三人目
友達は東京に出てゆく娘が多かったけど、私は地元で就職した
大手玩具メーカーの地方工場の地元採用の試験を受けて
通勤にはバスを使っている
駅前で一回乗り換える
通勤時間40分のその工場で出荷の事務をしている
親戚のおばさんたちは口を揃えて「あんたは公務員になるかと思ってた」と言った
私も公務員試験受けようかと思ったけど、ほんのちょっぴり自分のイメージに反抗したくなって、玩具会社を選んだ
その年工場に入った新入社員は工場のライン勤務の大川さんと
私だけだった
あとはサービスセンターに派遣社員の水田さん
大川さんは高卒で入った
水田さんは私と同い年で東京の大学を出て地元にかえってきて派遣会社に入りこの工場に派遣された
私以外の二人はとても可愛い
通勤の時もふりっとした服を着ている
水田さんはちょっとぴょん子と似ている
この二人は工場のおじさまたちや若い男性社員にチヤホヤされていたけど私は全然
あ、でも新入社員なのにしっかりしてるねとよく褒められた
工場のおばちゃんたちにはなんか子供三人くらいいそうだよねぇって言われた
すいませんね、おばさん臭くて
ただ一人だけ、私のことを
「ヨネちゃん可愛いヨネちゃん可愛い」
と言ってくれた人がいた
それが三人目の彼氏になった樹さんだ
ちなみに私の名前は『池上米』という
米と書いてマイと読む
だけど大抵の人は私のことをヨネって呼ぶ
食うに困らないようにおじいちゃんがつけてくれた名前だけど…
センスなさすぎ
江戸時代じゃないんだからさぁ…
それはともかく、この上島樹さんという人が私は苦手だった
樹さんは昼間はぷらぷらいろんな部署を遊び歩いていた
開発部の所属で、図面は夜ひいてるらしい
どうしてこの人がそれを許されていたかというと、樹さんはこの会社に入ってすぐヒット商品を生み出したからだ
不思議な動きをするロボットをデザインしてその関節を滑らかに動かす図面も自分でひいた
そして一年前からそのロボットを主人公にしたアニメも放映されている
樹さんがデザインしたそのロボットは発売から五年たった今でも我が社の主力商品だ
そのあともチョコチョコヒット商品の開発に関わっている
要するにやり手なのだ
鬼瓦みたいな顔をした工場長の部屋もふらり入って行き秘書にお茶を出してもらったりしているらしい
いいの?そういうの…
特別扱いって私嫌い
だけどこの人がなぜか私に執着していた
社員食堂で会ったりすると隣の席に座って
「ヨネちゃんの隣に座れた」
とか大声で言うし
恥ずかしい、こういうデリカシーのない人大嫌い
この会社の女の子はなぜかみんな可愛い
なんとなく顔の系統が似ている
最終面接をした工場長の趣味なのかも…
本社あたりから顔採用って指摘されて、そんなことありませんよ〜ってアピールのために私採用されたんじゃないかな…
多分樹さんは毎年入ってくる可愛い新入社員に飽きちゃったんだな
で、今年は毛色の変わった地味顔な私が入ってきたんで、もの珍しくて、私にかまってんだろうなと思った
あんな出来事がなかったら絶対付き合うことにはなっていなかったと思う