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Destiny Colors  作者: kimaila
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第一話 -遭遇(であい)-

初めまして。kimailaという者です。

ファンタジー大好きな自分には珍しい「現代サイキックアクション」というジャンル。

どうして得意分野のファンタジーではなく現代を舞台にした小説を書き始めてしまったのか……正直自分でもわからないのですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 10月下旬。午後11時過ぎ。

 無音の雨が降り注ぐ肌寒い夜。傘もささずに歩く青年が一人。


「今日はツイてねーな。ほんと。」


 小声ながらにしみじみとした呟きが漏れる。

 彼にとって今日は厄日であった。自宅に財布を忘れた為に昼食を食べ損ね、講義では非常勤講師と口論になり、つい10分前まで居たバイト先では理不尽で一方的な説教を散々喰らって来たばかりだ。挙句帰路に着いた途端にこの雨である。


―やっぱ、傘持って出た方が良かったな。―


 ぼんやりとそんな事を考えた。

 彼には幼い頃からそういう力がある。かなりの高確率で当たる「第六感」という奴だ。

 家族や親戚の中にはそんな彼を不気味がる者達もちらほら居るが、大概の場合はこの第六感を頼られる。実際彼のお陰で事故や災害を回避した者は何人も居るし、頼りにされるのも確かに無理は無い。

 とはいえ、最終的にその予感に従うか従わないかは本人の意思次第……現に今、この状況がまさにそうだ。


―迷った挙句、面倒臭ぇからって置いて来たの俺自身だしなぁ……―


 せっかく予感が的中していても、それを信じなければ意味がない。


「まぁ良いや。次から気を付けよう。」


 気楽な声でそう自分に言い聞かせるものの、実のところあまり反省はしていない。

 寧ろ彼は、大した事のない予感ならば面倒臭がって自らその予感を無視するタイプの人間だった。傘を忘れて雨に降られる程度の事は日常茶飯事なのである。


「ん?……」


 ふと彼が歩みを止めた。

 通りかかった月極駐車場。雨の中数台の車が黒々とした影を落としているその先に、何か違和感を感じたのだ。


―なんだ?なんか妙だな。―


 一人首を傾げる。

 普段の自分の予感は主に「○○が起きそう。」と言ったものが大半だが、この違和感はそういう類のものとは全く違った。

 明かりの無い駐車場の奥に、ただただぽっかりと広がる闇……それだけ見れば何の変哲も無い風景だが、その黒々と広がる闇の中に違和感を感じるのだ。そう。まるでそこだけ時間の流れが止まっているような……空間が停止しているような……


「……行ってみるか。」


 駐車場に足を踏み入れる……

 真っ直ぐに駐車場の一番奥まで来た彼は辺りを見渡した。突き当りには錆びたフェンスと駐車場の説明看板。その向こうは一戸建ての住宅。駐車場の隅にはビニールテープでぐるぐる巻きにされたボロ臭い蛇口、その側には誰のか知らない洗車道具が放置されている……


―特に変わったものなんて無いよな?……―


 何か見落としてはいないかと思いながら、彼はゆっくりと闇の中を一通り見渡した。だが、この違和感の正体と思しき物は何もない。


―変だな。何かおかしい……何か忘れてるような気がするのに思い出せない時みたいな、このモヤモヤする感じは一体何なんだ?―


 少しイラついているのか、焦っているのか、彼の眉間にシワが寄る。素直に諦めてサッサと帰れば良い筈の事だというのに、違和感の原因を突き止めなければならない気がしていた。

 そう。早く原因を見つけなければ……だが、何が自分をそのように駆り立てているのかもわからない。


―そうだ。こっちは?……―


 駐車場の奥ばかりを眺めていた彼が踵を返す。駐車場の奥で無いのなら、車と車の間はどうだろうか?ふとそう思い立ったのだ。


―車の間とか、下とか……何かあるんじゃ……―


 駐車されている車の間をうろうろと歩き回る。ふと、黒いワンボックスカーと銀色のセダンの間に視線が釘付けになった。

 何かが、倒れている……


「なんだあれ……」


 違和感の正体はあれか?と思いながら、彼は倒れている何かの元へと歩き出した。

 街灯は無い。駐車場にも特にこれと言った照明は設置されていない。道を挟んだ向かいで青白く光っている自動販売機の明かりだけを頼りに歩を進める彼が、ふと、とあるニュースを思い出す。


