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第7話 大隊合流――状況整理 その一

――――――年号 日時ともに不明


現在地 不明


現地時刻 JST 0600







―――いつの時代もどの国も、国防に携わる者の朝は総じて早い。




「工藤二尉、第一中隊総員120名、0600を以って完全集合しました!」




朝日が眠たげに上り始め、霞に包まれた遠くの山岳がゆっくりと陽に照らされ始める早朝。


まだ朝の(もや)も抜けきらず静寂に包まれていた丘に、良く通る男の声が響き渡った。

中隊の副隊長である三等陸尉の声だ。


その前には、現状で最高位の階級をもつ工藤が律とした姿勢で立って報告を聞いている。


副隊長の後ろには、ごてごてしたボディアーマーを着けた完全装備の隊員が整然と並んでおり、零司もその一団の中にいた。


消費電力と装甲の嵩張り(かさばり)を抑えるため、待機状態にしたARTSを身に付け、休めの体勢で直立している。


その脇にはマガジンを抜き、銃身を握る形で立てている50式。


輸送に携わる者以外は、全員がその体勢で立ち並んでいた。


彼らの後ろには、ミリ単位の誤差で並べられたクーガーを始めとする車輌が鎮座している。


自衛軍のお家芸とも言えるこの精密な行動は、その部隊の錬度の現れだ。(といっても、基本的に自衛軍はどの部隊もこれくらいはやってのけてしまうが)


それを正面から見れば、まさに圧巻の一言である。


そんな、まるで王の前に佇む騎士と愛馬のような部下と車輌の前で、工藤は報告を終えた三尉に答礼し普段と変わらぬ顔でこちらを見た。




「全員。 とりあえず()ずは、おはよう。 今朝はよく眠れたか? どうだった、小林」




列の一番目に立っていた隊員が指名され、背筋を伸ばしたままの体勢で答える。




「は! 問題ありません、いつでも状況を開始できます」


「そう言うわりにはひでぇ(ツラ)だな……ほんとは眠れなかったんじゃないのか? ぶっちゃけて言ってみろ」


「は! 実は生まれて初めて、生のドラゴンを見る事ができて一晩中興奮しておりました。 夜間警戒の交代もあったため睡眠時間は2時間です! ですが、問題ありません」




まるでアイドルのライブに行き、興奮冷めやらぬファンのような同僚の物言いに、そこかしこから失笑が漏れた。




「そうか、まあ程々にな。 ただでさえお前は、普段から呆けてるような所があるんだからよ」


「ちょ、二尉! 自分は呆けてなどいません、ただちょっと抜けているだけです!」


「自分で自分のこと抜けてるとか言う奴ほど、脳みそ空っぽなんだろクソバカ。 少しは自分の言ってることの意味を無ぇ(ねぇ)アタマで考えろ」




見栄を張ったような、それでいて結局バカ丸出しの部下の言葉を工藤が一蹴した瞬間、中隊全員が爆笑した。


零司もその例外ではなく、武骨なヘルメットの下にある顔に屈託の無い笑みを浮かべて、くつくつと肩を震わせて笑っている。


実のところ、ひょっとしたら昨日の一件で士気が下がっているのではと、こちらとしても少しばかり心配だったのだがどうやらそれは要らぬ心配だったようだ。

この隊は今日も平常運転のようである。


その時ふと、気になる事を思い出して辺りを見回した。


綺麗な4個5列縦隊で並ぶ隊員の合い間を縫うように視線を巡らせることしばし……すぐに目当てのものを見つけた。


整列している自分たちから9時方向。

オリーブドラブに塗られた高機動車の前に真っ白なドレスに身を包んだ少女と、それに着き添う初老の男が見えた。


ティアとアルフレッドだ。




(向こうも……大丈夫みたいだな)




今回、一番の被害者である彼らだが、見たところ特に問題はなさそうである。

笑っているこちらを見て不思議そうに首を傾げている顔には、疲れやストレスといったものの影は見受けられない。




(ま、タフじゃなきゃ〝こう〟はならないか)




というのは、今後の彼女たちの行動についてである。


ティアとアルフレッドの二人は、これから大隊が合流する村まで共に行動する事になったのだ。


共にと言っても、二人の馬車は馬が死に、本体もかなり損傷が激しいので(うち、ドアをもぎ取ったのは零司だが)隊の車両に乗せて連れていくらしい。


目的の村に着けば、そこで足を借りて王都と呼ばれる街まで帰還するとのことだ。


貴族がヒッチハイカーの真似ごとなど、元の世界でもなかなかお目にかかれないのではないだろうか?




