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あれからどのくらいの時間が過ぎただろうか。
椅子に座ったり、
テレビを見てみたり、
ぎゅっと、ぬいぐるみを抱いてみたり、
なんだか落ち着かず、動いていた方が楽で、そわそわと部屋中を歩きまわっている。
マスターの与えてくれた私の部屋は、1人で過ごすには広すぎて、なんだか、よく分からない感情になる。
よくは分からない。
よくは分からないが、きっとこれが…寂しいという感情なんだと思う。
マスターは、今日、研究所には戻って来ないのだろうか。
窓際へと足を運び、車が来ないかと確認する。
この部屋には何故時計がないのだろう…。
辺りを見回して、時計がないことに気がつく。
夕食は、18時。
入浴は、19時。
就寝は、21時。
そして寝ることが出来ずにフラフラとしていていたのは、足の裏が冷えるくらいだから、1時間くらいはこのままの状態だ。
…ということは、おおよそ今の時刻は22時くらいだろうか…
いろいろと考えていると、研究所の門を一台の車が潜り抜ける。
間違えなく、マスターの車だ。
またドキドキとしてきて、
嬉しくて、頰が上がっていく。
顔全体も暖かくなってきて、きっと赤くなってしまっている気がする。
普段は、出迎えをしている他のロボット達も、今の時間は、寝てしまって居ないだろう。
いつも一歩遅れてしまう私は、
たくさんの人混みの中に入っていくことも出来なくて、
会話をすることも出来ず、もやもやとした感情が少しずつ少しずつ溜まっていたのかもしれない。
今なら、話すことができるかもと、
自分の部屋を飛び出した。
しんと静まる研究所の階段を素早く下り、入り口でマスターを待つ。
思っていた通り、出迎えをするロボットは、私の他には誰も居なかった。
だんだんと近づいてくる足音に、ドキドキしながら、
ぎゅっと目を閉じる。
…なんと言えばいいのだろうか。
おかえりなさいませ、ご主人様?
それとも、普通におかえりなさい。だけでいいだろうか。
マスターが扉の前で足を止め、カバンから鍵を探す音が聞こえる。
「あれ…こっちのポケット…あれれ」
どうやら鍵を忘れて、満寿恵さんのところに行ってしまったみたいだ。
私は、ゆっくり扉を開ける。
「…おかえりなさい、マスター…」
マスターは、ホッとしたような顔で、私を見つめる。
「君がいてくれて、助かった…鍵を忘れて出てしまってたみたいで…、ありがとう。」
頭に微かな重みがかかり、
マスターは、ぽんぽんと私の頭を撫でた。
「えっと、ただいま。」
鼓膜の役割をする膜が、一斉に震えだし、身体まで震えそうなくらいだった。