春・1
あの頃は先のことなんて考えずに毎日を過ごしていた。
だからもうすぐ義務教育の前半を終えるという時にも、卒業式にはどのソックスを履こうかな、なんてことをのんきに考えていた。
なんだかんだと忙しくしている先生たちとは違って、私たち生徒はみんなのんびりと時を過ごしていた。
全員、隣の中学校に行くのだからそのままお引越し、という感覚だった。変わることと言えば制服を着ることと、上下関係ができること、それだけだと思っていた。
だから森田が超名門進学校のT中に行ってしまうという噂が出た時は自分の耳を疑った。
卒業式の三日前、その事実を知らされた私は、次の日の帰り道、森田を呼び止めてしまった。とりあえず中学が離れてもつながりが欲しかった。でも、それを上手く伝えることができなくて、結局「好きなんだけど」なんて、言いたかったけれど言うつもりはなかった言葉が口から出てしまった。
森田は少しも間を置かず「ごめん、好きな人がいる」と言った。
「私の知ってる子なの?」と聞くとへへ、と笑って言った。
「山川桜さん」
そのとき私はさぞかし間抜けな顔をしていたのだろう。森田は珍しく大笑いして、私をその場に残して帰って行った。
卒業式の日、森田はこなかった。その前の日も。あの告白の日が最後なのかと思うとただ悲しかった。仲良しのまるちゃんは、もらい泣きしながら慰めてくれた。だから中学の入学式の日、森田が同じクラスに整列していたときは夢かと思った。




