?」


 ビューグルを吹いていた兵がマコトに気付いて声をかける。


「民兵たちに号令を教えていました。進む、止まる、退く、あとは向きを変えると言った具合ですかね」

「なるほどね。引き続き訓練を頼んだ」


 現代地球の軍隊ではラッパはパレードや日常生活にしか使われていないが、この世界では現役の通信手段でラッパの音は遠くからでも聞き取れるため大人数をまとめるためには太鼓と並んで良く使われているのだ。




 この日最後に向かったのはハシバ国入り口とも言える場所。都市国家シューヴァルから伸びる道路からハシバ国への入り口となる要所につくりかけの、木でできた城壁というよりは頑丈な関所とでもいうべき建設物があった。

 ハシバ国には大き目の川が流れており、道路側から進軍するとなると天然の堀になり、城壁が無くてもある程度の防衛力はあったが、それに上乗せする形の本格的なもので、防衛戦の第1段階としての城壁の役目は十分果たせる代物だ。

 ただ未完成であり、この時点では何の役にも立たないものではあった。


「あ、閣下。視察ですか?」

「まぁそんなとこだ。完成まであとどれくらいかかる?」

「これでも急いでいるのですが早くても6週間から8週間はかかります」

「夏の中ごろまでかかるか……まあいい。作業を続けてくれ」


 木製なだけあって城壁としては心細いが、無いと城下町、さらには城まで攻め込まれるのでそれよりははるかにマシとは言えるだろう。

 ただ完成するには夏の中ごろまでかかるというのが気になる案件だったが。




 戦に備えていたのは何もマコトだけではなく、オヒシバもそうであった。

 アイゼルがいつものように商売をしていると、彼がトコトコと歩いてきた。

 初老の商人は彼からの注文の品……茶色い種が40粒ほど入った袋を見せた。


「よおオヒシバ。ちょうどよかった。言われた物、仕入れて来たぜ」

「ありがとうございます。代金はまだボクの球根しか無いですけどいいでしょうか?」

「構わねえ。ずいぶんと儲けさせてもらったからな。まいどあり」


 そう言って球根を受け取り、種を渡した。


「しっかしあの魔物の種を何に使うつもりなのかねぇ。まぁ俺には関係ないけどな」


 入手に少し手こずった、とある魔物の種。植物型の魔物は人間が育てるとそよ風が吹いただけで倒れるような軟弱者にしか育たないため、価値が無いとされてきたものだ。

 アイツの事だから育てるだろうとは思うが深く考えないことにした。客が欲しい物を渡して報酬を受け取る。商人である自分はそれさえできればいいのだから。




「魔物買い取ります。生け捕りにした魔物を売って下さい。高価買取します。

 ゴブリン:1000ゴールド コボルト:1200ゴールド オーク:1500ゴールド トロル:2000ゴールド オーガ:2300ゴールド。まとめて売ると買い取り価格がアップします!」


 アレンシア国に潜入している部下が送ってきた魔物募集の告知を告げるチラシだ。噂ではアレンシア国は魔物を主戦力としているらしく、特にオークがお気に入りなのだとか。

 買い取り価格が上がってるのを見るに「急募」なのだろう。向こうもやる気らしい。それにあの国では食料の買い占めも起きているらしく、出兵中の兵糧確保の為だろう。


 マコトがこの世界に来て初めて戦争を知ることになるのはすぐ後の事だった。

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