(でも…大丈夫なのか? 乗っけて行っても)




元いた世界の役人に言わせれば、これはとんでもない大問題である。


成り行きで戦闘に巻き込まれた民間人を武装した部隊に随伴させ、車輌に乗せてそのまま連れ回す。 これは自衛軍の職務範囲を逸脱した違法行為だ。


とてもじゃないが「民間人が困っているんだから仕方なかった」では到底済まされない。


確かに、自衛軍の副次任務には人命救助が含まれるが、それはそれ。

そういう場合は国の正式な命令を受けての任務であるうえ、決まって災害派遣や復興支援という名目ありしの行動になる。


今のような非正規かつ非常事態の流れに任せて異国の民間人を連れてゆくという行為は、最悪、国際問題になりかねないのだ。




(これを市ヶ谷に報告したら、絶対俺も証人喚問で呼ばれるんだろうなァ~……)




なにせ自分は某番組の第一村人のごとく、ティアたちと接触したのだ。 説明を求められたらどう話そうか…




「……はぁ」




零司は、周囲に気付かれないくらいの小さなため息をついた。


そんな零司を差し置いて、まだ隊員たちの笑いが冷めやらぬなか「まあ、冗談はここまでにしてだ」と工藤が切り出した。


珍しく凛々しい面持ちを浮かべてこちらを見やると、




「これより第一中隊は、昨日(さくじつ)、第二中隊が発見し現在駐留している集落への移動を開始する。 途中、第三中隊とも合流し、最終的には集落にて大隊を再編成する予定だ。 なお、移動中は対空警戒を厳としてくれ。 昨日のようなのが再び現れる可能性も捨てきれん、どんなものでも発見次第警告しろ。 敵との接触時は可能ならばやり過ごすが、回避が不可能な場合は俺の指示を受けてからの交戦も許可する。 各員、昨日の今日でいささかキツイ部分もあるだろうが、日頃の訓練の成果を見せる時だと割り切って職務に努めてくれ」




最後に、工藤はこちらに向かって敬礼。


自分たちもそれに答礼し、




「以上をもって終了。 状況開始。 総員、搭乗!」




掛け声とともに全員が一斉に散り、それぞれ自分の乗る車輌へと向かった。







◆ ◆ ◆







「――――――待て、灰島」




他の隊員に混じりクーガーに向かう途中、背後から声をかけられ零司は立ち止った。

声の主が誰かなどと考えるまでもない。 隊でこうもぶっきらぼうな声をかけてくる人間は一人しかいない。


隣を歩いていた手塚に目をやると「お前何したの?」とばかりに訝しげに片眉をつり上げる無言の問いかけが返ってきた。


そんなもの知るか。


零司と手塚は足を止め、二人して振り返る。




「何でしょうか。 二尉」




言った先、3分前までは頼もしい上官といった風情であったはずの工藤が、いつもの気だるげな顔を張り付けて歩いて来るところであった。


その後ろには……二人の隊員にエスコートされるティアとアルフレッドの姿。


頭の端っこで直感がささやく。

なんとなく厄介事に巻き込まれそうな雰囲気だ。




(なぁ)にもあるか。 お前、自分が助けた人間()っぽり出してどこ行ってんだ」


「……放っぽりって…申し訳ありません二尉、仰っている意味がよく理解できないのですが……どういうことです?」


「ったく頭の回転(わり)ぃなーこのバカは。 使えねえ」


「ひどいッ!?」




この上官、こっちを罵るにしてはいささか唐突すぎる物言いである。


しかしその舌禍にも慣れてしまうとどうという事もなく、零司はため息ひとつ。

不機嫌そうに眉根を寄て「いきなり話しかけてきて話を察しろと言う方が無理です」と言い返した。




「それで、何なんですか? いきなり不躾に」




相手が相手なだけに、こっちも自然と砕けた口調になって尋ねる。




「だからな。 この御二方おふたかた、成行きとはいえお前が助けたんだからお前が全部面倒みるのは当たり前だろうが。 なのにどこ行ってんだ。 お前が乗るのはアッチ」




と言って、工藤は親指で背後に停められたHMV(高機動車)を指す。


その車内ではドライバーを務める隊員が、「まだか?」と言いたげにじっとこちらのやり取りを見ていた。 向こうは前々からこの話を聞かされていたらしく、待たされることに少々不満そうだ。


