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第100話 エンリケ海賊団制圧戦

 身を切るような寒さの中、リシア領の軍港を()ちエンリケ海賊団の根城の海域まで2日かけてたどり着いた。最寄りの港で補給をして万全の状態で挑む。


「閣下、ここまで来たら勝つしかないのですが、勝てますかね?」

「大丈夫だ。相手は強い。だが俺たちの方がもっと強い。心配かもしれんが俺たちが勝つ戦いだ」


 海域にエンリケ海賊団の船が出てくる。その数9隻。


「こちら側が7隻に対して相手は9隻。数では不利ですけど……」

「なぁに。あいつらが俺たちの船までたどり着けることはないだろう。射程に入り次第砲撃を開始せよ! 奴らを沈めてやれ!」




「なんだあの船、こちら側に横っ腹を見せてるぜ?」


 まるで「どうぞお好きなところから体当たり攻撃をしてください」とでも言わんばかりに自分たちに側面を向ける船。疑問に思った次の瞬間!

 ヒュウウウ……という何かが飛んでくる音と共に砲弾が船を直撃した。


「な、なんだぁ!?」


 海賊たちは不意打ちに大慌てだ。

 この世界での「海戦」といえば、船の先端に取り付けられた衝角(しょうかく)という物で体当たり攻撃を行うか、無理やり横付けして敵艦に飛び移り、白兵戦を仕掛けるかのどちらかだった。

 ドワーフお手製の大砲は超遠距離から一方的に相手を行動不能、あるいは撃沈させることも可能な「砲撃」という新たな戦法を軍艦に与えた。


「お前たち! 大砲相手でも恐れるな! 近づいて俺たちの流儀を教えてやれ!」




 ハシバ国海軍はひたすら砲弾を敵艦に撃ち込んでいく。1隻、また1隻と海の藻屑(もくず)と化していくがそれでも相手は止まらない。

 3隻目を沈めたところでハシバ国海軍の操舵手(そうだしゅ)が異変に気付く。


「!! な、何だ!? か、(かじ)がきかない!?」


 異変に気付くと同時に船のそばには「舵は占拠した」というメッセージを掲げたマーメイドやマーマンたちが海面から身体を乗り出していた。


「閣下! 敵が言うには舵を動けなくしたそうですがどうしますか!?」

「安心しろ。ソルディバイドの出番だな。出撃しろ!」


 マコトは合図を送った。




「エンリケ様! 敵艦の舵をすべて押さえました!」

「ご苦労だったな」


 海賊団の長である40代の筋骨隆々とした立派な黒ひげを生やした大男、エンリケが部下にそう言う。

 船を3隻も失うという少なくない損害は出たが、ハシバ国とやらに身代金をたっぷりと要求すれば帳消しした上で仕事は終わり。そう思った矢先の事だった。

 突如ヌルヌルした液体が空から降ってきた。雨ではない……油だ。

 と同時に火のついたたいまつも降ってきて、辺りは火の海に包まれる。


「何が起きた!?」

「ハーピーだ! ハーピーの連中が上から油を落としてきました!」

「何だと!? 消火しろ! 急げ!」


 海賊たちは大慌てで消火作業を続けるが、無情にも火の勢いを止めることはできない。次々と油が注がれ炎の花が煌々(こうこう)と甲板に咲く。


「クソッ! 何とかならんのか!?」

「それが、敵ははるか上空にいて矢も魔法も届きません!」

「チッ! 一方的じゃないか!」


 空を自在に飛べるハーピーで構成された部隊は、カッコつけて言えば少なくとも西大陸初にして現時点ではハシバ国のみが保有する「偵察機」あるいは「拠点爆撃機」といえる「空軍」である。

 船というのは彼らから見れば「低速で動く拠点」のようなのもので、敵軍の拠点同様油を持って空から落とし、敵の船上を火の海にするという強力な攻撃が可能なのだ。

 マコトの「空軍」は「世界初の対艦爆撃機」と言える存在でもあった。

 その「対艦爆撃機」を1匹でも多く積めるように商船を改造した航空母艦を用意したのだ。


「お頭! だめです! 消火が間に合いません!」

「チッ! 伝令船を出せ! 俺が乗りこむ!」




「あれは、伝令船か? 攻撃中止命令を!」


 ハシバ国の海軍兵が伝令船がこちら側に近づいているのを見て攻撃を中止させる。数人の護衛とともにエンリケ海賊団長がマコトの船、ソルディバイドに乗り込んできた。


「俺はエンリケ。エンリケ海賊団の頭だ」

「へぇ。お頭直々に出て来るとは結構な事だ」

「今すぐ砲撃および船を燃やすのを中止しろ。舵を壊されたくなければ大人しく言う事を聞くんだな」

「断る。舵を開放しなければお前の船を1隻残らず沈めるだけだ」


 お互い譲らない。

 まず相手のいう事は聞かない。ここで要求を呑むことは出来ない。マコトはしばらく悩むふりをして落としどころと言える案を提示する。


「じゃあこうしよう。俺がお前たち全員を海軍兵や将校として雇うってのはどうだ? こうすればお前たちはメシの種に困らなくなるし、俺も軍事力の増強が出来る。

 まぁ軍隊所属となると海賊暮らしよりもだいぶ窮屈(きゅうくつ)になるがその辺は我慢してくれ。それともお前の船を1隻残らず灰になるまでやるか?」

「……」


 エンリケはしばらく考え込み……


「チッ、分かった。そいつで『手打ち』だ」


 交渉成立だ。


「んじゃあ俺に忠誠を誓ってもらおうか?」

「ああ。俺はエンリケ。これからはお前について行くことにしよう」


 そこまで言うとエンリケの胸から金色の光が飛び出し、マコトのスマホの中に入っていった。


「全軍に戦闘中止命令を下せ」

「お前ら! 戦闘は中止だ! 引け! 引け!」




「閣下、まさかエンリケ海賊団を相手にしたのは……」

「そのまさかだ。あいつらを倒すのではなく取り込む事が狙いだ。海軍力の増強には質、量ともに欲しい逸材だったからな」


 エンリケ海賊団の船を率いるマコトが兵士たちと話をしている。

 この戦いはエンリケ海賊団を「滅ぼす」ためではなく「取り込む」ためだった。


 国が滅びるなどした場合、残された海軍兵や将校は海賊に落ちぶれることはあるし、逆に国に貢献した海賊は海軍将校に任命されることもある。

 地球の場合フランシス・ドレークはスペイン船を襲う海賊(正確に言えば私掠(しりゃく)船)としてイギリスに多大な功績をあげ、海軍将校として召し抱えられたという。


 そんな「海軍と海賊」の関係をマコトは知っており、今回は「海賊を海軍にする」という方向で使った。

 もちろん、ヴェルガノン帝国に対抗できる戦力を確保するためである。


 優秀な船乗りである海賊たちに大砲と航空母艦の技術。これで海の戦力は大丈夫だろう。マコトは一安心した。




【次回予告】

どんな生き物も必ず死んでしまう。普段は忘れているが時には頭をよぎる。


第101話 「死、忘るるなかれ」

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