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ぴょん子  作者: 川本千根
9/19

流血

それは会社に入って半年たったとき、工場長との面接があった日のことだ


面接は定時の5時半すぎに総務部の隣の応接室で行われた


時間にして二十分ぐらいだったろうか

査定の面接が終って私が敷地の西側にある事務所ビルから東側の出荷事務所に向かう途中、開発の人達が工場の構内で自転車に乗って遊んでいるのを見た


トライアル用の自転車だ


あ、かっこいい


私はちょうどその前の日BSで自転車トライアルの特番を観てちょっと興味を持ったところだった


トライアルの自転車でエッフェル塔を登るやつ


「へーヨネちゃんがトライアルに興味を持つとは思わなかったな」

「ヨネちゃんも乗ってみる?」

と持ち主の五十嵐さんが声をかけてくれた


「いいんですか?」

「じゃあ、ちょっとだけ」


そのとき私は面接が終わったことに安堵し少し箍が外れていた


私がトライアルの自転車に乗り始めると来々軒の出前のバイクが構内に入ってきた


「あ、出前が来た」

「ここんとこずっと遅くまで残業なんだよ」


「ヨネちゃん遊び終わったら自転車置き場に置いといて」

と言ってみんな開発棟に帰って行った


こうやって遊んでるから遅くなるのでは?

開発や企画の人達って割りと日が暮れてから働き出す人が多い


私は入ってくるトラックの邪魔にならないよう出荷事務所の壁際でヨタヨタ自転車に乗っていた

当たり前だけど難しい


もともと運動神経が鈍いものだからすぐにバランスを崩した


あっと思って自転車から降りた時ハンドルからサドルに繋がるバーで股を強く打った


横に降りればよかったんだけど前に降りちゃったから


ママチャリとは違ってトライアル用の自転車はバーの位置が高かった


いたあ〜と思ってるあいだに強く打ちすぎて足の付け根がパックリ切れてしまったことに気づいた

制服のブルーグレーのスカートが赤黒く染まってゆく


やだ!どうしよう!

こんなところで



私は動けなかった

こんなところで出血している姿を見られたら噂好きの工場のおばちゃんたちになに言われるかわんない


仕事を終えたおばちゃんたちが続々と工場から出てくる


ヤバイ


だけど、痛くて動けない


こんなに出血して私、どうなっちゃうの

私は自転車を持ったままその場で固まった

その時


「ヨネちゃんみーつけ」

と樹さんに声をかけられた


どうやら出荷センターで遊んで開発棟に帰る途中だったらしい


樹さんは流血してる私を見てはっとした


慌てて駆け寄って来て自分の作業着を脱いで私の腰に巻き


「ヨネちゃん、救急車呼ぶ?」

と言った


やーめーてー




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