―駐車場で男性の遺体が発見され……って奴、Webニュースでこの前読んだなぁ……―


 その時点で、倒れているのが一体何なのかを無意識に察している事に緊張を覚えた。


―まさか……な。ホラーゲームじゃあるまいに……―


 そんな筈はない……そう思いたい。

 しかし、こんな時間にこんな人気のない場所に倒れている何か……それだけで十分不穏であるのは確かだ。


―……もし死体だったとしても警察に通報すれば良いだけだよな?……―


 そう。警察に通報すれば良いだけだ。そう信じたい……

 だが万が一、自分が犯人だと疑われたらどうすれば良いのだろう?この月極駐車場の利用者でもない自分が、夜中に偶然死体を見つけたなどと言って警察は信じてくれるのだろうか?ただでさえ若者の犯罪が増加しつつあるこのご時世に……

 それに、仮に警察がその偶然を信じてくれたとしても、見たら一生のトラウマになるような惨殺死体だったらどうする?見つけなければ良かったと後から後悔する事になったら……そう考えただけで確認する勇気が萎えていく……この駐車場に踏み入った数分前の自分がとてつもなく恨めしい。

 嗚呼、サッサと帰れば良かったかもしれない。いっそ今からでも遅くはない。何も見なかった事にして帰ってしまおうか?……


―いやいやいやいや、酔いつぶれた酔っ払いかもしんねーし!サッサと叩き起こして帰らせねーと。風邪引いちまうだろ。―


 すっかり逃げ腰な自分を無理矢理奮い立たせる。死体と遭遇するなんて一生に一度あるかないかだ。そんな筈がない……そう思いながらも、歩を進める毎に顔から血の気が引くのが自分で解る。

 緊張に顔を引き攣らせたまま、とうとう倒れている何かの傍まで来た時、彼の頬を冷や汗とも雨水ともつかない水滴が伝った。

 ……間違いなく人間だ。黒い長袖Tシャツと黒いチノパン。スニーカー……服装だけ見れば男性っぽく見えるが、髪が長く小柄だ……女性だろうか?

 そっとしゃがんで、倒れている人物の肩を恐る恐る掴んだ。その時だった。


―生きてる?!―


 雨に濡れ冷え切った衣服の下から、微かだが体温を感じる。


「良かった……」


 思わず声に出して呟いた。死体ではないと判った事で先程までの緊張が一気に解けていく。

 とはいえ、こんな雨の降る夜中に駐車場で倒れているのは明らかにおかしい。やはり酔っぱらいなのだろうか?それとも病の発作か何かだろうか?いや、何か事件に巻き込まれたのかもしれない。


「あの。大丈夫ですか?」


 とりあえず、倒れている人物を軽く揺らしてみる。これで起きてくれれば一番手っ取り早いのだが……


「だ……れ?……」


 か細い声が微かに聞こえた……声変りして間もないような、少しあどけなさの残る少年の声だ。


―男?!しかも子供?!なんでこんな所で倒れてんだ?!―


 再び心の中に焦りが広がる。こんな場所で子供が倒れているだなんて、どう考えても事件だ。

 暗がりの中、黒い服に身を包んだ少年に外傷があるかどうかまでは確認しかねるが、保護するに越した事はない。


「ちょっと待ってろよ。すぐ救急車呼んでやるからな。」


 そう言ってパーカーのポケットを探る。が、入っている筈のスマホが無い。

 慌ててジーンズのポケットを探り、背負っていた通学用のリュックサックの中も一通り引っ掻き回したが、スマホのスの字も入ってはいなかった。


「……ばっかやろう……スマホまで忘れるとかふざけんなよ俺……」


 ガックリと肩を落とし、彼は溜息を吐いた。

 この近くに公衆電話など無い……仮にあったとしても財布は自宅に忘れている為、小銭も無い。

 目の前で倒れている少年を見つめて数秒程考えた後、彼はおもむろに少年の上体を抱え起こした。

 片手で器用にパーカーを脱ぎ、それを少年の肩にかけてフードを頭に被せる。


「よっこいしょっと。」


 リュックサックが腹側に来るように手を通すと、彼は倒れていた少年を負ぶって歩き出した。

 此処から更に10分程度歩かなければならないが、一番近い交番に連れて行くよりも自宅のボロアパートへ連れて帰った方が正直早い。とりあえずそこで服を貸して事情を聞いて、通報するのはその後からでも遅くは無いだろう。


「やっぱ傘、持って来りゃ良かった。」


 ボソッと零した言葉は、音の無い雨空の下で吸い込まれるように闇に溶けていった。

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