まあいい、それはともかく、




「わけが分かりません、工藤二尉」




零司は、それはもう綺麗な笑顔でこう言った。

そのスマイルたるや、隣の手塚が「うわ、キモっ」と言って身を引くほどだ。


仕方なかろう、と内心で呟く。


二人を連れていくことは、あらかじめ連絡で知っていたが、それに自分が直接関わるなど微塵も聞かされていない。


それを突然やってきて勝手に命令して挙句に実行しろなどと…しょぼい中堅商社の上司じゃあるまいし。


そんな状況ならば笑うしかあるまい。


だいたい、部下(こっち)が助けたからと言ってそれ以降の対応を全て下に投げっぱなしにする指揮官がどこにいる。




「……ここにいたよ…」




そう言って頭を抱える。

自分で言って、ダメージを受けてしまった。




「……つまり二尉は、この二人の身辺警護ならびにその他一切のサポートを自分に一任すると…そういうことですか?」




工藤は一度言いだしたら聞かない。

それは今までの経験で理解しているので、零司は半ば諦めと確認の意を込めて訊く。


その際、工藤の隣に立つ二人を盗み見る。


じっと事の成り行きを黙り見るアルフレッドと、不安げな表情のティア。

わざわざ二人を連れてきたのは、渦中の人物がいればこちらが了承せざるを得ない事を予測していたからだろう。


「昨日の一件で被害を被った者を前にして、彼らの頼みを無碍に出来るか? コイツはそんなこと出来るわけがない、長いこと上官を務めてる俺ならわかるよ」という工藤の狡猾な考えあってこそだ。


まったく、せこい奴だと零司はつくづく思う。




「そういうこった。 まぁ、全部お前一人でやれとは言わん。 お前の人選で、部隊から何人か引っ張ってきてもいい」


「こういった場合、自分よりも衛生科の隊員の方が適任だと思われますが」




と言って、少しだけ自分に舌打ち。

これではまるで、自分がティア達の面倒をみる事を嫌がっているようだ。


それでも、戦闘職種よりは衛生科の隊員の方がこういった事は得意のはずだ。




「かも知れんな。 だが、二人の事は隊の中でもお前が一番よく知っているだろ。 だから選任してんだ」




「ま、知っているっても他よりちょっとっつーぐらいだがな」と工藤は付け足す。

そんなんでよくもまぁ、と零司は呆れたように息をつく。


そうして、




「……ここまで引っ張っておいて今さら言うのもなんですが、これは決定事項なのですか? 俺は根っからの戦闘員ですし、こういう接待みたいなことは苦手なんですが」


「取り立てて何かしろってわけじゃないんだよ、零司君。 民間人の護衛だと思えばいい。 それでも不服か?」


「不服ですけど……了解。 それと、ついでなんで意見具申します。 クリフォード嬢は女性です。 その面も配慮して隊のWAC(女性隊員)を1名、自分たちに同伴させて頂きたいのですが」


「そうだな。 構わん。 好きにしろ」




と、これで自分たちの話が無事に纏まったと理解したのか、ティアが少し嬉しそうな顔でアルフレッドを見上げた。


アルフレッドも、それに応えるように頬を緩ませている。


そんな光景を目の当たりにすると、頭に浮かんでいた工藤に対する文句は言えなかった。 だが反面、ますますこの男の手のひらで自分は転がされていたのだと理解出来てしまい、少し複雑な気持ち。




