リリカルサイレント-蝶-
「リリカルとは叙情、すなわち感情を述べているのであります。」
「サイレントとは無音、あるいわ黙音を指し示しております。」
艶やかな赤と黒の振袖に、金帯を締めた少女は笑う。
「横山様には解りますまい。 なんせ固いお方でいらっしゃる貴方様に」
蝶のように重力を無視した跳ねを見せる彼女。
あの結びはなんというのか、よもや見たことがない。
あの双方に乱れつつも乱れていない帯の結びは蝶の羽。
跳ねているのではない。
飛んでいるのだ。
彼女は赤い蝶なのだ。
僕は気が付けばココにいた。
縁側から日本庭園が望めるこの奥まった部屋に。
コンクリートジャングルから迷い込んだ僕は、これから得意先に向かおうとしていた。
大事な契約が進んでいる最中だから、そういって新人と気を引きしめていた時だったのだ。
ここはどこだか、わからない。
「黙音で貴方様の感情を述べてくださいまし。 この晴れ渡る青空と春の庭に、私を見てくださいまし。」
声が出ないのか。
声が出せないのか。
僕には解らない。
理解できないこの空間に、彼女。
彼女は誰なのだ、僕は誰なのだ。
「あらもう、お早い方。 せっかちはあまり好かれませんよ、ほらもう解らなくなっているお顔をしてる。」
彼女は笑う、艶やかに。
滴る雫に閉じ込められた光のように。
一時しか生きていられない蛍の光のように。
手が伸びる、追いかける、捕まえる。
そこに声はなく。
何も解らなくていい。
彼女がいれば、それでいい。
「ふふふ、ねぇ貴方様。 ココがどこだかわからなくてもいいですか? お口を開けばお教えしますよ。」
悪戯に笑う、その口元が誘う。
いい、なにもかもいらない。
この場所で彼女と果てることが出来るのならばそれでいい。
赤い着物の隙間から白い足が見える。
黄色の長襦袢がさらに白さを際立たせる。
蹴鞠の刺繍がされている飾り襟から白い首筋が見える。
もう。
もう。
「それならば、いらっしゃいまし。 ここは誰も拒みませぬ、さぁ・・・。」
誘う艶やかな目、鼻、口、首、足。
声はない、僕の声はない。
「リリカルサイレント、感情の黙音。 普段は我慢ばかりされて・・・果てなさい、さぁ・・・。」
蝶が誘う、赤い蝶が誘う。
僕はそれにのしかかる。
正直、かなり未完成なSSですが人前に出すことでここからさらなる肉付けを行えるのではないかと思っています。
批評歓迎いたします。
宜しくお願いいたします。