#1
僕は今、1人の同級生を駅で待っているところ。
数年前に趣味で書いてた小説を介して仲良くなった女子。
今日はある意味大事な日。
「ごめん、おまたせ」
改札を通って彼女が僕に声をかける。
「いや、行こうか」
並んで歩き出す。
「いやー良かったね晴れて。室内だけど」
「そうだね。でも移動時に雨降ってたらやだから」
「それなー。帰りもこのままで頼む」
「そうな」
目的地まで駅から15分。実は先月も会ってるから、その間にあったことなんてあんまり多くなくて(彼女もそうらしい)近況報告なんてすぐ終わってしまうけれども、なんとか話を繋げながら、道を進む。
着いた場所はスポーツ、ゲーム、カラオケができる施設。とりあえずカラオケの空室を確かめる。
良かった、空いていた。
そのまま入室する。
「カラオケ久々~歌えるかな」
「そうなんだ」
「あんまり行かなくなったや。会える人も減ったし」
彼女は今月卒業で、今は春休みだからってことかな。
「とりあえず何入れる?」
彼女がデンモクを僕に渡してくる。マイクも一緒に。
そっちが先に、いやいやそっちが先に、と3回くらい言い合って、結局僕から入れることにする。
あれ、いつも僕からじゃないかな。
まぁいっか。
とりあえずドリンクが運ばれてくるのを待つ。
ドリンクを受け取った後、デンモクを操作して曲を入れる。入れ終わると彼女にデンモクを渡す。
彼女は少し悩んだあと、曲を入れた。デンモクが戻ってくる。
しばらくは歌を楽しむ。
「一旦休憩~。BGMになりそうなの入れよ」
それに頷く。
とりあえず1曲入れて、彼女はカバンから大きな何かを取り出した。
「約束のぬいぐるみでーす」
先月会った時に欲しいって話したやつだ。とあるゲームのキャラクター。地元の台は苦手なやつだって言ってたけど、取れたみたいで。
「ありがとう。2千円だよね?」
2kかかったって言ってたなって、財布を取り出す。
「いいよいいよ。プレゼントだって」
って言われるけど聞いてやらない。コートのポケットにねじ込む。
「ちょっとー」
返してくるけど受け取らない。ポケットもガードする。
もーっていいながらもとりあえずは受け取ってもらえた。
返されないようにせねば。
そして僕らは、大事は話をする。
「で、あれ覚えてる?」
「あれってー?」
「わかってるくせに」
彼女は笑って答える。
「覚えてるって」
彼女の顔は真剣なものになって、言葉を続ける。
「んー。初めはね、文章に惚れたんだ。書く話と表現に。私じゃ絶対書けないからね。"自殺"がテーマで、同じような境遇にあったキャラがいて、親近感もあった。なんでオフ会とか出来るまで仲良くなったのかちょっと覚えてなくてショックなんだけど、ネットでの交流も増えた。よく話すようにもなって、その言葉の優しさが嬉しかった。君がかけてくれる言葉はいつも優しいから。ちょっと違うけど似たような思いも持ってて、話しやすくて、親切で。そういうとこかな。簡単に言えば?身長高い人には憧れもある」
なるほど、と頷きながら話を聞く。
そんなことはないって、思いつつも、否定はしない。それじゃあ意味無いから。
「勿体無いくらい、優しいよ、君は」
「……ありがとう」
「なにか質問は?」
「……ライクの意味じゃない、好きって、いつからって聞いてもいいかな」
「いつからかぁ……自覚をしたのは最近かな。それっぽいものはその前から思ってた気がするけども。はっきりと思ったのは先月」
まぁだけど、と彼女は続ける。
「私らは付き合えないけどね」
寂しそうな顔で言う。
「やっぱりやるの?」
「そのつもりだよ、まだ。ちょっとだけ揺らぎつつあるけど」
「……恋人になったら、辞める?」
「辞めない。生きていけるって、思わない限りは。それを理由に付き合って欲しくないし」
「そっか……」
「私の話はいいよ。忘れて忘れて。じゃあ再開する?」
デンモクを指差しマイクを持って彼女は言う。
頷いて曲を入れるよう促した。
それからしばらく歌って、退室した。
次は卓球かな。上手くないけど大丈夫だろうか。
「やったことあるの?」
卓球をやりたいって言ったのは彼女だった。
「部活がそうだったよ。中学の」
なるほど。
卓球台とボール、ラケットを借りて、ラリーをしてみる。
……意外と出来るもんだな。割と続く。試合は出来なさそうにないけど。部活でやってた人とは張り合えないだろう。
久々で感覚わからないって言っててもわからない。多分点数数え始めたら変わるかも。サーブも違うし。
まぁ楽しそうだからいいや。それが1番だし。
時間いっぱいまで卓球をやって、次はゲーム。
彼女がやるのは主に音ゲーだ。
僕も最近はちょくちょくやっている。
とりあえず3種。1種類、筐体が1台しかなかったから交代で。彼女はその間に別のをやっていたから彼女は4種。
下手になったって言ってるけど僕より上手い。そもそも難易度が違う。僕もそこまで行けるように頑張りたいな。
1日が、終わってしまう。
最後にもう少し話そうって、駅の近くの喫茶店に入った。
「楽しかったぁ」
「それは良かった」
僕はちゃんと笑えているだろうか。
他愛もない話が続く。
「好きってさぁ……難しいよね」
彼女から話を振られる。
「そう、だね」
「色々な形がある。似たような、違うような、中途半端なのだって。難しいし、最悪本人にもそれがどういう感情なのかわからなかったりする。好きなのか、好きじゃないのか。嫌いなのか。でも好きの反対は無関心って言うし。よくわかんないや」
「難解だね」
「ほんと」
……僕には、その感情がよく分からないから、僕らは恋人とかにはなれない、けど。
「……好きだったよ」
友達としてでいいなら、それを言おう。
「ありがとう。大好きでした」
彼女は笑ってお礼を言う。
感謝されるようなことはしてないけども。
君がそれで満足してくれるなら。
僕に出来ることをしよう……。
「死んで欲しく、ないんだけどなぁ」
「ごめんね。出会わなかったら、良かったんだけどね……君が気に悩むことも、なかったのに」
でもって、彼女は続ける
「私は……君に出会えてよかったよ」
「……ありがとう」
引き止められる力は、僕にはないんだ。
彼女は言った。
どんなに楽しいことがあっても、嬉しいことがあっても、好きな人がいても、
苦しみがそれを上回ってしまうって。
「……ごめん」
「何を謝ってるの?謝ることはないんだよ。こっちこそごめんね。忘れてくれたら、嬉しいな。少しでも君の記憶に、ボクがいたら嬉しいな……」
矛盾する感情を告白して、彼女は立ち上がり、手を振る。
もう、別れの時間らしい。
「どこ行くの?」
「どこか、遠くだよ」
僕は何も言えなくなって、歩いていく彼女の背中を見送るだけ。
本当にもう、会うことは叶わないのか……。
結局あれから、彼女から連絡はなかった。
ネットだけの繋がりだったし、どうなったかは分からないけど、僕の知ってるアカウントが更新されてないのは確かだ。
彼女は忘れてくれと言った。
彼女は覚えていてほしいと言った。
……なら。
「多分、きっと……いつまでも覚えているよ」
君の最期の日には僕はそばにいれないし、その時期は同じ頃に迎えたいけれども、それが叶わないのならせめて僕が最期の日まで君を憶えていたい。
#2は女子視点です