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第13話 新たなる魔物

 マコトはスマホの電卓機能を使い、そしてゴブーは紙切れに手書きで計算しつつ執務室で給金の計算をしていた。

 人が増えたので見回りを頼んでいるがその間は外貨を稼ぐ仕事が出来なくなる。また、薔薇の騎士団団員だけでは人手が足りないので移民の中から兵の補充を行ったが、そうすると増えた軍持費が重くのしかかる。


 さらに移民たちは畑を開墾(かいこん)し、または石工や大工、レンガ職人の元で働き始めたが収穫物や家といった目に見える成果が出るのは短くても数ヶ月から長いと1年後……その間はひたすら投資し続けなくてはならない。




 国家という、乱暴に言えば一種の超巨大企業を背負っている今なら分かる。人はコストだ。いわゆるブラック企業がはびこるのも分かる。

 だがそのコストを削減すると後々になって致命傷になるのできちんと給金は払う事にしている。


 ディオールから教えられたというのもあるが、働かせるだけ働かせて給料は出し渋るかつて勤めていた会社の真似はしたくないというマコトの強い意志がそうさせている。

 ゴブーと共に検算をして間違いがない事を確認した時、ディオールが報告のためにやってきた。


「閣下、執務中の所失礼いたします。お時間よろしいでしょうか?」

「何だ?」



- 5分前 -



『本当にあるのかしら? 私たちでも住める国なんて』

『兄貴を信じろって。何でもゴブリンやオーガが奴隷じゃなくて国民として住んでるって話だ。だったら俺達でも住めるって!』

『父ちゃん、腹減ったよー』


 暖かい、というよりは少し暑くなってきた。と言った方が正しくなる陽気の中、一行は目的地を目指して歩いていた。目指す場所は自分たちでも住めるという人間の国。


『確かこの辺りだと思うが……』

「止まれ!」


 家族と思われる、人ではない者達が荷車を押して歩いているのを兵士が止めさせた。


「お前ら! 何しにきた!?」

「エット……仕事ヲ求メテヤッテ来タデス。コノ国ナラトロルデモ雇ッテクレマスト聞イタ」


 トロルはカタコトの言葉で返す。ゴブリンにオーガ、マンドレイクが平気な顔して住んでるからその噂が流れたんだろう。


「そうか。とりあえず閣下に報告する。その後どうするかは閣下次第だな。まぁ、魔物といえど無闇に命を取るようなお方ではないから、安心して良いぞ」


 そう言ってトロルの一家を安心させつつ城へと案内した。




「仕事を求めてやって来たというトロルの家族がいます。いかがなさいますか?」

「トロルか……まぁいいだろう。会って話をしよう。連れて来てくれ。粗相のないようにな」

「ははっ」


 マコトがディオールと共に王の間へとやってくると、すでにトロルの一家が待っていた。


「お前たちが入国希望者だとは聞いている。別に入国させてもいいが、お前たちには何が出来る?」

「ドワーフ程デハナイガ鍛冶仕事ガデキマス。ゴブリンヤオーク相手ニ武器ヤ防具ヲ打ッテマシタデス。身体カラ生エマス草花デ薬マデモ作レマスデスヨ」


 トロルというのは土の精霊の亜種と考えられている魔物である。身体はトロルの肉体でのみ育つ特殊な草花で彩られており、それらに関する薬学にも長ける。

 また金属加工技術にも秀でておりドワーフ程とまではいかないが鍛冶師としては優秀な部類に入る。


「ディオール、どう思う?」

「あくまでトロルでも構わない。という前提になりますが、我が国の発展のためにも鍛冶師は押さえておいた方が良いでしょう。

 まともな鍛冶師がいない現状では武具はおろか日用品の調達すらままならない状況ですからなぁ。

 噂で聞くトロルの腕が確かならそれなりに優秀な働き手となるでしょうな。幸い鉄鉱石は鉄鉱山のあるミサワ国から安く輸入可能ですので原材料の調達には不自由しないでしょう」


「よし、分かった。お前たちを我が国の国民として正式に認めよう。念のため忠誠を誓ってもらおうか?」

「ワカリマシタ。俺達一家、王様ノタメニ忠誠ヲチカイマス コンゴトモヨロシクオネガイシマスデス」


 そう言うと一家5匹の胸から白い光球が3つ、緑の光球が2つ出てマコトのスマホの中へと入っていった。




 数日後




『行くぞ』

『おう』


 トロルの兄弟が城内に設けられた仮の工房で息の合った見事なチームワークでリズミカルに鉄を叩き、形を整えていく。

 今打ってもらってるのはパルチザンという槍である。

 非正規軍が反乱を起こす際に良く使われたことから名付けられたこの槍は比較的扱いやすく、それでいて威力が高いので職業軍人や傭兵程、練度の高くない兵に使われている。


 それと並行してバトルアックスという戦闘用の大斧も打ってもらっている。

 斧は普段マキ割りや伐採などで使っている慣れ親しんだ道具なので、使いこなす訓練にそれほど時間をかけなくても実戦投入できるレベルになり、またかなりの高威力な上に剣と比べれば製造コストも安いので数を稼げる。

 このため急ピッチで軍を組織しなくてはならない場合、特に向くのだ。


「ア、ディオール様。視察デスカ?」

「そんなところです。かなりの量の仕事が入って大変でしょう?」

「イエイエ、仕事ガアリマスノハ良イ事デスヨ」

「ちょっと見せてもらっても構わないかね? ……うん。いい出来ですな。

 貴方たちのおかげでようやくまともな武器をそろえられるようになったのは大きい事です。

 薔薇の騎士団団員も旧式の武器、民兵に至ってはマキ割り用の斧やピッチフォーク、ナタで武装していましたからな」


 そもそも武器というのは人や生き物を傷つけ、殺すことを目的とした道具である。そのため普通の生活を送る上では不要なものであり、そんな物騒な代物が簡単に手に入らないように、武器の流通は厳しく制限されている。


 武器というのは国王や豪商と言った武装組織を抱えられるほどの財力を持った者が、お抱えの鍛冶職人に作らせるものであり、「武器屋」なんてものはゲームの中だけにしか存在しないものだ。




「なぁ、お虎。そういえば何でお前そんなにもキレイな言葉が使えるんだ?」


 最近国民になったトロルはカタコトの言葉だった。一方でお虎は生粋の日本人であるかのような日本語を操る。


「アタシは他の魔物から剣の腕を教えてもらうために西大陸語って言ったかな、人間の言葉を死ぬ気で覚えたよ」

「ふーん」


 そう言えばマコト自身、おそらくは未知の言語であろうこの世界の言葉を理解できる。というか、何故かみんな日本語を使っているように聞こえる。これも王の力なのだろうか。あるいはあの虹色の竜の力だろうか。

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