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ぴょん子  作者: 川本千根
16/19

37回目

私は自分の部屋のベッドに直行し、ドサッと倒れ込んだ


疲れた…なんかとても


あーまだ頭のなかがぐるぐるしている

考えなきゃいけないことがあるような気がするけど頭働かない


だるい、もうこのまま寝ちゃいたい


でも、明日会社あるし、お風呂、入らなきゃ


とりあえずバックの中からスマホを取り出し充電機に繋いで、お風呂場に向かう



湯船につかりながら、周りの人は私をしっかりしてるって言ってくれてたから自分でもそういう思っていたけど、あれって社交辞令だったのかな、私はそれを真に受けてただけなのかな…って思った


ぴょん子の言うことが本当なら私はとてつもなくトンチンカンな人間だ


恋愛体質?ヤキモチ焼き?

そうだったの?

気付かなかった


私、自分自身も地味な見かけに騙されていたのかな


うーん、でも亮太のことは疑いが残るなあ…

ほんとに偶然なんだろうか…


すべてのことが偶然なら間違いなく私とぴょん子は赤い糸で結ばれてるよ…



私はお風呂を出て何年も着込んでクタクタになったパジャマに着替えた


レトロなくまの絵がもう色あせちゃって、輪郭がぼやけてる

でも、捨てられないんだよね


この肌触り

このパジャマだけはいつも私に優しいなあ


なんだか誰かを思い出させる


じんわり涙が出てきた

なんの涙だろうね…




お風呂上がりにキッチンに寄って、いつものように冷蔵庫からヤクルト出して飲んでたら

キッチンに続くリビングにいたお母さんの怒りが再燃したのか、また文句を言い始めた


逃げるが勝ちと、私は慌てて階段を駆け昇った


もう、お母さんが黒いストッキング買ってこいって言うから遅くなったんだよ


でも、それがなかったら真相は藪の中だったな


どっちが良かったんだろう…

なんて思いながら

部屋に戻って何気なくスマホを見たら…


うわっ、なに!


すごい数の着信履歴

わずか三十分ほどお風呂に入ってる間に36件




ああ、相変わらず良識ないな


やっぱり私の好みじゃない、この人


なんて思ってるうちに手の中のスマホが鳴った




37回目のたつきさんからの電話


「はい」

って出たらしばらくの沈黙の後



「付き合う?」

ってひと言、樹さんが言った


私は最後のほうの失礼な態度を謝りたかったし、広報の小沢さんのことも聞きたかったけど


「回らないお寿司をカウンターで食べてみたい」

とだけ言った


電話の向こうでフッと樹さんが笑ったような気がした


「今週の日曜日、いつもの時間、いつもの場所で」

とだけ言って電話が切れた





ふぅ、髪の毛乾かさなきゃいけない、けど…ダメだ体が動かない…


放心状態の私の手の中でもう一度スマホが鳴った


ラインの着信音


ぴょん子からだ


「いやあーヨネちゃんがこんな面白い人だとは思わなかった」

「それにしてもうちら縁あるねぇ〜。ハート」

「今度ガッツリ遊ぼうね。音符 」


















私に…

彼氏ができると

ぴょん子がひょっこり現れる





おわり

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