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ホリックシリーズ  作者: はせがわ
高校時代編
2/5

Loveaholic(手芸部サイド)

 そういえば、会長さんとまともにお知り合いになったのは、去年の今頃だっけ?

 寒さは去年にもまして厳しくなっているし、今年の心情だって、もうすぐ卒業ってことで寒々しい。

 そりゃあ、会長さんはすぐに友達がたくさんできる人だから寂しくないのかもしれないけど、私は人見知りが激しい方だから、なんだかなー。

 クールな顔つきをしている隣の美丈夫をそっと窺って、はあっとため息をこぼす。寒さで息が白くにごって、それもまた余計に寒さを引き出した。

 せめてもの慰めに、むき出しの手を擦り合わせていると、会長さんは呟いた。


「お前、カイロ持ってないのか」

「んー。会長さんってば、女の子にたかる気―?」

「ばっ、お前なあ……」


 嘘。私を心配してくれてるんだって、わかってる。

 でもね、会長さんってクールなとこばっかじゃないって気付いた時から、こうやって故意にからかいたくなっちゃったんだよね。


「手芸部は、進路決まったのか?」

「うん、決まりましたよー。被服系の学校です。会長さんは……って、聞くまでもないですね!」


 某有名私立大学の推薦枠に滑り込んだという話は、特に情報通でもない私の耳にも届いている。

 アイツがあのレベルで早々に決めてしまうなんて、と先生方が嘆いてるのも聞いたことあるし。


 期待の星には、先生方はT大とかK大だとかに入って欲しかったんだろう。

「あーあ。こうして帰るのも、もうほとんど機会がないんだなって思うと寂しいですよ」


 こうして、帰り道に会長さんがいるってこと自体、部活を引退した今じゃ珍しいことなんだけど。

 去年の冬は、よかったなあ。会長さんから、会長室で作業すればいいって言ってくれたんだもの。

 冷たく淡泊に見えて、実は意外面倒見がいいのだと発覚したあの出来事がなければ、私が会長さんをこんなにも気に掛けることは無かったんだろう。

 学校指定のブレザーの上に着込んでいるコートから顔を出す手は赤くなっていて、私のよりも冷たそうだ。


「はい!」


 同じく生身の手を出して、にこーっと笑うと会長さんは顔をしかめた。


「なんだ?」

「寒いんですよね? 私も寒いんです。カイロも忘れちゃったんで、手つなぎましょ」


 会長さんは深くため息をつく。

 深く刻まれた眉間の皺、でも本当に嫌がっていたら何も言わずに去ってしまうだろう。この人はそう言う人だ。

 真意を確かめるように私の瞳の奥までじっと見て、もう一度ため息をついた。

 どきどきとしたこの気持ちは、ばれていないだろうか。


「俺はカイロ代わりか」


 よかった。ばれては、いないみたい。

 何故だか知らないけど、会長さんは私のことを天然さんだと思っている節があって、私が何も考えずにこういったことを平気で言っているものだと思っている。

 たしかに、私は他の人と比べればちょっとだけ考えなしでとろいかもしれないけれど、天然ではないと思うんだけどなあ。

 たぶんモテるくせに硬派ぶっている会長さんのことだから、出した手なんて無視するのかなと内心思っていたのに、ふいに感じる人の感触。

 冷えきっていて、暖かみなんてまったくないけれど、それでもカッと体中が熱くなってくる。

 手先指先が震えてる。

 ばれて、ないだろうか。なんて考えていると、伝わってくるのは自分のものではない微振動。

 あ、私だけじゃないんだ。そうわかって、なんだかホッとした。

 ぎゅっとすると、微かに握り返された。

 幸せだな、と感じるのになぜだかきゅうっと胸が痛む。

 沈黙が私たちの間に落ちて、それがよくわからないけれど切なくて、泣きたくなった。


「卒業後も、会えるのかな」


 会えないんだろうな。きっと。

 だって、大学どころか進路も全く違うし、去年の会長室の件で鍵のやり取りのためにメールアドレスはかろうじて知っているけれど、それを活用するなんて滅多に無い。

 バラバラになっても本当に会いたい人にはいつでも会えるなんて言うけど、そもそも会いたいと思うのは私だけだ。

 報われない、一方通行。

 これも、想い出になっちゃうのかな。


「会えるだろ」


 会長さんのぶっきらぼうな一言。社交辞令だとわかってても、嬉しくなる。

 この人は、私がどれだけ一喜一憂しているのか、知ってるのかな?


「そうだね」


 内心を誤摩化して、にこーっと笑って上を向いた。そして、思わぬことに目を見開く。

 今年初めての、白い雪が、ふわふわと羽根のように舞い降りて来ていた。

息抜きに高校時代の作品を掘り返す作業が楽しい。

これは主催していた卒業記念の文芸・漫研合同冊子に提出したもの。

イラストもつけてもらいました。

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