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西方大陸記~革命のアリーヤ~  作者: 藍空ヨダ
第一章 旅立ち
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いつかの夜

 月明かりが照らす夜の森を、1頭の馬が駆けていく。その背には、ともすれば夜の帳に紛れてしまいそうな黒の外套を纏った男がいた。

 左手に赤子を抱え、右手に手綱を握っている。時おりその腕の中で身動ぎをする赤子を気にかけながらも巧みに片腕で馬を操っている。


「…………そろそろ限界か?」


 どれ程、馬に無理をさせていたのか。目は血走り涎を撒き散らしながら呼吸繰り返している。ちらりと馬の様子を見て、独り言が漏れた。そろそろ馬の足を止め休ませなければ、足をもつれさせ倒れるだろう。


――流石にここまでに来て馬に巻き込まれて死ぬのは御免だ。


 手綱を引き徐々に馬の速度を落とそうと右手に力を込めようとした瞬間、ツンとした匂いが鼻腔を刺激した。


――この臭いは害獣避けの香か?


 ならば目的地はもうすぐそこだ。次いでぼんやりとだが、火の灯りが視界に映りはじめた。灯りを確認したところで、徐々に馬の速度を落としていく。


「誰だ!こんな夜更けに、この村に何の用だ!」


 森のなかにある村落では一般的な集落の周りを堀と柵で囲み、村の入り口には跳ね橋がある。堀の前まで来ると、物見櫓の上から見た所二人いる見張りの男たちの内一人が声をかけてくる。もう一人は、弓に手をかけ矢を番えている。

 黒い外套の男は馬から降り、懐から"あるもの"をとり出し、男たちに投げ渡した。


「村長殿と話がしたい!橋を降ろしてはいただけないか!」


 男たちは投げ渡された物を確認する。ハッとした顔をした後、弓を手にした男が急いで櫓を降りていき、残った男が黒い外套の男の周辺を確認する。


「安心しろ!近くに害獣はいない!」


「……どうやらそのようだな。いいだろう!いま、橋を降ろす!」


 その言葉の後、程無くして橋が動き始めた。黒い外套の男は橋が完全に降りたのを確かめてから馬を牽き橋を渡っていく。


――さて、後は話を通すだけだな。上手く事が運べばいいんだが。


 1つ溜め息をつき、左腕に抱える赤子を覗き見る。月明かりが、栗色の髪の毛をした赤子を照らしていた。


――それにしても。


 黒い外套の男はあることを思いだし苦笑いを浮かべる。


――ここにくるまで、ずっと眠ったままとは恐れいる。全く誰に似たのやら


 全く泣きもせず眠ったままの赤子。隠れて動く分には都合がいいが、ここまで起きもせずとは何かあるのではないかとヒヤヒヤしたものだった、と男は思う。


――一体、将来はどのような乙女になるのやら。


 男は村長の邸宅への道すがら、一抹の不安を覚えるのであった。





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