#2
私は今、同級生に会いに、駅へ向かっているところ。
数年前に小説を介して仲良くなった男子。
今日はある意味大事な日。
「ごめん、おまたせ」
改札を通って彼を見つけ声をかける。
「いや、行こうか」
並んで歩き出す。
「いやー良かったね晴れて。室内だけど」
「そうだね。でも移動時に雨降ってたらやだから」
「それなー。帰りもこのままで頼む」
「そうな」
目的地まで駅から15分。実は先月も会ってるから、その間にあったことなんてあんまり多くなくて(彼もそうらしい)近況報告なんてすぐ終わってしまう。けどなんとか話を繋げながら、道を進む。
着いた場所はスポーツ、ゲーム、カラオケができる施設。とりあえずカラオケの空室を確かめる。
良かった、空いていた。
そのまま入室する。
「カラオケ久々~歌えるかな」
「そうなんだ」
「あんまり行かなくなったや。会える人も減ったし」
高校からの友人は今学校辞めて就活してたりするし。今年就活の友人もいる。あんまりみんなで遊ばなくなっちゃったや。
専門学校には特別仲良い人いないしどうでもいいけど。
「とりあえず何入れる?」
彼にデンモクを渡す。マイクも一緒に。
そっちが先に、いやいやそっちが先に、と3回くらい言い合って、結局彼から入れてくれる。
あれ、いつもそうだっけ?
まぁいいや。
とりあえずドリンクが運ばれてくるのを待つ。
ドリンクを受け取った後、彼がデンモクを操作して曲を入れる。入れ終わるとデンモクが渡される。
私は少し悩んだあと、曲を入れた。デンモクを再び渡す。
しばらくは歌を楽しむ。
「一旦休憩~。BGMになりそうなの入れよ」
少し疲れてそう言った。
彼は頷く。
適当に曲を入れて私はカバンから大きなぬいぐるみを取り出した。
「約束のぬいぐるみでーす」
先月会った時に欲しいって話したやつだ。とあるゲームのキャラクター。地元の台は苦手なやつだったけど、取れて良かった。
「ありがとう。2千円だよね?」
って言いながら彼は財布を取り出す。
「いいよいいよ。プレゼントだって」
って言うけど彼は聞いてない。コートのポケットに入れられてしまった。
「ちょっとー」
って返すけど受け取ってくれない。ポケットもガードされてる。
返すチャンスは来るだろうか……
そして私らは、大事は話をする。
「で、あれ覚えてる?」
「あれってー?」
あえてとぼける。なんか恥ずかしいし。
「わかってるくせに」
それに笑って答える。
「覚えてるって」
笑いを止めて、言葉を続ける。
「んー。初めはね、文章に惚れたんだ。書く話と表現に。私じゃ絶対書けないからね。"自殺"がテーマで、同じような境遇にあったキャラがいて、親近感もあった。なんでオフ会とか出来るまで仲良くなったのかちょっと覚えてなくてショックなんだけど、ネットでの交流も増えた。よく話すようにもなって、その言葉の優しさが嬉しかった。君がかけてくれる言葉はいつも優しいから。ちょっと違うけど似たような思いも持ってて、話しやすくて、親切で。そういうとこかな。簡単に言えば?身長高い人には憧れもある。勿体無いくらい、優しいよ、君は」
「……ありがとう」
「なにか質問は?」
「……ライクの意味じゃない、好きって、いつからって聞いてもいいかな」
「いつからかぁ……自覚をしたのは最近かな。それっぽいものはその前から思ってた気がするけども。はっきりと思ったのは先月」
まぁだけど、と私は続ける。
「私らは付き合えないけどね」
ちょっと辛いけど。
「やっぱりやるの?」
「そのつもりだよ、まだ。ちょっとだけ揺らぎつつあるけど」
「……恋人になったら、辞める?」
「辞めない。生きていけるって、思わない限りは。それを理由に付き合って欲しくないし」
「そっか……」
「私の話はいいよ。忘れて忘れて。じゃあ再開する?」
デンモクを指差しマイクを持って私は言う。
頷いて曲を入れるよう促した。
それからしばらく歌って、退室した。
次は卓球かな。久々だけど大丈夫だろうか。
「やったことあるの?」
と聞かれる。
「部活がそうだったよ。中学の」
なるほど、と彼は頷いた。
卓球台とボール、ラケットを借りて、ラリーをしてみる。
……久々だけど大丈夫そう。ラリーも結構続いてる。
楽しい。時々、卓球台無視したラリーもあるけど、これも含めて、遊びの卓球だなって思う。部活の時はこんなんやってたら怒られるし。
久々だったけど、たまにはいいな。体最近動かしてなかったし。
時間いっぱいまで卓球をやって、次はゲーム。
私がやるのは主に音ゲーだ。
彼も最近はちょくちょくやっているらしい。
とりあえず3種。1種類、筐体が1台しかなかったから交代で。その間別のやってたから、私は4種。
下手になったなぁ。前まで出来てた曲とかわからなくなっちゃった。
まぁいいや。音ゲーも引退時期かぁ…
1日が、終わろうとしている。
最後にもう少し話そうって、駅の近くの喫茶店に入った。
「楽しかったぁ」
「それは良かった」
私はちゃんと笑えているだろうか。
他愛もない話が続く。
「好きってさぁ……難しいよね」
「そう、だね」
「色々な形がある。似たような、違うような、中途半端なのだって。難しいし、最悪本人にもそれがどういう感情なのかわからなかったりする。好きなのか、好きじゃないのか。嫌いなのか。でも好きの反対は無関心って言うし。よくわかんないや」
「難解だね」
「ほんと」
……気軽に会える距離にいるわけじゃないからもし恋人になったらきっと、傷つけてしまう。それで君を失うのは嫌だ。
「……好きだったよ」
彼はそう、言ってくれる。
私が欲しいと思っていた言葉。
「ありがとう。大好きでした」
倖せだって、感じてる。
「死んで欲しく、ないんだけどなぁ」
と彼は言う。
どうしてなのか、私にはわからない。
誰の特別にも、大切にもなれないって思ってるから。
「ごめんね。出会わなかったら、良かったんだけどね……君が気に悩むことも、なかったのに」
でもって、続ける。
「私は……君に出会えてよかったよ」
「……ありがとう」
もう戻れないかな……生きていけるとは思えない。
どんなに楽しいことがあっても、嬉しいことがあっても、好きな人がいても、
苦しみがそれを上回ってしまう。
「……ごめん」
「何を謝ってるの?謝ることはないんだよ。こっちこそごめんね。忘れてくれたら、嬉しいな。少しでも君の記憶に、私がいたら嬉しいな……」
矛盾する感情を告白して、私は立ち上がり、手を振る。
もう、別れの時間だ。
「どこ行くの?」
そんなの、私にもわからないけど、答えるとするなら。
「どこか、遠くだよ」
それに彼は答えなくて、私はそのまま背を向けて歩きだす。
さて、どこに行けるかな。
正直、自分がどうしたいのかわかってない。
「今日は、楽しかったなぁ」
人嫌いなところがある私でも、こう、人と遊んで楽しめることはあるんだなぁとか。
好きになったり、大事だって思える人に出会えたりするんだなぁ、とか。
彼からしたら私はどう言った立ち位置にいるのか未だにわからないけれども。
海を前にして思う。
でもそれが、それが生きる理由になるかって言われたら。
「まぁ……いいや」
私の最期の日には、出来れば楽しいことをして、大切な人達に会って、幸せを感じられたらって、思っていたから。
今日この日を、最期にしよう。