私が生まれた過去。
私は、高知能ロボットだ。
わたしがマスターと呼ぶ、高 健二という男が、私を生み出したのだという。
私は、数回しかマスターに会ったことがないが、
とても優しい人で、人だけではなく、ロボットにも気を使ってくれる人で、
会うたびに少し身体が震える。
「さすが高知能だね。身体が震えるのは、心臓の脈動を模様したものだよ。君の気持さ。」
と何故か、ニヤつきながらコーヒーをすすり飲むのは、マスターの姉の関 百華という人だ。
マスターは相当変わり者らしく、人間との接触をあんまり好まない性格で、研究所にこもることが多く、
姉の百華がこうしてたまに、弟の様子を見に来るのだ。
私は、自分の震えた場所を確かめるように手を添えてみる。
「ここに心臓を模様した部品が…装備されてるのね…。ねえ百華、じゃあこの震えは故障してるわけではないのよね…?」
百華は、ため息をつく。
「ねぇ、毎回言うけど…なんでいつも呼び捨てかなぁ?これでも、一応、マスターの姉だよ?…マスターのお姉様とか、せめて‘‘さん”は、付けようよ〜」
マスターは、百華のことは、‘‘さん”を付けなくてもいい。と私のプログラムに書き込んでいる。
敬語で話すことは出来る。
でも、したくない。
だから、‘‘さん”も付けたくない。
プログラムのせいなのか、はたまた性格なのか、
私は、性格も兼ね備えた高知能ロボットなのだ。
「久しぶりにやって来たと、思ったら…僕の愛する子に、いちゃもん付けるなら、帰ってもらうよ?百華教授。」
私の真後ろで、もっとも安心する声が響き、鼓膜の役割をする部品が大きく揺れる。
声を聞くだけで、身体全体が跳ねるようにドキドキと脈動を繰り返し、顔が熱を持ってくるのが分かる。
「健。久しぶりに可愛い弟の顔を見に来てやったんじゃない〜、どうせご飯だって、ろくに食べてないんでしょ?…あんたは、ロボットじゃないんだから、食べなきゃ死ぬよ?」
そんな止まらない百華からの、説教をうんざりした顔で、ごめんごめんと、サラっと流し、私を優しい顔で見つめてくれる。
「ごめんね?最近メンテナンス出来てないね。…色んなロボットの修理を依頼されるものだから…、年末はバタバタするね。」
はぁ…とため息をつくマスターの背中をさすろうと手を伸ばすが、何かが私を制御して、なかなか触れない。
久しぶりに会えて嬉しいのに、
他のロボットに優しくするマスターを想像して、勝手に嫉妬しているからだろうか。
そんな私の気持ちに気付いたのか、百華は、笑い私の背中をぐいっと押す。
バランスを保っていた軸がブレ、手は私が乗せたかったマスターの背中にピタっと、くっついた。
マスターは、ビクッと驚いた反応をして、私を見つめたが、すぐに、嬉しそうに微笑み、頭を撫でてくれる。
「癒してくれるの?…ありがと。」
…マスターの笑顔が1番好きなんだと思う。
この笑顔が見れるなら、メンテナンスなんていらない。
壊れてたり、調子が悪いところなんて、治ってしまうような気がするのだ。