「了解。 それではすぐに人員の編成を行い、その旨を報告いたします」




零司はそんな心情を微塵も出さず、敬礼。

工藤の答礼を受けて身を翻すと、速足にその場を後にした。








◆ ◆ ◆







「それでそれで! この子が昨日、灰島二曹の助けた女の子なんですかっ?」





ため息をつくにはまず息を吸わなければならない。


当然、息を吸えば周囲の空気が肺の中に入ってきて否応なくその匂いが鼻腔をくすぐる。


泥とも土ともつかない埃の匂い、身に付ける使い込まれた装備に染みこんだ匂い、ガソリンとは違うディーゼルエンジン特有の排気ガスの匂い。


それらは軍と名のつく職場にいる人間なら万国共通で知っているものであり、自分の場合のそれはクーガーや高機動車の中にいる時に嗅ぐ匂いだった。


その中でも一番気になるのが、雨に打たれ、爆炎と土にまみれ、少し汗臭い自分の体臭。


「俺って臭くないよな」などと、少しの退屈とはっきりとした鬱陶しさを張り付けた顔の下で零司は考えつつ、




「うるさいぞ、篠原。 彼女はあくまで俺らに同伴するだけの民間人だ、失礼の無いようにしろ」




という一括で、嬉しげにはしゃぐ部下の頭を押さえた。







―――青空を背景に、緑の草原を突っ切る一本道をオリーブドラブで統一された軍用車両が列をなして走り抜けていく。


先頭には重機関銃を搭載した高機動車。 その後ろにトラックと非武装の高機動車が続き、車列の後半にはIFV(装甲戦闘車)とクーガーがくっついていた。


現在、自分たちはそのコンボイの真ん中を走る高機動車の中にいた。


一般的な配置の前・中席の後ろ、後部座席で向かい合うように配置されたシートに着き、一路、目的地の村まで揺られている最中である。




「え~、失礼じゃないですよ。 退屈な道すがら、お互いの自己紹介をしようとしてるだけなんですから」


「退屈なってお前……そういうのは、学校や職場の仲間相手だけにしろ。 初対面の相手にそんな態度取るなんざ、失礼云々の以前に社会人としてマナー違反だろうが」


「ぶぅ~、灰島二曹のケチ~」




あくまで上官たる態度でそう窘めた相手―――中隊の中で数名しかいないWACの一人、篠原梓紗(シノハラアズサ)一等陸士は不服そうに唇を尖らせた。


鉄帽(ヘルメット)の下から覗く栗色のショートヘア、くりっと丸い目、整った顔つき。


これらの武器を持った、まだ二十歳の女の子がそういう事をすると嫌でも可愛く見えてしまうが、それはそれ。 零司は教育期間中に性欲を削ってまで鍛え上げた精神で平常を保つ。




「あ、あの、私たちは皆さまのご都合に便乗する形でこの〝馬車〟に乗せてもらっているわけですし……そこまで気を使っていただかなくても」


「そんなことはない。 と言うより、アイツの場合は適当に躾とかないと調子に乗るからな。 だから、そんな謙遜しないでいい」


「ひっ……わ、わかりました」




途中、申し訳なさげに言ったティアが怖がるように首を引っこめた。


彼女の正面に座っていた隊員―――骸骨(スカル)がプリントされたバラクラバ(目出し帽)とサングラスがトレードマークの冴木仁(サイキジン)二等陸曹は、それを見て困ったように首をかしげる。




「……なぜだ」


「いや考えるまでもないだろッ!? お前のそれだよそれ! トレードマーク!!」




呻くような疑問の言葉に、すかさず手塚がツッコミを入れた。

自分の顔を指すようなジェスチャーを交えつつ、呆れた様子で、



「そんなおっかない格好してて相手がビビんないわけないだろ! というかお前、ついこの前の駐屯地祭で子ども泣かしたばっかだろうが!」


「アレは俺のせいじゃない。 泣いた子はお化けを見たと言っていたからな。 きっと他の隊員が被り物でも被ってたんだろう」


「なに勝手な勘違いしてやがる、それお前だよ! おーまーえーッ!」




他愛ない二人のやり取りに零司は小さく息をつく。

仲間がこうして〝和やかな〟コミュニケーションを取ることは同じ隊員としても好ましいことだが、さすがに時と場合のメリハリは必要であろうに……


零司は小さくため息をついて、正面に座るアルフレッドへと向き直った。




「御目汚しして申し訳ありません。 こんな連中ですが、腕は確かなので」


「いえいえ、こういう場が賑やかなのは良いことです。 そうおっしゃらずに」


「恐れ入ります」



とは言っても、このやり取りをしている二人が自分と同じ二曹だということを知っているこちらは、内心穏やかではない。


こいつら下士官としての自覚はどこに行った?




「それとハイシマ様。 昨日より思っておりましたが、私めのことはバークリーではなくアルフレッドとお呼び下さい。 その方がこちらも聞きなれておりますので」




ふと思い出したように紡がれた言葉に困惑。


そう言われても困る。


こちらにとってアルフレッドは民間人だ、しかもほぼ初対面の。

そんな相手に馴れなれしくするのは社会人として憚られるような気がするが……こういう特殊な状況だと、どうすればいいのだろうか?


