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ぴょん子  作者: 川本千根
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ペットボトルのふた

亮太との一番の思い出は、出会った大学の図書館でも、一緒に泊まった洞爺湖の民宿でもなく、真夏の路線バスの中でのことだ


駅前に大きな書店がオープンしたので行ってみるかと、亮太と私はバスに乗って駅前に向かった


それは真ん中あたりに乗り口があり前の運転手の横で料金を払うタイプのバスで乗り口から後ろは一段高くなっている


私と亮太は一段高くなった後ろの席に並んで座っていた


途中けっこう混んできて通路に立ってる人もいた


だれが落としたのか前のほうのゆかをペットボトルの白いフタがカーブのたびにコロコロ人の足元を縫って転がっている


座席で亮太は実験で使ったハツカネズミの話をしていたけど、私はそのペットボトルのフタに意識がいっていた


駅前の停留所にバスが停まったとき、そのペットボトルのふたは料金箱の少し手前に落ちていた


私たちの前にはバスを降りる人の列ができていて続々とバスを降りていく

だれも落ちてるフタを気に留めない


その列に並んでいる時も亮太は私の方を振り返りハツカネズミの話をしていた


亮太が料金箱にPASMOをかざそうとしたんだけどその前にひょいとかがんで白いペットボトルのフタを拾った


そしてバスを降りたあと最初に見つけた自販機の横のゴミ箱にそれをぽいと捨てた


拾ってから捨てるまで亮太の意識はこれっぽっちもペットボトルのフタに向いてなかった


その間ずーっとハツカネズミの話をしていた


「みんな余ったハツカネズミを肩に乗せたり腕を這わせたりして遊んでるのに、先生が回収しまーすって言ったら、サクッと箱の中に戻すんだよ」

「あの後のハツカネズミの運命を思うと俺は遊べなかったな…」

なんて話を


私はあのとき、無意識にペットボトルフタを拾った亮太が

最高に素敵に見えた


そんなことぐらいでって思われるかもしれないけど…


あのときの亮太が大好きだった


色の濃いデニムに襟と袖口に青と緑のラインが入った白いポロシャツの亮太の姿は今も目に焼き付いている


でも…

もう私には関係ない人だ

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