零司はしばし考えたあと、




「……分かりました。 アルフレッドさん」




そう言うと、アルフレッドは穏やかに笑った。

これを見て何を思ったのか、彼の隣りに座ってこちらの会話を見ていたティアがいきなり身を乗り出すと、



「あ、なら私のこともティアって呼んでください。 私も年上の方に仰々しくされるのはちょっと苦手で……」


「いや、流石にそれは……」




零司は今度こそ本当に困惑……というより動揺した。


昨日アルフレッドに言われた通りなら、ティアは名家のお嬢様だ。

その侍従に対してすら敬語を使うか使わまいかと考えていた身の上では、たとえ子どもでもそんな〝おエライ〟お方に私語で話しかけるなど恐れ多い。


が、そんな心境を見透かしてかティアは上目づかいにこちらを見つめ、




「だめですか?」


「む………」




悩む。

口を一文字に閉じて零司は悩む。

未だに騒いでいる手塚たちをそっちのけで悩む。


ティアの隣に座っているアルフレッドに助けを求めるように目をやると、帰ってきたのはどうすることもできないといった肩透かしのみ。


流石に侍従という立場があるからか、無難な回答である。


どうする?


悩んで悩んで悩んで……そうして最後は、




「分かりました。 じゃ、これからはクリフォードさんの事はティアと呼ばせてもらいます」


「………でも敬語じゃないですか」


「……あーもう、分かったからそんな目で見んな! それじゃあこれからティアって呼ぶから……これで良いか?」


「はい!」




結局、零司が折れる形で話は纏まった。




「んじゃ……アルフレッドさんもティアも、俺たちのことは名前で呼ぶように。 いちいち『様』とか付けられるのは立場的に困るんで」


「良いのですか?」




とはアルフレッドの言葉。


良いも何も……こっちが譲歩して名前で呼んでるのに、その相手に様付けで呼ばれるなど矛盾極まりない。


零司は、ずいと身を乗り出して二人を交互に見やった。




「お願い、します」




その剣幕に押されたのかは分からないが、二人は少し戸惑った後、こくりとうなづいた。




「よし。 それで、ひとつ訊きたい事があるんですが良いですか? アルフレッドさん」


「あ、はい。 何でございましょうか、レイジさ……レイジ」




まだ言葉づかいから敬語が抜けないアルフレッドだが、それは気にせずに零司は出発時から頭の隅で考えていたことを訊く。




「伺ったところによると、二人は王都という街に帰る途中だったんですよね? なら、この先にある村のことも知ってますか?」


「ええ、はい。 この道を進んで辿り付くのはソラーナ村で御座いま……です。 比較的小さな村ですが、王都から伸びるこのエストリア街道が縦断しているので、商店や宿屋などが多く活気のあるところですよ。 村人は皆、気さくで良い人ばかりですし」


「そうですか。 それを聞くかぎり、自分たちも少しは休めそうなのでホッとしました」


「ほっほっほ。 皆さま、大所帯なので宿屋の者はさぞや喜ぶでしょうな」


「そうですね」




言って零司とアルフレッドは二人で笑った。


というものの、その内心は少しも安堵などしていない。


アルフレッド曰く、目的地のソラーナ村は活気があるとのことだったが……活気があるいう事は、それだけ治安組織や警備職がある可能性が高いことを示している。


おまけに王都という都市から伸びている街道となれば物流にもそれを利用しているのだろう。


という事は、これからしばらく駐留する以上は、自分たちの情報が広まってしまうという事にもなる。 物が流れる以上は人も流れ、人が流れれば噂も流れるからだ。


これが何を意味するか?


所属不明、どこから来たかもわからない。

そのうえ見たこともない格好で身を固めた連中がいきなりやってきたとなれば、どういう反応が起こるか考えて欲しい。


こういう場合、一般的な国家や勢力が示すのは拒絶と警戒しかない。

自分のテリトリーの中を大規模な部隊が移動しているとなると、向こうも何かしら動くことは明白である。




(この先の村、第二中隊は難なく入れたらしいけど……あと二個中隊も受け入れないとなると…)




最悪の場合、ひときわ大きな問題が起こる。


大規模な部隊を動かすと言う事は、仲間がいて安心する反面そういう危険性も孕んでいるのだ。


※訂正箇所があったので直しました

タイトル「第8話」→「第7話」

篠原の所属が衛生科でしたが間違いなので訂正しました

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